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2024.05.29
中枢性尿崩症は、脳下垂体の後葉から分泌されている抗利尿ホルモン(バゾプレシン)が分泌されなくなる、または、低下することで体内の水分が大量の尿となって出ていく病気です。
抗利尿ホルモンは、腎臓内で水分の再吸収(尿濃縮)を促すはたらきを持っており、体内に必要な水分量をコントロールしています。抗利尿ホルモンが不足すると、腎臓内で水分の再吸収がうまく促されず、大量の尿となって出ていき、体内が常に水分不足の状態になります。
発症原因として最も多いのは、脳腫瘍や外傷などにより脳の視床下部や脳下垂体に発生した障害が原因となる「続発性中枢性尿崩症」で、約80%を占めています。それ以外の20%弱は「特発性中枢性尿崩症」とされ、原因が分かっていません。また、全体の約1~2%と大変まれですが、遺伝によって発症する「家族性中枢性尿崩症」もあります。
主な症状は、極度の多尿と激しい喉の渇きです。水分を取っても取らなくても、時間帯を問わず、尿が勢いよくたくさん出るようになります。成人で1日に10リットル前後、もしくはそれ以上になることもあります。腎臓内で尿が正常に濃縮されないため、尿の色は黄色くならず、水のように透明もしくは薄い色になります。
体内が常に水分不足の状態で唾液も出にくくなるため、激しい喉の渇きを覚え、常に大量の冷たい飲み物が欲しくなります。それによって繰り返し水分補給を行なうので、体力が著しく消耗されます。水分が補給できないと脱水によるショック症状を起こし、生命に危険が及ぶこともあります。
これ以外にも、倦怠感、食欲不振、微熱、皮膚や粘膜の乾燥、発汗の減少、ドライアイ、精神症状などの症状があります。腎臓から体内の水分が大量に出ていくことで、水腎症や巨大膀胱などの合併症を引き起こす危険もあるので、腎臓や膀胱に負担をかけないように排尿を我慢することは避けましょう。
検査では飲水量と尿量を測定し、パターンを把握します。診断は下記の特徴をもとに行なわれます。
①尿の溶質濃度を示す尿浸透圧が低下して低張尿(薄い尿)になる
②抗利尿ホルモンが血漿浸透圧(ナトリウムの濃度を薄めようとするはたらき)に比べて低値になる
③負荷試験で以下の結果が確認される
(1)高張食塩水負荷試験
塩化ナトリウムが0.9% を超える食塩水を点滴で投与し、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても抗利尿ホルモン分泌増加反応の低下を認める。
(2)水制限試験
数時間飲水を制限しても尿浸透圧が300mOsm/kgを超えない。ただし苦痛を伴うため、行なうかどうかは医師が判断する。
(3)バソプレシン(抗利尿ホルモン)負荷試験
バソプレシン(ピトレシン注射液®)を5単位皮下に、注射後30分ごとに2時間採尿する。中枢性尿崩症では、尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する。腎性尿崩症では、バソプレシンに反応しない。
④画像診断のMRI検査では、もともと白っぽく写る下垂体後葉が黒っぽく写っていることが確認される※MRI検査では、電波が強いと白く(高信号)、弱いと黒く(低信号)表示される
以上をふまえて、腎性尿崩症、心因性多飲、糖尿病による多飲・多尿ではないか、慎重に鑑別診断します。
足りないホルモンを補充する療法として、舌の下に置いて飲む経口剤の「ミニリンメルトOD錠」や、点鼻薬の「デスモプレシン点鼻液」「デスモプレシンスプレー」を使用することで症状をおさえます。
口の喝き、多飲、多尿の症状がある場合は、速やかに医師に相談してください。
予防法は特にありません。治療中の人は抗利尿ホルモンが不足するとすぐに症状が出るので、治療を継続してください。
解説:芦澤 潔人
済生会長崎病院
院長補佐 内科部長 内分泌糖尿病内科
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。