社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2016.09.28

筋挫傷(きんざしょう)

Muscle strain

解説:五之治 行雄 (福井県済生会病院 整形外科主任部長)

筋挫傷はこんな病気

挫傷とは鈍的な外力(打撲)により、皮下組織や筋肉、腱などに損傷が生じるものです。
そのうち筋肉に損傷を受けたものを筋挫傷と呼びます。さらにその外力が高度な場合には骨の損傷や骨折を合併することもあります。
筋挫傷はコンタクトスポーツ(相手との接触)で膝、肩、頭などがあたったり、靴で蹴られることで発生し、格闘技やサッカー、ラクビーなどでよく起こります。
主な症状は激しい痛みと腫れで、好発部位は大腿前面です。打撲した周囲がだんだん腫れてきて、皮膚が光沢を帯び、パンパンになってきます。腫れは翌日から数日で最大となり、その後徐々に軽減していきます。歩行障害や膝関節の屈曲制限が生じることも少なくありません。

筋挫傷の治療法

受傷機転(けがをした状況)と症状から診断は比較的容易です。受傷直後から48時間はRICE処置を徹底して行ないます。この際、膝の屈曲制限を予防するため膝屈曲位を保持することが望ましいです。
また、痛みに応じて湿布や鎮痛剤の内服を行ないます。

軽症の場合にはRICE処置により、数日で痛みや腫れは軽減します。しかし、重症の場合には数日経過しても膝の屈曲が90度以上曲がらないこともあります。そんなときは、痛みのない範囲で関節可動域を改善するリハビリテーションを行なってください。関節の動きが正常に戻ればスクワットや痛みのないスポーツ活動を開始し、復帰を目指しましょう。

RICE処置とは

安静(Rest) 無理な活動の継続や体重負荷を避けて安静を保ち、新たな損傷を防止
冷却(Icing) コールドスプレーや氷などを用いて冷却し、損傷部の出血や腫れを抑制
圧迫(Compression) 包帯やスポンジで圧迫を加え、血腫の増大を予防
挙上(Elevation) 患部を挙上し、静脈やリンパの流れを改善して腫れを抑制

RICE処置とは

合併症

筋挫傷には以下のような合併症を伴う場合があります。

1)コンパートメント症候群
損傷された筋肉内の出血や腫脹が高度となった場合、その筋肉の内圧が増大し、血行障害を起こします。その結果、筋肉の壊死、神経障害をきたして、重大な後遺障害が発生します。比較的まれな合併症ですが、我慢できない激しい痛み、皮膚の水疱を伴う高度の腫れ、知覚障害や運動麻痺などを認める場合、本症を疑い早急に適切な処置を行ない、手術(筋膜切開)が必要となることもあります。
2)異所性骨化・骨化性筋炎
筋肉内の血腫や骨膜損傷を伴う骨挫傷においては、数週間してから筋肉内や骨と筋肉の間に骨性の組織が形成され、難治性の関節可動域制限や痛みが出現することがあります。特に重症の筋挫傷後には適切な初期治療が必要であり、治療が遅れた場合に発症する危険性があります。

早期発見のポイント

けがをした時の状況を詳しく把握することが大切です。スポーツ傷害でよく見られる筋の外傷には「筋挫傷」と「肉離れ」があります。肉離れは何らかの状況(ジャンプ等)により筋に強い筋力が発生し、自分自身の筋力により筋損傷(筋繊維の断裂)が起こる外傷です。それに対して筋挫傷は外部から固い物が直接大腿部などに当たって、筋損傷を生じ、筋内に出血を起こす外傷です。受傷時の状況が明らかであれば診断は比較的容易ですが、場合によっては受傷時の状況が全くわからないこともあります。

画像診断

より正確な診断として画像診断が有効です。

1)レントゲン検査
外傷が高度な場合、骨膜や骨に損傷が及ぶことがあります。骨折の有無の確認や、受傷後しばらくして生じる骨化性筋炎の診断に有用です。

2)超音波(エコー)検査
超音波検査は非侵襲的(体に優しい)で比較的簡便に行なえて、表在の筋外傷の診断、経過観察に優れています。また、筋を動かしながら検査もできるので、動的な評価も可能です。しかし、損傷の全体像の把握や、深部の損傷の検出が困難な場合があり、出血と液体貯留の区別や新しい損傷と古い損傷の区別が困難なこともあります。
超音波の画像では、損傷した筋はその連続性が消失し、周囲の正常筋と比較して内部の不鮮明な像として描出されます。

3)MRI検査
MRIは筋肉等の軟部組織や骨の状態が鮮明に描出されるため、筋外傷の診断に優れています。超音波検査と比較すると広範囲に、さらに深部まで描出できることにより、微細な病変の発見を容易にすることが可能です。損傷した筋と液体貯留が明瞭に描出され、骨の損傷や不全骨折も描出されます。

予防の基礎知識

外力により生じるものなので、予防の知識というものは特にありません。予後について言えば、スポーツ現場では頻度の高い外傷ですが、医療機関を受診することなく放置されることが多い傾向にあります。大部分は数週間で自然治癒しますが、不適切な処置(放置)が原因で、再発や合併症などが起こり、スポーツ復帰に長い時間がかかることもあります。
軽症と思っても受傷直後には直ちにスポーツ活動を中止して、RICE処置を行なうことが重要です。それが、最終的にはスポーツ活動への早期復帰につながると思われます。

五之治 行雄

解説:五之治 行雄
福井県済生会病院
整形外科主任部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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