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2020.06.10
背骨(脊柱)は頭から骨盤までを、理想的には、正面から見るとまっすぐに、横から見ると頚椎(首)は前に向かって、胸椎(肋骨がついている胸の骨)は後ろに、そして腰椎は前に向かって弯曲し、緩やかなS字型を形成してバランスよく身体を支えています。この形が崩れることを脊柱変形と呼び、左右(側方)に曲がってしまうものを脊柱側弯症といいます。
先天性(生まれつき)の背骨の奇形、神経・筋原性(神経や筋肉に原因がある)や結合織異常(身体を支える組織の異常)、外傷、腫瘍など、原因となるものが明らかな側弯症のほか、特に原因のないものがあります。これを特発性側弯症といい、脊柱側弯症の80%以上を占めます。
特発性側弯症は、10歳未満で発症・診断された早期発症側弯症と、10歳以降で発症する思春期側弯症とに分類されます。思春期に発症するものが最も多く、また男子に比べ圧倒的に女子に多い(5~8倍)ことが知られています。通常は成長(身長の伸び)とともにねじれを伴った側弯変形が進行し、成長の終了とともに進行も止まります。変形は残りますが軽度の変形であれば、腰痛など痛みの原因になることはなく、妊娠や出産などその後の生活にも影響しません。
しかし、「ある程度以上」に変形したものはその後も少しずつ進行し、やがて内臓を圧迫するようになり、健康に害を及ぼすこととなります。変形が大きくなると肺の圧迫から呼吸障害をきたし、さらには心不全を起こす可能性があります。そのため、「ある程度」の変形を超えないよう、早期発見と診断、早期の治療介入が重要となります。
検診で脊柱側弯症を疑われた場合、単純X線検査を行ない、側弯が確認されると診断されます。
変形の程度に合わせて装具療法(専用の道具を装着し変形の進行を防ぐ治療)または手術療法を行ないます。一般的に、単純X線像で脊柱変形の程度を示すコブ(Cobb)角が25度未満の場合は、定期的な経過観察のみ行ないます。変形が進行し25度を超えるようであれば、装具療法を開始します。装具療法は骨が成熟して成長が終了するまで行ないますが、一日の装着時間が長いほど効果があることが知られています。
コブ角が40度を超えるようであれば、手術を行なうことを検討します。骨の成熟度や側弯のタイプによっても異なりますが、手術は変形を矯正して進行を抑える唯一の治療法です。
残念ながら、体操、マッサージ、整体やカイロプラクティックなどの民間療法には効果はありません。「子どもにつらい治療を受けさせたくない」という親心が、かえって変形の進行や治療の遅れを招きかねません。
思春期特発性側弯症は、成長期の子どもに痛みなどの症状もなく発症するため、変形の早期発見が非常に重要です。学校検診では以前から脊柱側弯症の検診が定められていましたが、2016年からさらに運動器検診が開始されました。学校での検診だけでなく、家庭でも背骨や手足についてのチェックが求められます。
脊柱側弯症の早期発見に有用なのが前屈テストです。上半身裸の状態で、肩幅くらいに足を広げて立ち、両腕を前に伸ばして身体の真ん中で両手を合わせます。膝を伸ばしたまま背中を丸め、手先を床につけるようにゆっくり前屈(おじぎ)します。正面(または背後)から見て、肩から背中、腰の高さに左右差(肋骨隆起、腰部隆起)がないか観察します。また、まっすぐ立った状態で肩の高さ、肩甲骨の位置、ウエストラインで左右差がないか観察します。これらで左右差があれば側弯症の疑いがあるので、整形外科を受診しましょう。
「特発性」とは医学用語で「原因が不明である」という意味です。原因が不明なのですから、残念ながら現在のところ予防法はありません。よく親御さんから「姿勢が悪いからか?」とか「通学カバンが重い肩掛けだからか?」などと聞かれますが、関係ありません。食習慣も関係ありません。もちろんよい姿勢で座った方が見た目も美しく、腰痛の予防にもなり、バランスのよい食生活は健康のために重要です。しかし、特発性側弯症は育て方や生活習慣など、それまでの「何か」が悪くてなってしまうのではありません。
圧倒的に女子に多いことや、親子や姉妹など家族性が認められ、遺伝的要素が原因となっていることは古くから考えられてきました。近年は遺伝子研究が盛んに行なわれ、脊柱側弯症の発症や進行に関連している複数の遺伝子が発見されています。家族に脊柱側弯症の患者さんがいる場合は、念のため整形外科を受診することをお勧めします。
脊柱側弯症と診断された後も、生活を制限する必要はありません。運動も部活も習い事も、それまで通りでかまいません。もし治療が必要になったら、進行予防の医学的効果が認められているのは装具療法だけです。前述のように、体操、マッサージ、電気治療、整体やカイロプラクティックなどに効果はありません。
解説:福田 健太郎
横浜市東部病院
院長補佐・運動器センター長・整形外科部長
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