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2023.02.01
後縦靭帯骨化症とは、脊椎(背骨)などに囲まれた脊柱管(神経が通る管)の前方部分の靭帯「後縦靭帯(こうじゅうじんたい)」が骨化して脊髄や神経根を圧迫し、さまざまな神経症状が出る病気です。国が定める「指定難病」の一つとなっています。
後縦靭帯骨化症は頸椎、胸椎、腰椎のいずれの部位にも生じますが、頸椎が最も頻度が高いです。50歳前後での発症が多く、男女比は2:1で男性に多い傾向があります。糖尿病の人に発症頻度が高いことが分かっています。
靭帯が骨化する原因は不明です。遺伝的素因、性ホルモン異常、カルシウム・ビタミンDの代謝異常、糖尿病などの複数の要因が関与すると考えられていますが、特定には至っていません。特に家族内での発症が多いことから、遺伝子の関連が有力視されています。
頸椎に発生した場合の初期症状としては、首筋などの頸部痛(けいぶつう)、肩甲骨周辺の痛み、上肢のしびれや痛みなどがあります。
症状が進行すると下肢にもしびれが発生し、ボタンがうまくはめられない、箸で豆などの小さい物がつまめないなど手指の巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)や、つまづきやすくなったなどの歩行障害が現れてきます。
また、排尿・排便障害も出現します。尿の回数が急に増えた、残尿感があるなどの症状は高齢者にはよくありますが、後縦靭帯骨化による脊髄の圧迫でも起こるので注意が必要です。
頸椎よりも発生頻度の少ない胸椎の場合、初期症状としては体幹や下肢のしびれが多く、進行すると頸椎での発生と同様に歩行障害や排尿・排便障害がみられます。さらに発生頻度の少ない腰椎の症状は、下肢のしびれや痛みが多く、歩行障害に至ることは少ないです。
このように同じ靭帯骨化症でも発生部位により症状が異なります。また、神経が圧迫されているにもかかわらず無症状のまま1年余り経過することもあります。
整形外科医による詳細な神経学的な診察が必須です。これにより、後縦靭帯骨化による神経の圧迫がどの部位で起こっているかの推測が可能です。
X線撮影によって骨化の有無が判明することが多いですが、初期でははっきりと骨化が分からない場合もあります。その際はCTの撮影も行ないます。CTは骨化の大きさや部位を見極めることに関しては最も有力な検査法です。
予後や治療方針に関係する神経の圧迫の程度を調べるためには、MRIによる検査が必要です。また、背骨の曲げ伸ばしの状態によって、神経の圧迫の程度が変化します。そのため、症状が進行している場合は、脊髄造影検査(脊髄腔内に造影剤を注入してX線で撮影する検査法)を行なって、圧迫の状態を入念に調べます。
腰椎とそれ以外の部位(頸椎と胸椎)で、治療法が異なります。
腰椎で主に圧迫を受けるのは馬尾神経という抹消神経です。下肢のしびれや痛みなどが主な症状なので、初めは消炎鎮痛剤などを内服して経過をみます。症状が改善しない場合は神経のブロック注射なども行ないますが、十分な改善が得られない場合は手術を行なうこともあります。
頸椎や胸椎で主に圧迫を受けるのは脊髄で、より重い症状が出現します。頸椎や胸椎の場合でも初期のしびれや痛みの場合は消炎鎮痛剤などで経過をみますが、手指の巧緻運動障害や歩行障害が出現し、日常生活に支障がある場合は手術を考慮する必要があります。
また、軽微な外傷であっても、後縦靭帯骨化の範囲が大きく脊髄の圧迫が強い場合は、脊髄損傷による四肢麻痺になる危険があるので、症状が軽い場合でも手術を行なうこともあります。
手術には、後方法(後縦靭帯骨化を残して脊柱管を拡大する方法)と前方法(後縦靭帯骨化を摘出する方法と後縦靭帯骨化を薄く切り取って移動させる方法)があります。
骨化の大きさ、脊髄の圧迫部位や程度、患者さんの年齢などから総合的に判断して手術法や手術時期を決めます。
後縦靭帯骨化症は、脊髄にある程度の圧迫を受けていても無症状で経過する場合があります。早期に発見するためには、上肢のしびれや痛みなど、この病気が疑われる初期症状がある場合に放置せずに早めに整形外科を受診し、診察やX線検査を受けるようにしましょう。
後縦靭帯骨化症は無症状で経過することもあるため、真の意味での予防は難しいかもしれません(症状がなければ医療機関にかかることはありませんから)。
ただ、後縦靭帯骨化症の患者さんの兄弟姉妹のうち30%の人がこの病気に罹患していたという報告があるため、親族に後縦靭帯骨化症の人がいる場合は、整形外科に相談するとよいでしょう。
「早期発見のポイント」でも記したように、四肢のしびれなどが出現した場合は早めに整形外科を受診することが予防にもつながるといえるでしょう。
解説:稲坂 理樹
若草病院
副院長 整形外科部長
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