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2021.02.17
神経内分泌腫瘍は、主に消化管・膵臓(すいぞう)・肺・副腎などさまざまな臓器・器官に分布する神経内分泌細胞からできる腫瘍で、その中で膵臓に発生したものを膵神経内分泌腫瘍(PNET)といいます。
PNETは、インスリンやガストリン、グルカゴンなどのホルモンを分泌して、症状がみられる機能性PNET、ホルモンを分泌しない非機能性PNETに分けられます。進行は比較的緩やかですが、中には急激に進行するものもあり、注意が必要です。
なお、PNETは多発性内分泌腫瘍1型(MEN-1)やフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病などの遺伝性疾患を背景としているものもあります。
機能性PNETは、ホルモン分泌に基づく特徴的な症状で診断されることが多いです。
一方、非機能性PNETには特徴的な症状はなく、機能性PNETに比べて診断時には既に腫瘍が大きくなってしまっていることがあり、他の病気の精査のために行なった画像検査で偶然に診断される場合も多くみられます。
腫瘍の種類 | 症状 |
---|---|
インスリノーマ | 低血糖症状(冷や汗、意識消失、寝起き時の不機嫌) |
ガストリノーマ | 胃酸分泌亢進(難治性の胃・十二指腸潰瘍、下痢、脂肪便) |
グルカゴノーマ | 糖尿(耐糖能異常)、皮膚の紅潮 |
VIPoma(血管作動性腸管ペプチド) | ひどい下痢(10~50回のこともあり)など |
機能性PNETでは、膵内分泌細胞のホルモン産生量が上昇しているため、診断では、血液検査(インスリン、ガストリン、グルカゴンなどの膵内分泌ホルモン測定)が必須です。非機能性PNETにおける有用な血液検査はありません。
画像診断としては、CT検査、MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)が用いられます。EUSは、微小な病変を描出するだけでなく、病変を穿刺(せんし=体外から内臓などに針を刺すこと)し、吸引細胞診(病変部の細胞を吸引し顕微鏡で詳しく調べること)を行なうことで病変の質的診断ができます(超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診)。
体内の細胞の働きを断層画像として捉えるPET検査や、神経内分泌腫瘍を画像化して腫瘍の分布状況などを調べるオクトレオスキャン検査(ソマトスタチン受容体シンチグラフィ)は、腫瘍の悪性度や遠隔転移の有無、成長ホルモンの分泌抑制作用などがあるソマトスタチン類似薬を使った治療を行なえるかの判定に用いられています。
機能性PNETでは、内分泌ホルモンによる強い症状が引き起こされている場合でも、上記の画像診断で写し出すことができないほど腫瘍が小さいことがあります。その際には、腫瘍の存在部位の診断(局在診断)ができる、選択的動脈内刺激物注入試験(SASI test)が有用です。
原則としては外科的切除が根治的治療となります。腫瘍が肝臓に転移している場合には、外科的切除以外に肝動脈化学塞栓術(TACE)やラジオ波焼灼術(RFA)も行なわれています。近年、抗がん剤と分子標的治療薬、あるいはソマトスタチンアナログ(オクトレオチドやランレオチド)などの薬物治療の効果が証明されてきています。
機能性PNETでは特徴的なホルモン分泌症状を見落とさないことが重要です。多発性内分泌腫瘍1型(MEN-1)やフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病などの遺伝性疾患では、定期的に膵臓の画像診断を行なうことが必要です。非機能性PNETでは、偶発的な診断以外に早期発見は難しいです。
現時点では適切な予防法はありません。そのため「早期発見のポイント」で記したとおり、機能性PNETでは特徴的なホルモン分泌症状を見落とさないことが大切になります。
解説:中村 慶春
神栖済生会病院
院長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。