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2022.10.26
髄膜炎菌感染症は、「髄膜炎菌」という細菌に感染することで、敗血症や髄膜炎などを引き起こす感染症です。
髄膜炎には、細菌によって起こる「細菌性髄膜炎」や、ウイルスによって起こる「ウイルス性髄膜炎」などがあります。細菌性髄膜炎を起こす細菌には、肺炎球菌やインフルエンザ菌b型(ヒブ)などがありますが、その一つに髄膜炎菌があります。髄膜炎菌による細菌性髄膜炎を「髄膜炎菌性髄膜炎」といいます。
髄膜炎菌感染症は「侵襲性髄膜炎菌感染症」とも呼ばれ、髄膜炎菌に感染している人のくしゃみ、せきなどによる飛沫が、鼻、喉、気管から血液に入って敗血症(髄膜炎菌血症)を起こし、さらには髄膜炎菌性髄膜炎を発症します。髄膜炎を起こす他の病原体による病態と比べて、急激に全身状態が悪くなることがあります。
一般的に細菌性髄膜炎は大きな流行を起こしませんが、髄膜炎菌性髄膜炎は流行を起こすことがあり、学校保健安全法の「学校において予防すべき感染症」の一つに定められています。
最近の国内での患者報告数は年間50人以下ですが、全世界では毎年約30万人が発症し、約3万人が亡くなっています。
2~10日の潜伏期の後、発熱、皮膚や粘膜の出血班、関節痛などの敗血症の症状に続いて、頭痛、吐き気、精神症状(興奮や奇妙なふるまい)、発疹、頸部硬直などの髄膜炎の症状が出現します。
さらに重症になると意識障害、けいれん、全身の出血傾向(播種性血管内凝固症候群)、多臓器不全、ショックなどを起こします。
髄膜炎の症状が出た場合は、適切な治療を行なわないと致死率はほぼ100%です。命をとりとめても、後遺症として神経障害が残ったり、手足の切断が必要になったりすることがあります。
通常の血液検査、また頭部のCT検査だけではこの病気を診断することはできません。
髄膜炎を診断するための髄液検査を行なうとともに、血液、髄液を採取して、細菌培養を行ない、髄膜炎菌を検出します。
髄液中の抗原を検出する診断キットもあります。
セフォタキシム、セフトリアキソン、ペニシリンGなどの抗菌薬の点滴で治療します。これらの抗菌薬は髄膜炎菌に対して有効です。ただし重症になった場合は、ICU(集中治療室)での全身管理が必要になることもあります。
髄膜炎菌感染症は、症状が出てから重症化するまでの時間が短いことが特徴で、治療が遅れると健常者であっても24時間以内に死亡することがあります。そのため早期発見が大切です。
発熱があって、頭痛、吐き気などの症状が強いときは、すぐに脳神経内科、感染症内科を受診しましょう。頸部硬直などの所見から髄膜炎が疑われるときは、迅速に髄液検査、血液と髄液の細菌培養検査などを行なうことが必要です。
◆ ワクチン
髄膜炎菌感染症に対しては有効なワクチンがあります。
先進国の中には髄膜炎菌ワクチンが定期接種として推奨されている国もありますが、日本ではまだ接種する人は少ないようです。
ただし、以下の人々にはワクチンの接種を強くお勧めします。
① 学生寮や社員寮に入る場合(特に若い人)
寮などで共同生活を行なう10代の人は感染リスクが高いとされています。
アメリカの高校・大学で寮に入る場合はワクチン接種が要求されることが多いです。
② アフリカ中央部に渡航する場合
アフリカ中央部(セネガルからエチオピアにかけて)ではしばしば流行がみられ、「髄膜炎ベルト地帯」と呼ばれています。この地域への渡航前にはワクチンの接種が推奨されます。
③ 著しく多くの人が密接するような行事に参加する場合
例えばメッカの巡礼の際にはワクチンの接種証明書が必要です。
オリンピック・パラリンピックなどの観戦も感染リスクがあるので、ワクチンの接種が望ましいです。
④ 脾臓摘出後、無脾症、補体欠損症、HIV感染症、特別な薬の投与などのため免疫力が低下している場合
担当医にワクチン接種について相談してください。
◆ 曝露後感染予防
上記とは別に、髄膜炎菌感染症の患者さんと接触した可能性がある場合は、曝露後の感染予防として、できるだけ早くシプロフロキサシンやリファンピシンなどの抗菌薬を服用することが必要です。
解説:久保園 高明
鹿児島病院
院長
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