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2023.10.25
股関節は、ボールと受け皿が組み合わさった球関節(きゅうかんせつ)で、「大腿骨頭(だいたいこっとう)」と呼ばれる大腿骨上端の球上の部分が、「寛骨臼(かんこつきゅう)」と呼ばれる骨盤の受け皿にはまり込むような形になっています。
大腿骨頭と寛骨臼の表面はそれぞれ軟骨で覆われており、この軟骨によって痛みを感じることなく、安定して滑らかに股関節を動かすことができます。股関節の軟骨には、関節の表面を覆う「関節軟骨」と、寛骨臼の辺縁を取り囲み大腿骨頭を包み込んで吸着する「関節唇(かんせつしん)」があります。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)は、大腿骨頭と寛骨臼のいずれか、もしくは両方に骨のでっぱりを伴う形態異常があることで、股関節を曲げたりひねったりする際に、関節の中で骨同士がインピンジメント(Impingement=衝突)を起こしてしまう状態です。股関節内でインピンジメントが繰り返されると、関節唇が損傷してしまい、股関節痛の原因となります。
また、FAIによって関節唇の損傷が悪化すると、股関節の関節軟骨や骨まで削れてしまい、関節が変形する「変形性股関節症」に進行することが知られています。
FAIには、大腿骨側に過剰な骨のあるCAM型、寛骨臼側に過剰な骨があるPINCER型、両方に過剰な骨があるCombined(混合型)があります。
FAIの原因は現時点では完全には解明されていませんが、この過剰な骨は成長期にできるといわれています。また、一般の人と比較して、アスリートの発症頻度が非常に高いことが知られています。一方で、FAIの骨形態があるからといっても必ず痛みが生じるわけではなく、生涯症状が出ない人も少なくありません。
症状は20~40代で自覚することが多いといわれています。症状が出現している場合は、関節唇や関節軟骨の損傷が生じており、今後進行してしまう可能性が高いと考えられ、注意が必要です。特にアスリートは激しく股関節を使うため、身体をあまり動かさない人に比べて早く症状が現れる傾向があります。
FAIの主な症状として、股関節の痛み・固さ・動きの制限が挙げられ、股関節を深く曲げたり、ひねったりする動作で鋭い痛みが走ることが多いです。鈍痛、重苦しさ、違和感、引っ掛かり感、抜けるような感じ、(関節が)うまくはまっていない感じ、といった症状が出ることもあります。
症状は歩行時や運動時に現れることが多いですが、長時間座っているときや睡眠中に寝返りを打った際などでも出現します。そのほかには、あぐらをかく、靴下を履く、爪を切る、立ち上がる、自動車・自転車を乗り降りする、足を組む、といった場面で症状が強く出ることもあります。
検査の順序として、まずは問診と身体診察を行ないます。その際、股関節の痛み、動きの制限、日常生活や運動の支障などを確認し、FAIや関節唇の損傷が疑われる場合はX線検査とMRI検査を行ないます。
X線検査では通常の股関節X線検査に加えて「Dunn View(ダンビュー)」という特殊な撮影方法で検査を行ないます。FAI特有の骨形態異常は通常検査のみでは確認しにくいため、ダンビューでの検査がとても重要になります。なお、X線検査では変形性股関節症の可能性についても同時に診断が可能です。
MRI検査では骨、軟骨、筋肉、腱などの軟部組織をより細かく調べることができます。股関節の問題点や病気の進行具合をしっかり確認することが、適切な治療を選ぶためにとても重要になります。特に関節唇の損傷を確実に診断するためには、関節唇をしっかり確認できる特殊な方法でMRI撮影をする必要があります。
治療はまず、保存療法(手術以外の治療)を行ないます。保存療法ではFAIの骨形態異常を矯正することはできませんが、しっかりと継続することで症状が改善することも多く、治療の第一の選択肢となります。
保存療法では、まず日常生活で股関節のインピンジメントが起きる動作を回避し、関節唇への負担を最小限にすることが重要です。股関節内での骨の衝突は股関節を深く曲げる動作で起こるため、しゃがみこみやあぐらをかくような痛みを伴う動作を避けるように、日常生活や運動を調整していきます。関節唇への負担がかからない股関節や身体の動かし方を理解することによって、痛みが緩和し、再発予防にもつながります。
最も重要となるのが、筋力訓練と柔軟体操のリハビリテーションです。
股関節や体幹(骨盤・腰部)の筋力と柔軟性を改善させることで、関節の安定性の向上や負担の軽減が得られ、痛みが緩和されます。股関節と体幹の筋力および柔軟性は、万が一手術を受けることになった場合も非常に重要になり、リハビリテーションはFAIと関節唇損傷の治療において必要不可欠です。
痛みや関節内の炎症が強い場合は、必要に応じて鎮痛剤の処方やステロイド注射などの薬物療法を行ないます。
このように日常生活の工夫、リハビリテーション、薬物療法を組み合わせることで症状が改善する場合も少なくありません。
しかし、十分な保存療法を数カ月続けても症状が改善しない場合は、手術を検討します。FAIと関節唇損傷の手術では、断裂した関節唇を縫合し、大腿骨と寛骨臼のでっぱりを削ります。近年では関節鏡(関節の内視鏡)を用いた手術が普及しており、小さい切開を数カ所作り、関節鏡で関節内を見ながら手術が行なわれます。この手術は「股関節鏡手術」と呼ばれ、大きく切開する従来の手術に比べて患者さんの負担が減り、回復期間の短縮が期待できます。
股関節に痛みがある場合、どのような姿勢や動きで症状が強く出るかを特定することが重要です。FAIでは大腿骨と寛骨臼の衝突が原因で痛みが生じるため、衝突が起こる体勢や運動を避けることで股関節を休ませ、痛みが緩和される可能性があります。
しかし、FAIを起こしやすい骨形態がある場合は症状を繰り返す可能性もあるため、股関節の痛みを感じたら早めに専門医に相談することをお勧めします。
関節唇であれば損傷部分を縫合できることが多いですが、一度摩耗してしまった関節軟骨は、残念ながら今の医学では元には戻せません。早期に診断ができれば、多くの場合は筋力訓練や柔軟体操などのリハビリテーションでFAIの症状を改善することができます。また、股関節鏡手術を行なう場合も、軟骨の損傷が進行してしまった状態では手術の効果が下がることもあるため、まずは専門医に早めに診断してもらうことが重要です。
FAIの特徴的な大腿骨と寛骨臼の過剰な骨は、成長期にできるといわれており、一般の人と比較して、アスリートで頻度が非常に高いことが分かっています。特に、股関節を深く曲げるスポーツ(サッカー、バスケットボール、アイスホッケー等)を活発にやっている人に多い傾向があります。しかし、FAIの原因や、全人口のどれくらいの人がFAIであるかは、完全には解明されていません。また、この過剰な骨のでっぱりがあると必ず痛みが生じるわけではなく、生涯無症状の人もいます。
そのため、FAIは「必ずしも病的ではない」といわれています。
一方で、FAIの症状は20〜40代で自覚することが多く、特に激しく股関節を使うアスリートや若い人は、身体をあまり動かさない人に比べて早く症状が現れる傾向があります。症状が出現している場合は、関節唇や関節軟骨の損傷が生じている可能性が高く、進行する可能性もあるため、早めに専門医に相談することをお勧めします。
最後にFAIや関節唇損傷の症状や病態の進行予防には、股関節や体幹における筋力と柔軟性が非常に重要になります。股関節周囲の筋肉や腹筋・背筋を強化し、股関節・骨盤・腰部などの柔軟性を向上させることで、股関節内の骨の衝突が生じにくくなり、結果的に症状の緩和や再発予防につながります。筋力訓練・柔軟体操は、専門家の指導を受けることでより効率的にトレーニングやリハビリテーションができるため、一度専門外来を受診することをお勧めします。
解説:梅津 太郎
中央病院
整形外科
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