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2016.02.10
大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症を引き起こす原因不明の病気の総称を「炎症性腸疾患」といいます。クローン病もこの炎症性腸疾患の一つで、1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医クローン博士らによって「限局性回腸炎」という名称ではじめて報告されました。その後、この病気の発見者であるクローン博士にちなみ「クローン病」と呼ばれるようになりました。
クローン病は比較的若年者に発症することが多く、口腔にはじまり肛門に至るまで消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こる可能性があります。なかでも小腸と大腸を中心とした範囲に発症することが多く、特に小腸末端部が好発部位です。
クローン病の発生部位
この病気の原因については現在でもさまざまな研究が行われていますが、いまだにはっきりと分かっていません。遺伝的な素因を背景に免疫系の異常が起こり、その上で食餌(しょくじ)因子などの環境的な要因が関係しているのではないかと考えられています。欧米先進国での患者数が圧倒的に多いため、食生活の欧米化、すなわち動物性タンパク質や脂質の摂取が関係しているともいわれています。
症状は人によってさまざまで、侵される病変部位(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)によっても異なります。その中でも特徴的な症状は腹痛と下痢で、半数以上の患者にみられます。さらに、発熱、血便、体重減少、貧血などの症状が現れることもあります。また、クローン病は瘻孔(ろうこう/粘膜や臓器組織などに炎症が起こり生じる管状の穴)、狭窄(きょうさく)、膿瘍(のうよう)などの腸管合併症や、関節炎、虹彩炎、結節性紅斑、肛門病変などの腸管外合併症がみられることもあり、その症状は多様です。
前述の症状や、貧血・炎症反応上昇などの血液検査からこの病気を疑い、X線造影検査や内視鏡検査(上部消化管内視鏡検査、小腸・大腸内視鏡検査)で特徴的な所見が得られた場合にクローン病と診断されます。腹部CT検査やMRI検査が診断に役立つこともあります。特徴的な肛門病変(難治性痔ろうなど)や、内視鏡検査の際に得られた検体の病理所見(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫など)も診断に有用です。
クローン病を完治させる根本的な治療法は現時点では確立されておらず、治療の目的は病気の活動性をコントロールして寛解状態(かんかいじょうたい/一時的あるいは継続的に症状が軽減した状態)をできるだけ維持することです。そのための治療として、内科治療(栄養療法や食事療法、薬物療法など)と外科治療があります。内科治療が主体となることが多いのですが、腸閉塞や穿孔(せんこう/開いた穴)、膿瘍などの合併症には外科治療が必要となります。
【栄養療法・食事療法】
栄養状態の改善だけでなく、腸管の安静と食事からの刺激を取り除くことで腹痛や下痢などの症状改善と消化管病変の改善が認められます。病気の活動性が落ち着いていれば通常の食事が可能ですが、食事による病態の悪化を避けるために一般的には低脂肪・低残渣(ていざんさ/消化しにくい食物繊維が少ないこと)の食事がすすめられています。【薬物療法】
主に5-アミノサリチル酸製薬(メサラジンなど)、副腎皮質ステロイド、免疫調節薬(アザチオプリンなど)などの内服薬が用いられます。5-アミノサリチル酸製薬と免疫調節薬は、症状が改善しても再発予防のために継続して投与が行われます。これらの治療が無効であった場合には、抗TNFα受容体拮抗薬(インフリキシマブなど)が使用されます。【外科治療】
高度の狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症に対しては外科治療が行われます。その際には腸管をできるだけ温存するために、小範囲の切除や狭窄形成術などが行われます。
とくに若年者で、原因不明の腹痛・下痢・発熱が続いたり、血便がみられたときには、クローン病を含む炎症性腸疾患の可能性があります。早めに総合病院を受診し、検査を受けることが早期発見につながると思われます。内視鏡検査などを受けるのは抵抗があるかもしれませんが、最近では苦痛の少ない検査法を選択できる施設も増えてきています。
これまではクローン病患者のほとんどが、一生のうちに一度は外科手術が必要になるといわれてきました。しかし、近年の薬物治療の進歩により、早期発見して病勢をコントロールできれば、手術を受けずに済む可能性があります。
食事との因果関係が考えられていますが、クローン病の危険因子と断定できる食べ物は判明していません。
ただ、喫煙はクローン病の危険因子と考えられています。喫煙とこの病気の発症・再発・増悪との因果関係を示す報告があるだけでなく、禁煙により術後の再発率が低下したり、薬物療法の効果にも影響することもわかっています。
解説:水谷 孝弘
福岡総合病院
消化器内科部長
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