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2019.01.09
一酸化炭素を吸入したことによって何らかの症状を起こした状態を指します。一酸化炭素は、血中で酸素を運搬するヘモグロビンと非常に強く結合するので、酸素がヘモグロビンと結合できなくなり、身体の臓器に酸素が行きわたらなくなります。さらに、細胞内の酵素とも結合し細胞内での酸素利用を阻害します。特に脳細胞や心臓細胞は酸素を多く必要とするので、障害が起こりやすい部位です。
一酸化炭素は酸素が少ない状況で不完全燃焼が起こると発生します。一酸化炭素にさらされる原因は、火災やストーブの不完全燃焼、そして練炭による自殺行為が多いです。地震による大規模停電時に、換気が不十分な屋内でガソリン駆動の発電機を使用したため、一酸化炭素中毒患者の搬送が複数あったというケースもありました。
一酸化炭素の濃度が高いほど、またさらされた時間が長いほど重症になる傾向にあります。すぐに現れる症状として、軽度であれば頭痛や吐き気、視力障害があり、重度であれば痙攣(けいれん)や意識障害に陥ります。さらには呼吸停止や心停止を引き起こし、最悪の場合死に至ります。
これらの症状はほかの要因で引き起こされる低酸素状態でも見られますが、一酸化炭素中毒で特徴的なのは、すぐに現れた症状が一旦改善しても数週間後に意欲の低下や認知機能障害、歩行障害などが現れる点です。このように遅れて症状が現れるものを間歇(かんけつ)型一酸化炭素中毒と呼び、死亡を免れても遅れて精神神経障害の後遺症を残す場合があります。
症状が現れ始めた直後に速やかな酸素投与を行ないます。気圧を高く設定したカプセルなどを使い、より多くの酸素を血中に取り込めるようにする高圧酸素療法という治療を24時間以内に行なうことが、後遺症軽減に有効であると考えられています。
一酸化炭素を発生しやすい状況下ですぐに症状が現れた場合は、一酸化炭素中毒なのだろうとすぐに判断できます。しかし、間歇型一酸化炭素中毒で見られる症状は、自発性の低下や認知機能障害、歩行障害など他のさまざまな疾患でも見られる症状です。また、頭部MRIで大脳の神経が集中しているカ所に異常が現れますが、これもさまざまな疾患で見られるため、検査のみで判断することは難しく、一酸化炭素にさらされた状況の有無が分からないと診断に苦慮することがあります。
私の経験では、自発性の低下と軽度の認知機能障害が徐々に現れた患者さんの診断に苦慮して、再度詳しく問診した結果、数週前に部屋で練炭自殺を試みたことが分かり診断に至ったという例がありました。一酸化炭素中毒は遅れて症状が出る場合もあると知り、その可能性を疑うことが、早期の診断につながります。
一酸化炭素は無臭無色の気体であるため、においや色で存在を確かめることはできません。しかし、どのような状況で発生するのかを把握することはできます。次のような場合は特に注意しましょう。
●換気が不十分な状況でストーブやガスコンロなど火器類を使用する
室内に限らず、アウトドアやレジャーの際にテント内で火器類を使用して一酸化炭素中毒になるケースもあります。●降雪地域で自動車のエンジンをかけたまま車内で仮眠をとる
自動車のマフラーが雪で塞がれて、一酸化炭素中毒になる例がよく見られます。初期症状として頭痛や吐き気が現れることがあり、疑わしいときはすぐに車外に出て、換気を十分に行ないましょう。
自宅に囲炉裏などを置く場合、万が一に備えて一酸化炭素センサーを設置するとよいでしょう。以前、自作した囲炉裏のそばで寝てしまい、翌朝に反応が鈍くなった状態で発見された患者さんを診療しました。その患者さんには高圧酸素療法を施しましたが、後遺症が残ってしまいました。一方、密閉した車内で練炭自殺を図った患者さんは、意識を失う寸前に自ら110番通報してすぐに救出されたため、後遺症は残りませんでした。死に至らない一酸化炭素濃度でも、さらされた時間が長いと後遺症が残りやすいといわれています。一酸化炭素が発生しやすい状況を知り、万が一異変に気づいた場合はすぐに換気し、その場を離れることが重要です。
解説:村上 善勇
加須病院
神経内科副担当部長
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