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2016.11.09
心臓は4つの部屋に分かれ、全身の血液を循環させるポンプとして働いている臓器です。筋肉の塊である心臓は、電気信号によってコントロールされています。正しい心臓の電気信号は、洞結節(どうけっせつ)から規則的に生じ、心房全体に行き渡った後、房室結節(ぼうしつけっせつ)を通過して心室全体を興奮させます(図1参照)。身体・心ともに落ち着いている時には40~80回/分で電気信号が流れますが、運動をしたり驚いたりすることで回数は増加します。こうした正常な心拍数の増加ではなく、病的に急激な心拍数の増加を「発作性頻拍症」といいます。発作性頻拍症は、生じる場所によって上室頻拍と心室頻拍に分けられます。(以下、上室頻拍、心室頻拍の項目を参照)最も頻度が高い疾患は、発作性心房細動ですが、この項ではそれ以外の発作性頻拍症について解説します。機序(きじょ=メカニズム)は、単一カ所から起きる異常興奮、もしくは一定の回路を旋回するリエントリーです(図2を参照)。生まれつきこのような異常を有している場合もありますし、心筋梗塞や肺疾患などが原因で頻拍が生じる場合もあります。
図1 心臓の構造と電気信号の流れ
図2 電気信号の流れを表すイメージ図
心臓の上部にある心房を起源とする頻拍です。通常、命には関わりませんが、頻拍が続き心不全を生じた場合は重篤な状態になる可能性があります。頻度が高いものとして房室結節回帰性頻拍(=房室結節内のリエントリー)・房室回帰性頻拍(=異常回路と正常伝導路で形成されるリエントリー)・心房粗動(=心房内のリエントリー)などがあります。100回/分前後と比較的少ない心拍数のものもあれば、250回/分前後の重度の頻拍となるものもあります。規則正しい動悸を感じることが多いですが、自覚症状は人それぞれで、心拍数が比較的少ない場合には症状が出ないこともあります。
心室で起きる頻拍です。心筋梗塞や心筋症、弁膜症などの心臓の病気が原因となることが多く、心臓の病気を有さないものは特発性心室頻拍として区別されます。上室頻拍同様、心拍数や症状はさまざまです。心室頻拍では動悸だけでなく、心拍出の低下によって意識が遠のくことがあります。元々、重度の心疾患を有する症例では、突然死を生じる可能性もあり注意が必要です。
運動した時や、精神的に緊張した時に胸がドキドキするのは正常な反応ですが、安静を保ち、精神的にも落ち着いているのにドキドキを感じた場合は、発作性頻拍症の可能性があります。運動によって誘発される場合は、運動中に異常な脈拍の増加が見られます。種類や心臓の状態によっては、動悸だけでなく意識消失をもたらすこともあります。これらの症状を自覚した場合には、医療機関を受診しましょう。診断には発作中の心電図記録が重要になります。頻拍が収まってから心電図を記録しても正常であるため、診断の遅れや、パニック障害などの精神疾患として対応されてしまう場合があります。長時間心電図、運動負荷心電図、携帯型心電図などの使用により、発作中の心電図を記録できる可能性があるので、医師に自分の症状を詳しく伝え、適切な検査をしてもらいましょう。
健診をきちんと受けることは重要です。健診の心電図で偶然に発作性頻拍症が記録されることはほとんどありませんが、予兆となる異常が見られるかもしれません。例えば心電図でWPW症候群を指摘され、発作的な動悸を感じる場合は、房室回帰性頻拍が生じている可能性が高いです。頻拍の基礎疾患となる心筋症や弁膜症の早期発見にも健診が有用な場合があります。
先天性(生まれつき)か後天性(生まれつきではない)かで予防の方法は異なります。
先天的な場合
生まれつき心臓に異常興奮源や異常な伝導路を有する場合は、有効な予防手段はありません。しかし、抗不整脈薬での抑制や、カテーテルアブレーションでの根本的治療が可能です。早めに専門医を受診して治療につき相談しましょう。
発作性頻拍症の中には、息こらえ法(大きく息を吸い込んでから、呼吸を止める。我慢できなくなったら息を吐きだす)によって発作を止められるものがあり、発作で困った時には試してみてもよいでしょう。発作が生じた時だけ、頓服の抗不整脈薬を内服する方法もありますが、自己判断では行なわずに主治医の先生とよく相談してください。
後天的な場合
喫煙や飲酒は、それ自体が頻拍を誘発するだけでなく、心疾患や肺疾患を介して頻拍の原因となり得ます。喫煙や過度の飲酒は控えましょう。高血圧や糖尿病に代表される生活習慣病が背景因子となることもあります。適度な運動を行ない、塩分、糖分、脂肪分を控えた食事をすることで、これらの生活習慣病を予防しましょう。生活習慣病を発症した場合でも、適切な治療を受けることで、将来的な頻拍の発症リスクを下げられます。かかりつけの医師を持ち、適切に管理してもらうことが重要です。
夜間寝ている間に呼吸が停止してしまう睡眠時無呼吸症候群も重要な背景因子です。自分ではなかなか気づけない疾患ですが、「いびきがうるさい」「寝ている間に呼吸が止まっていた」と周囲から指摘される、もしくは慢性的に日中の眠気を感じる場合は、検査を受けた方がよいでしょう。
解説:長谷部 秀幸
静岡済生会総合病院
不整脈科科長
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