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2018.09.05
マラリア原虫という寄生虫の一種を持ったハマダラカのメスに刺されることで感染する疾患です。ヒトに感染するマラリアには、「熱帯熱マラリア」「三日熱マラリア」「四日熱マラリア」「卵形マラリア」の4種類があります。近年では東南アジアの「サルマラリア」を加えて5種類とすることもあります。熱帯、亜熱帯地域を中心に患者数が多く、世界保健機関(WHO)によると、2015年には2億1400万人がマラリアにかかり、43万8000人が死亡しています。特にサハラ砂漠より南側のアフリカでの感染が最も多く、そのほかにアジアや中南米などでも多く発生しています。免疫のない人が初めて感染した場合、ほぼ必ず発熱して重症化しやすくなります。一方でマラリアの流行地で生活し感染を繰り返している人は、免疫ができるため発熱などの症状がはっきりしないことがあります。
マラリアによる死亡者の多くは流行地域の5歳以下の子どもです。渡航者のマラリア感染もサハラ砂漠より南側のアフリカが多く、帰国後にマラリアと診断される例は全世界で年間数万人と推定されています。日本国内では2000年の154人をピークに減少している傾向ですが、近年は年間60人程度の発生の届出があり、その約80%が熱帯熱マラリアと報告されています。
マラリア原虫は、ハマダラカが吸血する際に唾液腺からスポロゾイトという胞子となって体内に侵入し、肝臓の細胞の中で増殖します。その後血液中に移行して赤血球の中で増殖し、赤血球を破壊します。そして体内の赤血球に対して侵入・増殖・破壊のサイクルをくり返します。このサイクルは24時間、48時間、72時間とさまざまで、赤血球が壊れるときに症状が現れるため周期的な発熱の原因となっています。三日熱マラリアと卵形マラリアは、肝臓の細胞に休眠状態の原虫が形成され、数カ月~1年以上経ってから再発することがあります。
診断にはギムザ染色という特殊な方法を用いて血液標本を染色し、マラリア原虫がいるか顕微鏡で調べるのが日本国内では一般的です。マラリアの迅速診断キット(抗原検査)もありますが、日本では承認されておらず補助的に用いられます。
10日程度の潜伏期の後38℃以上の発熱や倦怠感などインフルエンザに似た症状がみられます。渡航歴などからマラリアが疑われていないと、インフルエンザと誤診されることもあります。種類によって発熱の周期が異なり、三日熱マラリアと卵形マラリアでは48時間ごと、四日熱マラリアでは72時間ごとに発熱がみられるとされていますが、病気の初期でははっきりしないこともあります。また、熱帯熱マラリアは常に発熱があることが多いうえ、症状が進行すると貧血や黄疸(おうだん)、肝臓や脾臓の腫大、出血傾向などが認められます。さらに進行した場合、腎臓や脳の障害を合併し死に至ることがあるため、入院が必要になります。
熱帯熱マラリア以外の3種類のマラリアや合併症のない熱帯熱マラリアには、主にメフロキンやアトバコン・プログアニル合剤など抗マラリア薬を使用します。一方、合併症があるなどして重症化した熱帯熱マラリアには、アルテミシニン系抗マラリア剤を基本とした併用療法を行ない、迅速に専門機関に紹介する必要があります。熱帯熱マラリア以外は治療を受ければ経過は良好ですが、三日熱マラリアと卵形マラリアは原虫が肝臓で休眠することがあり、しばらく経って再発する可能性があります。そのため、休眠中の原虫を駆除するためにプリマキンという薬剤を追加投与することもあります。
症状が現れてから治療開始まで6日以上かかると死亡率が高くなるため、アフリカやアジア、中南米など流行地への渡航後に発熱など疑わしい症状を認める場合、早めに医療機関を受診しましょう。
蚊を避けることが最も重要です。ハマダラカは夜間に吸血するため、夕方以降の外出を避けると感染するリスクが減少します。長袖長ズボンを着用して肌の露出を減らしたり、昆虫忌避剤(DEET)入りの虫除けを使ったりすることが推奨されます。また、流行地域に滞在する場合、メフロキンやアトバコン・プログアニル合剤などの予防内服も推奨されます。
解説:岩崎 教子
済生会福岡総合病院
感染症内科主任部長
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