社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2025.04.23

脂肪萎縮症

lipodystrophy

解説:岩屋 智加予 (大牟田病院 内分泌内科)

脂肪萎縮症はこんな病気

脂肪萎縮症とは、皮下脂肪(皮膚と筋肉の間の皮下組織に蓄積される脂肪)や、内臓脂肪(胃・腸などの内臓につく脂肪)が少なくなったり、消失したりする病気です。脂肪萎縮症には、全身の脂肪組織が減少する「全身性」のものと、特定の部分の脂肪組織が左右対称に減少する「部分性」のものがあり、病因としては遺伝子異常による「遺伝性」と、自己免疫異常やウイルス感染、薬剤などによる「後天性」があります。

脂肪組織には、エネルギーを脂質として貯蔵・再利用する機能と、ビタミンや補酵素、ホルモン、抗生物質、神経伝達物質などといった生体の生命活動や生理機能を維持するための化学物質(生理活性物質)を分泌する機能があります。
脂肪組織から分泌される生理活性物質のことを総称して「アディポサイトカイン(アディポカイン)」と呼びますが、脂肪萎縮症によって身体の脂肪組織が減少してしまうと、それに伴って「アディポサイトカイン(アディポカイン)」が少なくなり、食欲調節、糖代謝、脂質代謝において重要な働きをしているレプチンなどのホルモンも減少します。レプチンは、血糖値を一定に保つインスリンというホルモンの作用(インスリン感受性)を高める効果もあるため、レプチンが減少するとインスリンがうまく作用しなくなる「インスリン抵抗性」という状態になります。

そうなると血糖値が慢性的に高い状態となり、食欲や代謝機能、ホルモンバランスが乱れるため、肥満高血圧、黒色表皮腫や心筋肥大、女性の場合は月経異常や多毛症、多嚢胞性卵巣症候群などの症状が高頻度にみられます。脂肪萎縮症は糖尿病、高中性脂肪血症、脂肪肝、糖脂質代謝異常などの合併症を引き起こしやすく、重症化する場合が多いです。特にインスリン抵抗性に伴う糖尿病(インスリン抵抗性糖尿病)は、従来の治療法ではコントロールが困難です。

脂肪萎縮症の症状

脂肪萎縮症の主な症状としては、以下が挙げられます。

・全身または部分的にやせている
・やせを引き起こす原因が思い当たらない
・部分的にやせて、残りは肥満していることがある
・食欲は高まっていく(亢進=こうしん)ことが多い
・皮膚に、原因不明のくぼみ(皮下脂肪の減少あるいは欠落)がある
・皮膚にひきつれや、黒い斑点(黒色表皮種)がある
・指や手首、足首などの関節が痛い、曲げ伸ばしにくい
・目の落ちくぼみやかぎ鼻といった顔つきになっている

女性の場合のみ
・生理不順、無月経
・多毛症(口のまわりやあご、胸に毛が生える、全身が毛深くなる等)

脂肪萎縮症の検査・診断

脂肪萎縮症は、糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝、糖脂質代謝異常などの合併症を高確率で発症しますが、脂肪萎縮症を発症する前に、既にそれらを発症している場合も多くあります。

そのため、インスリン抵抗性を伴う糖尿病、高中性脂肪血症、脂肪肝などといった糖脂質代謝の異常と身体のやせがみられる場合に、脂肪萎縮症の可能性を疑います。診察や画像検査で脂肪組織の減少や萎縮を確認し、栄養不足や消耗性疾患(栄養不足や炎症によって体力が低下し、体重が減少する病気)によるやせではないことを鑑別します。さらに病歴聴取で遺伝性か後天性かを判断し、遺伝性が疑われる場合には遺伝子診断を行ない、原因遺伝子に異常を認めた場合は確定診断となります。後天性の場合は、ウイルス感染や薬剤の使用による自己免疫異常が主な原因となるため、その原因を明らかにしてから確定診断となります。

脂肪萎縮症の治療法

現在のところ、脂肪萎縮に対する確立した治療法はありません。そのため脂肪萎縮症の治療では、主に糖尿病や高中性脂肪血症などの代謝合併症に対する治療を行なっていきます。食事療法、運動療法を基本として、必要に応じて薬物療法を行ないます。

一方で、脂肪萎縮症で減少したレプチンを補充する「レプチン補充療法」の有効性が報告されています。メトレレプチン(R)というレプチン製剤を皮下注射するレプチン補充療法では、脂肪萎縮症により減少したレプチンを直接補充することで、糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)や脂肪肝などの合併症を改善します。
脂肪萎縮症は、代謝異常を引き起こすことで糖尿病の合併症や、高中性脂肪血症による急性膵炎、脂肪肝から進行した肝硬変、肥大型心筋症など、予後不良の病気と考えられてきましたが、レプチン補充療法の登場により、予後の改善も期待されています。

脂肪萎縮症は100万人に1人程度のまれな病気ですが、重度のインスリン抵抗性を伴う糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝などの糖脂質代謝異常があり、栄養不足や消耗性疾患、過度の運動などの原因がないにもかかわらず体重減少のやせがある場合、また血縁者に脂肪萎縮症の人がいて、自分にも症状がある場合は代謝・内分泌科など専門の医療機関を受診しましょう。

予防法は特にありませんが、遺伝する場合がありますので、血縁者に脂肪萎縮症を発症した方がいて、自分にも思い当たる症状がある場合は医療機関で検査を受けることをお勧めします。

解説:岩屋 智加予

解説:岩屋 智加予
大牟田病院
内分泌内科


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。

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