社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2020.04.15

多発性骨髄腫

multiple myeloma

解説:藤田 直紀 (山口総合病院 院長補佐)

多発性骨髄腫とはこんな病気

多発性骨髄腫は血液のがんです。骨髄でつくられる血液細胞(赤血球や白血球など)の一つである形質細胞が、がん化することで発症します。
形質細胞は白血球の一種であるBリンパ球が成熟してできた最終形で、身体を守っていくための大切な細胞です。細菌やウイルスなどの異物を見つけると抗体(免疫グロブリンというたんぱく質)を血液中に放出して攻撃します。
この形質細胞ががん化すると、異物を攻撃する能力を持たない異常な抗体(Mたんぱく)のみを大量につくってしまいます。このような異常な形質細胞を骨髄腫細胞と呼びます。

多発性骨髄腫の症状

Mたんぱくの増加に伴って正常な抗体が不足すると、感染症にかかりやすくなります。また、大量のMたんぱくによって血流が悪くなり、血液がドロドロになる過粘稠度症候群(かねんちょうどしょうこうぐん)を引き起こします。Mたんぱくがさまざまな臓器に沈着すると、腎障害をはじめとする種々の臓器障害を合併します。
一方、骨髄の中に骨髄腫細胞が増え続けることにより、正常な造血が妨げられます。その結果、白血球が減少して感染症にかかりやすくなる、赤血球が減少して貧血となる、血小板が減少して血が止まりにくくなるなどの症状が出てきます。
さらに、骨髄腫細胞は骨を侵すという特徴があるため、骨に痛みが出たり、骨折しやすくなったりもします。骨の中のカルシウムが血液中に溶け出すと高カルシウム血症になり、さまざまな臓器に悪影響を及ぼします。

多発性骨髄腫の診断

血液や尿の中に含まれているMたんぱくの種類や量、骨髄の中の骨髄腫細胞の量、臓器障害による症状の有無や程度などから、病気のタイプ(病型分類)を確認し、進行度(病期)を判断します。

多発性骨髄腫の治療

病気のタイプによってはすぐには治療せず、定期的な検査を行ないつつ経過観察し、治療開始の時期を見極めていく場合があります。
薬物療法(化学療法)は、骨髄腫細胞を破壊、減少させて病気の進行を抑える目的で行ないます。これまでに使用されてきた抗がん剤に加えて、現在ではさまざまな新しいタイプの薬剤が開発され、使用できるようになりました。それらの薬剤を組み合わせて治療を行ないます。
比較的若く、病状や全身状態などから移植医療の対象となる患者さんには、大量の抗がん剤を投与して骨髄腫細胞を死滅させる大量化学療法と、患者さん自身の末梢血から幹細胞を採取しておき移植する自家末梢血幹細胞移植を組み合わせた治療が行なわれる場合があります。
また、必要に応じて合併症に対する治療も行ないます。貧血や血小板減少に対しては赤血球や血小板輸血、高カルシウム血症や骨病変に対しては骨吸収抑制剤の点滴治療を行ないます。腎不全の合併に対しては一時的な人工透析、さらには形質細胞が塊をつくって増殖しているような病変や骨病変に対しては放射線照射を行なうことがあります。
骨髄腫の病気の性質や治療の過程で感染症を合併しやすいため、感染予防と感染併発時の早期対応が大切です。
病気のタイプや進行度など、患者さんの状態はそれぞれ異なっています。年齢や治療効果、副作用の危険度などを総合的に判断しながら、治療を進めていくことが重要です。

一般的に、Mたんぱくが増えることによる血液中の免疫グロブリンあるいは総たんぱく(血液中のたんぱく質の総量)の増加という特徴があるため、これらの検査値の異常はこの病気を疑う重要な所見です。
また、貧血などの血球数の異常、腎障害、高カルシウム血症、骨が弱くなることによる骨折の多発というような異常所見をきっかけに診断されることも比較的多いです。このため、腎臓内科や整形外科からこの病気を疑われて血液内科に紹介される場合もあります。
診断には、これらの症状や所見とともに血液や尿の中にMたんぱくがみられるかどうか、骨髄の中に異常な形質細胞(骨髄腫細胞)があるかどうかが重要です。

発症の原因がはっきりしていないことから予防法はありませんが、治療の過程で感染症を合併しやすくなっているので注意しましょう。

解説:藤田 直紀

解説:藤田 直紀
山口総合病院
院長補佐


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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