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2020.08.19
IgA腎症は、腎臓の糸球体(毛細血管の塊)が炎症を起こし、血尿とタンパク尿が持続的に生じる慢性糸球体腎炎の一つです。わが国でみられる慢性糸球体腎炎の中では最も多く30~40%を占めており、発症率は10万人当たり年4人前後と推定されています。慢性的に病気が進行した場合、数年から数十年で腎機能が低下し、透析や腎移植が必要となることもあります。健診時の検尿異常(無症状の血尿やタンパク尿)がきっかけでIgA腎症だと分かることが多く、腎生検と呼ばれる腎臓の組織検査などの精査で確定診断を行ない、治療へと進みます。
はっきりとした原因は不明ですが、マルチヒット仮説というものが提唱されています。主に、喉や鼻の奥にある扁桃腺に代表されるリンパ組織への感染(上気道炎など)や、鼻腔内への抗原による刺激で、免疫グロブリン(免疫を調整するはたらきを持つタンパク質)のIgAが異常な形で過剰に作られ、それに対して産生された抗体とくっつきあって免疫複合体を形成します。それが血流に乗って、腎臓の糸球体のメサンギウム領域という場所に沈着して腎炎を起こすと考えられています。
肉眼では分からないほどの軽微なもの(顕微鏡的血尿)から見て分かるもの(肉眼的血尿)まで、血尿は発症の初期に8割以上の患者さんにみられます。肉眼的血尿の場合はコーラのような色をしていることが多く、風邪などの上気道感染後、半日~3日後ぐらいにみられます。時に肉眼的血尿とともに急性の腎機能障害を起こす場合があります。
タンパク尿は、間欠的または持続的にみられます。また、血尿やタンパク尿のほかに、急性腎炎やネフローゼのような症状(腎機能障害や高血圧、全身のむくみなど)があって発見されることもあります。
慢性的に腎機能障害をきたし、透析療法や腎移植などの治療が必要となることもあります。1990年代までは予後が良好な病気と考えられていましたが、診断後20年の経過で30~40%、30年で約50%が末期腎不全に至ることが分かったという経緯があります。
IgA腎症であるとの確定の診断を行なうには、腎生検という腎臓の組織検査が必要です。
治療薬として主に用いられるのは、レニン・アンギオテンシン系阻害薬、副腎ステロイド薬、免疫抑制薬、抗血小板薬です。わが国では近年、有効な治療法の一つとして扁桃腺摘出とステロイドパルス(ステロイドを大量投与する方法)の併用療法を採用する病院が増えています。そのほか、n-3系脂肪酸(魚油)の使用が検討されます。治療法の適応については、尿タンパク量や腎機能の程度のほか、腎生検による組織の状態や年齢なども考慮されます。
腎機能低下がみられる場合は、IgA腎症以外が原因となる腎不全と同様に、高血圧、貧血、脂質異常症、糖尿病、肥満の治療や、減塩食、禁煙などの生活習慣の改善も必要となります。
IgA腎症の発見のきっかけは、健診時の検尿異常が70%を占めています。症状はなくても尿検査で血尿やタンパク尿の指摘を受け、精査によって診断されることが多いのがこの病気の特徴です。血清のIgA値は必ずしも上昇するわけではなく、半数以上は血清IgA値が315mg/dL(この値は通常は検査の正常範囲内)以上の値を取ります。わが国では、IgA腎症患者の8割近くが、多くは症状がないか、時に少し血圧が高いとか軽度の腎機能障害があるといった、IgA腎症が比較的早期の状態で発見されています。家族内で発症することも時にはあります。尿潜血や尿タンパクなどの検尿異常や採血での腎機能障害を健診などで指摘された場合は、かかりつけ医に相談するか、腎臓専門医の診察を受けてみてください。
先述の通り、はっきりとした原因は判明していません。ただし、他の慢性糸球体腎炎と同様に、早期発見・早期治療で完治する患者さんもいます。無症状であっても、検尿で尿潜血や尿タンパクが陽性の場合は、IgA腎症を含む慢性糸球体腎炎の可能性があります。無症状のまま慢性に経過し、末期腎不全となることもあるので、検尿や採血の結果により経過観察中の場合は、症状がみられないからといって自己判断で定期診察や検査を中断しないようにしましょう。
診断や治療法の検討のため腎臓の組織検査を担当医から勧められた場合は、組織検査施行のメリットやデメリットを担当医とよく相談の上、患者さん本人とご家族で検査を受けるかどうかを検討してください。
解説:町田 健治
みすみ病院
腎臓内科医長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。