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2015.04.28
「変形性」とは文字通り「形が変わること」を示しますが、病名としては「年月とともに変わっていくこと」つまり「加齢性変化」を示します。したがって、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)とは、股関節が年月とともに加齢的変化を示す疾患です。
股関節の構造は、球状の骨頭(こっとう)とその周りの支える部分とでできている関節で、通常骨性に安定している関節です。そのため、比較的年齢的に変化が起きにくい関節といえます。ただ、体重がかかる関節なので、負担が加わると変性が起きます。そして、元々原因が不明のものを「一次性股関節症」、関節の屋根部分に当たる臼蓋(きゅうがい)が小さい臼蓋形成不全など構造的に問題があったり、けがなどの股関節異常により起こってくる「二次性股関節症」と分類しています。日本人は従来後者の割合が多かったのですが、最近は高齢化の影響か前者のものが増えています。
症状とはどういうものかというと、痛みと可動域(動く角度)の低下です。
通常、最初は動き始めに脚の付け根に痛みを感じ、進行するに従い痛みが強くなったり、痛む時間が長くなります。時に、いつも痛くて耐えがたい場合もあります。また、動きも悪くなり、日常生活では足の爪切りや靴下を履くことが困難となり、さらに、立ち仕事やしゃがみ込みがつらくなったり、階段では手すりが必要になるなどの支障をきたしてきます。ただ、股関節周囲が痛む理由は股関節だけにあるとは限らず、腰や仙腸関節(腰と骨盤との関節)が原因の場合もあり、股関節が悪い人は腰も悪いことが多いため、両方が痛みの原因であることもあります。
この疾患そのものが加齢性変化であるため元に戻ることはありませんが、症状を改善することはできます。まずは「保存療法」という薬物や温熱療法といった物理療法や運動療法などにより、痛みと動きを改善する方法がとられます。いろんな身体の痛みと同様に、温めたり筋肉をつけたりすることで血流をよくすることは、痛みを改善するために有効です。
保存療法を行っても日常生活で問題となってくると、「手術療法」を考える必要がでてきます。そのうちの一つは「骨切り」といい、骨を切って骨の位置関係を変え、痛みなどを改善する方法があります。骨を切るため、骨癒合期間(こつゆうごうきかん:骨が修復する期間)がかかり、術後日常生活に戻るのに時間を有します。また、痛みや動きがよくならない場合があります。もう一つは、「人工股関節置換術」で関節を人工物で置き換える手術です。日常生活に早く戻れ、痛みもほとんどなくなるため、最近は骨切り術より人工関節置換術を希望する患者さんが増えています。もちろん、この病気は悪性のものではないので、必ずしも手術をしなければならないことはありませんが、日常生活にも困る場合は、よく理解したうえで手術を選ぶのがいいと思います。
変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)は、ある意味では加齢性変化なので早期診断はあまり意味をもちません。
少し病気が進めば、レントゲン撮影で診断できます。骨頭(こっとう)は本来球形ですが、形が変わったり、関節裂隙(かんせつれつげき:すきまの軟骨部分)が狭くなったり、すが入ったようになるのう腫などが見られます。先天性股関節脱臼や臼蓋(きゅうがい)形成不全など、元々股関節に問題があった場合や、股関節周辺の外傷などは危険因子です。がんなどの悪性の病気とは違い、手遅れということはまずありません。症状が気になるような時点で整形外科を受診すれば問題はありません。
変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)は加齢現象ですが、すべての人が症状を出すわけではありません。普段の生活習慣により、ある程度予防できるのではないかと思います。
常識的なことですが、体全体に健康的な生活を送ることが予防につながります。その一つは、適切な栄養を取ることです。肥満などの生活習慣病は、股関節にも悪い影響を及ぼします。もう一つは、適切な運動をすることです。競技など激しい運動により過度な体重で負担をかけすぎたり、構造的に問題があったり、また、けがによる損傷を受けるとより悪い影響を及ぼすため、股関節に関しては、水中歩行など荷重をかけない運動を主にすすめています。
解説:吉田 宏
横浜市南部病院
副院長兼整形外科主任部長
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