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2016.09.07
まず、「ヘルニア」とは、体の組織が正しい位置からはみ出した状態をいいます。鼠径ヘルニアは、本来ならばお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、足の付け根付近(鼠径部)にある筋膜の間から皮膚の下に出てくる病気です。腸が出てくるので、一般的には「脱腸」と呼ばれています。
この病気は、痛みを伴うことは少なく、自覚症状としては違和感がある程度で、立ち上がったときや、おなかに力を入れたときに、鼠径部や陰のうが膨れることがあります。
鼠径(そけい)ヘルニアのイメージ
原因は子どもと大人で異なり、子どもの場合は、胎児期に精巣がおなかの中から陰のうにおりてくる過程の中で、本来はおなかの臓器を覆っているはずの腹膜の一部が閉じず、袋状になっていることから発症する先天的な病気です。精巣が関与していることから、男の子に多くみられます。
大人の場合は、歳をとって、体の組織が弱くなることで発症します。皮膚の下にある筋膜が衰えてくると袋状のスペースができます。その部分に腸などの組織が出てくることで鼠径ヘルニアが起こります。体が衰えてくる中年の男性に多くみられる疾患です。また、鼠径ヘルニアの発生には職業が関与していることが分かっており、お腹に力を入れることが多い、製造業や立ち仕事の人に発症しやすい傾向があります。便秘の人、肥満の人、咳をよくする人もなども、お腹に圧力がかかりやすいので注意が必要です。
鼠径ヘルニアの治療法は、手術しかありません。
子どもに対して行なう手術では、おなかから陰のうに伸びた膜を根元で縛って、切り取ります。
大人の場合、鼠径部や陰のうに伸びた膜を切り取るだけでは、腹筋や筋膜が弱っているので再発する危険性があります。そのため、伸びた膜を切り取った後に、メッシュという人工物を使って補強します。
いずれの手術も30分~1時間程度で終わり、日帰りも可能です。近年は体へのダメージを軽減するために、腹腔鏡を使った手術も行なわれています。
鼠径ヘルニアは違和感を覚えることはあっても、痛みを伴うことが少ないため、外見の変化が早期に発見するポイントになります。立ち上がったり、お腹に力を入れた時に鼠径部や陰のうが膨れていることから気づくことがあります。また、立っている時には膨れていて、寝るとひっこむという変化が起こるので、そういった変化を見つけた場合には、医師にみてもらいましょう。
子どもの鼠径ヘルニアは先天性の病気なので、予防をすることは難しいです。しかし、大人の場合は、腹膜が弱くなりそこに圧力がかかることで起こるので、お腹に力を入れる行動を控えることで、予防することができます。便秘になると、便が出ずにいきむことが多くなり、おなかに圧力がかかります。バランスのいい食事をし、便秘を予防するようにしましょう。
鼠径ヘルニアでは、飛び出した腸の部分に圧力がかかることで、その血流が悪くなって壊死したり、腸閉塞になったりすることがあります。そうなると激しい痛みを感じて緊急手術が必要です。腸の壊死や腸閉塞を予防するためにも、早期発見、早期治療を心がけましょう。
解説:杉田 浩章
福井県済生会病院
外科医長
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