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2020.04.28
腱板断裂とは、肩甲骨と上腕筋をつないでいる腱が切れてしまった状態のことです。肩を動かしたときに痛みを感じたり(可動時痛)、今まで通り動かなくなったりする(可動域制限)症状がみられます。
肩関節の中には上腕骨を取り囲むように、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょっかきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)、小円筋(しょうえんきん)の四つの筋肉が存在します。これらを総称して腱板と呼びます。
腱板は解剖学的に肩峰(けんぽう)と上腕骨に挟まれており、腕を挙げたり下げたりする際に摩擦を受けやすくなっています。
このため腱板の老化が進む高齢者はもちろん、テニスや野球、バレーボールなどの「オーバーヘッドスポーツ」やウエイトトレーニングなどで肩を酷使することによっても腱板断裂を生じます。
60歳を過ぎると徐々に発生頻度が増加しますが、若年であっても、転倒や衝突などにより肩や腕を強くねじったり、打撲したりすると起こることがあります。
肩関節関連の手術の中では腱板断裂が全体の約7割と圧倒的多数を占めています。
断裂があっても全く痛みを感じないケースもあり、痛みのメカニズムはいまだ解明されていません。
MRI検査で腱板断裂が認められ、肩を動かしたときに痛みを感じる、今まで通り動かなくなるといった症状がある場合は、鎮痛薬の内服や、肩関節内へのヒアルロン酸やステロイドなどの注射、あるいはリハビリテーションによる治療を行ないます。薬物やリハビリテーションの効果がみられない場合は、手術を行ないます。
最近では鏡視下腱板修復術といって、肩に直径1cm程度の穴を数カ所開け、関節鏡(カメラ)を挿入して手術を行なうのが主流です。全身麻酔下で、上腕骨に糸が付いたアンカー(ビス)を数個打ち込んで、切れた腱板をもう一度付着部に縫い付けて修復します。術後は断裂の大きさにより約4~6週間、装具による固定が必要です。
断裂の大きさと、疼痛(うずくような痛み)の強さは全く比例せず、断裂が小さくても痛みが強く、腕を挙げる動作に困難をきたす患者さんもいます。また、手術で縫えないほど大きな断裂が存在するにもかかわらず全く疼痛がなく、断裂があることに気付かずに一生を終える人もいます。
一般的に、痛みを自覚する場合、夜間に痛みを生じることが比較的多く、それが強ければ睡眠障害をきたすこともしばしばあります。一方で、筋力低下を自覚する人も多いです。
腱板断裂はエコー(超音波)検査やMRI検査によって診断できますが、整形外科を受診したにもかかわらず五十肩と診断され、疼痛に対する対症療法(症状を軽減するための治療)しか施されない場合もあるのが現状です。
肩が痛い=五十肩ではないことも多いため、1カ月以上症状の改善がみられない場合は、一度専門医を受診することが望ましいでしょう。
加齢による断裂を予防することはなかなか難しいのですが、1回の外傷で断裂することもあり、転倒して手をついたり肩を打撲したりしないことは予防につながります。
また、重いものを持つ際は脇を広げて手のひらを下にして持つのではなく、より腱板に負荷がかかりにくい方法として、脇を締めて手のひらを上向きにして肘を曲げるように持つとよいでしょう。
インターネット上には1kg程度のペットボトルやチューブを用いた腱板トレーニングがたくさん紹介されており、筋力をつけることで断裂予防に効果があります。また、肩甲骨周囲の柔軟性も非常に大切で、運動前にストレッチをすることは当然として、日頃から十分に柔軟性をつけておくことが重要です。
腱板断裂と五十肩はよく似た症状が現れることがありますが、腱板断裂は五十肩のように肩関節が硬くなってしまうことはありません。つまり、肩を動かしたときの痛みがそれほど強くないのにもかかわらず、肩に痛みがある方の腕を逆の手で支えても肩周りが硬くて挙がらない場合は、五十肩の症状が現われていることになります。その場合はまずは安静が一番となるため、痛みをこらえて無理に動かしてはいけません。
腱板断裂と五十肩のどちらであっても、リハビリテーションが効果的なことが多いため、理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションが受けられる医療機関への受診が望ましいでしょう。
解説:堀江 亮佑
香川県済生会病院
整形外科部長
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