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2024.03.13
心原性脳塞栓症は、心臓にできた血の塊(血栓)が脳血管に流れてくることで起こる脳梗塞の一種です。
脳梗塞は、脳の血管が血栓で詰まって脳細胞が血液不足で死んでしまう病気ですが、①脳の末梢の細い血管が詰まって起こる小規模なもの(ラクナ梗塞)、②脳や脳に至る比較的大きな血管の動脈硬化が原因で詰まることで、そこにできた血栓によって生じるもの(アテローム血栓性脳梗塞)、③心臓に原因があり、そこから比較的大きな血栓が血流に乗って脳に飛んで生じるもの、の3タイプに大別されます。3タイプのうち、③の心臓に原因がある脳梗塞を「心原性脳塞栓症」と呼びます。
「心房細動(不整脈)」があると、心臓の中で血液が淀む部分ができ、そこでできた血栓が脳血管に流れ込むことが主な原因で起こります。3タイプの脳梗塞のうち心原性脳塞栓症は最も重症になりやすく、一瞬にして人生が大きく変わってしまうことや生命を脅かすこともあることから、別名「ノックアウト型脳梗塞」と呼ばれ、恐れられています。
心原性脳塞栓症に限らず、どのタイプの脳梗塞でも症状が突然起こるのが特徴です。脳のどこの部分が詰まるかによって症状はさまざまですが、心原性脳塞栓症は他の2タイプと比較してかなり大きな血栓が詰まるため、脳梗塞の範囲も大きく、重い症状が出ることが多いです。
例えば、片側の手足の麻痺やしびれ・呂律が回らない・顔のゆがみ・ふらつきなどは、脳梗塞のどのタイプでも起こる可能性がありますが、心原性脳塞栓症では大脳の表面(大脳皮質)まで巻き込まれることが多く、これら以外に下記のような症状が出ることがあります。
●左右の目が一方向に寄る(共同偏視)
●左右どちらかの空間を認識できなくなる(半側空間無視)
●視野の左右どちらかが半分かける(半盲)
●言葉が出ない(失語)
●意識障害
どのタイプの脳梗塞でも、まずは脳梗塞であるかの診断を早急に行ないます。CTやMRIなどの頭部画像検査で脳梗塞と診断されれば、超急性期・急性期治療を開始し、並行して精密検査を進めて心原性脳塞栓症であるか確認していきます。
心臓から脳に至る血管の状態を知るため、造影CT検査や頸動脈や心臓の超音波検査、場合によっては脳血管造影検査(脳の血管にカテーテルで造影剤を注入してX線撮影する検査)も行ないます。
さらに、心房細動は持続性のものと発作的にしか出ないものがあるため、見つかりにくい場合は24時間ホルター心電図(24時間の心臓の動きや変化を調べる検査)も行ないます。
また、血液検査で糖尿病・脂質異常症・心疾患などの危険因子があるかも調べます。
超急性期・急性期・慢性期で治療法は異なります。
発症してから(血管が詰まってから)まだ時間があまり経っていない時期(超急性期)では、不十分な血流でもまだ生きている脳の領域(ペナンブラ)が存在する場合があります。このペナンブラが脳梗塞に進行しないように詰まった血管を積極的に再開通させることを考えます。
経過時間や症状・検査所見をしっかり吟味した上で、高い安全性が見込まれる場合は、血栓を溶解させるt-PA(アルテプラーゼ)という薬を使ったり、ある程度太い動脈が詰まっているときにはカテーテル治療で血栓を機械的に回収する治療(血栓回収療法)を行なったりします。
超急性期を過ぎた時期(急性期)、あるいは超急性期であっても上記の治療ができない場合は、血液を固まりにくくする「抗凝固薬」の点滴や、脳細胞を保護する「脳保護薬」を使用します。
ある程度広い範囲の脳梗塞の場合は、梗塞した部分が数日にわたって腫れてくるため、脳浮腫を軽減させる薬も使います。腫れがひどく、周囲の脳を強く圧迫して生命的に危険になった場合は、頭蓋骨を外して脳の圧を逃がす「減圧術」が必要になることもあります。
急性期を過ぎて安定した時期(慢性期)は、再発予防のための内服治療が中心となります。血液をサラサラにする薬は「抗血小板薬」と「抗凝固薬」がありますが、心原性脳塞栓症の場合は、抗凝固薬を使います。脳梗塞のタイプによって使用する薬が異なるという意味でも、脳梗塞のタイプ分けは非常に重要です。
内服の抗凝固薬は、今まではワルファリンしかなく、定期的に血液検査を行なう必要や、納豆を食べてはいけないなどの制約がありましたが、最近はこれらの制約を必要としない「直接経口抗凝固薬(DOAC)」と呼ばれる新しいタイプの薬が使えるようになっています。
心原性脳塞栓症に限らず、脳梗塞は前触れもなく生じる病気です。「心原性脳塞栓症の症状」の項目にあるような症状が突然出たら、しばらく様子を見るということは決してせず、すぐに救急車を呼んでください。
また、発症した時刻が非常に大切になります。これらを一般の人にも分かりやすいように「FAST」という言葉で覚えてもらっています。「F:face 顔の麻痺、A:arm 腕の麻痺、S:speech 言語障害、T:time 発症時刻」で、合わせて「FAST: 急いで」という意味が込められています。
心原性脳塞栓症のほとんどは心房細動が原因です。まずは自分で脈を取り、脈の乱れがある場合は病院で調べてもらってください。心房細動があり、「心不全・高血圧・糖尿病・75歳以上」のいずれかの条件に当てはまる場合は、脳梗塞の既往がなくても予防的に内服治療を検討してください。
また、心房細動が起こる危険因子としては、加齢・高血圧・心臓病・睡眠呼吸障害・肥満・飲酒・喫煙・ストレスなどが挙げられます。これらのうち、生活習慣の改善で避けられるものについては、改善する努力をしていくことも大切です。
解説:勝田 俊郎
唐津病院
脳神経外科部長
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