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2024.10.02
母斑(ぼはん)とは、生まれたときや生涯のさまざまな時期にわたって生じる「皮膚の色や形の異常を主体とする皮膚病変」のことをいいます。母斑症とは、皮膚症状に加えて母斑の症状が皮膚以外の臓器にもみられる場合を指します。
母斑症の代表的な病気には「神経線維腫症(しんけいせんいしゅしょう)」「結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)」「色素失調症(しきそしっちょうしょう)」があります。
神経線維腫症
神経線維腫症には1型と2型があります。神経線維腫1型は、主に1~2歳頃までに皮膚に多発する(6個以上)褐色の「カフェオレ斑」という色素斑と、思春期頃から徐々に出現する「神経線維腫(柔らかい皮膚や皮下にできる良性の腫瘍)」を特徴とします。カフェオレ斑や神経線維腫以外に背骨が変形する側弯(そくわん)や、視力・発達などに影響が出ることもあります。遺伝子変異が関与している場合もあれば、そうでない場合もあります。
神経線維腫2型は、内耳と脳をつなぐ神経(聴神経)の左右どちらか、もしくは両方に腫瘍(聴神経腫瘍)ができる遺伝性疾患で、1型とは症状が異なります。
結節性硬化症
結節性硬化症は腫瘍抑制遺伝子であるTSC遺伝子が関与する遺伝性疾患ですが、遺伝が関与しない(さまざまな要因によって、親から受け継いだ遺伝子に構造上の変化が突然生じる突然変異による)場合もあります。出生前後から成人以降にかけて、皮膚や心臓、脳、腎臓、肺、眼、歯などに症状が現れます。代表的な症状として血管線維腫(けっかんせんいしゅ)や、てんかん、知能低下が挙げられますが、てんかんなどの脳神経症状を伴わない人もいます。
皮膚症状の一つである「血管線維腫」は1〜2歳頃から現れ、鼻の周囲から頬部(ほっぺた)を中心に、淡い紅色の0.5cm未満のできものである丘疹(きゅうしん)が多発します。また、生下時から生後数年以内に、葉状白斑(ようじょうはくはん)という楕円形の脱色素性母斑(肌の色がその部分だけ白く見える皮疹)が現れたり、身体に扁平な隆起ができるシャグリンパッチと呼ばれる結合織母斑ができたりすることもあります。
色素失調症
色素失調症は、女児に発症しやすいといわれています。生後数日までに小さい水疱(水ぶくれ)や紅斑(赤み)が身体の一部に帯状で現れ、その後水疱は消退してザラザラした発疹に変化し、淡い色素沈着になります。4~5歳頃から皮疹は消退し、思春期になる頃にはほぼ消失します。これ以外にも、斜視などの目の異常や、歯や骨の部分的な欠損、けいれんを伴うこともあります。
主に皮膚科で行なっている検査には、「ダーモスコピー」や「皮膚生検」があります。
ダーモスコピーとは、拡大鏡を用いて皮膚表面を約10倍に拡大し、詳しく観察する検査法のことです。皮膚の表面に拡大鏡を軽く当てて行なうため、痛みもなく、検査時間も数秒程度です。色素の性状、良性の母斑症か悪性の母斑症かの鑑別、腫瘍(できもの)の鑑別などに使用します。
皮膚生検とは、診断または診断補助のために行なう検査です。皮膚に局所麻酔薬を注射した後、約3〜5mm程の皮膚を採取して細胞の構造や形を顕微鏡で調べます。局所麻酔のときに少し痛みがあります。検査時間は数分程度ですが、皮膚を採取した後に縫合することが多く、数mm傷跡が残ります。
神経線維腫症1型は、カフェオレ斑が6個以上みられる場合に疑います。身体の神経線維腫や脇、鼠径部(股の周囲)のそばかす模様の色素斑、骨の変形、眼の異常がないかなどを観察し、2つ以上の症状があれば、神経線維腫1型と診断します。
結節性硬化症は、遺伝子変異の有無で診断します。TSC1遺伝子またはTSC2遺伝子変異が見つからない場合や、遺伝子診断を受けない場合は、顔面の血管線維腫、身体の葉状白斑、けいれんの有無、腎臓や心臓の異常などがないか確認し、総合的に判断します。
色素失調症は、MEMO遺伝子変異の有無を検査し診断します。皮膚症状や皮膚生検は診断の補助になります。低年齢(小学校入学までなど)のときに皮膚生検を行なう場合は、局所麻酔で暴れてしまうことがあり、吸入麻酔や静脈などを用いた鎮静が必要になることがあるため、小児科医師と相談して検査の有無を判断します。
ここでは主に、皮膚科学的な視点から治療について説明します。
神経線維腫症1型
神経線維腫に対しては、外見上気になる部分や患者さんからの切除希望があれば、外科的切除を行なうことがあります。しかし、サイズが大きくなった神経線維腫(びまん性蔓状神経線維腫)は血管が豊富なため、切除時の出血に留意が必要です。一般的に、生命予後は良好といわれていますが、神経線維腫が急速に増大してきた際は、腫瘍の出血や悪性化(悪性末梢神経鞘腫)の疑いがあるため、注意しましょう。
脳神経症状や、脊髄神経に生じる神経線維腫については、脳神経外科や整形外科で治療を相談します。目の虹彩という部分に生じる神経線維腫は「リッシュ結節」と呼ばれ、通常視力障害はきたさないといわれていますが、眼科で治療について確認します。
結節性硬化症
2012年に腎臓の腫瘍や脳腫瘍に対して、エベロリムス(商品名:アフィニトール)内服薬が発売されました。副作用として、口内炎、感染症、高脂血症、座瘡、疲労、間質性肺炎などがあります。皮膚病変に対しては、外科的切除や、CO2レーザー治療、また、2018年発売されたシロリムス(商品名:ラパリムス)というゲル剤の外用薬があります。この薬は血管や線維芽細胞の増殖をおさえることで治療効果を発揮するだけでなく、内服薬と比較して副作用が少ないといわれています。2019年には、エベロリムスが結節性硬化症全体に対して適応となりました。
色素失調症
現在、色素失調症に対する治療法はないため、症状に対する対症療法を行ないます。
水疱は外傷を避け、時間の経過とともになくなっていくのを待ちます。炎症をおさえる場合はステロイドを使用し、二次感染予防のために必要であれば抗生物質を使います。
6個以上のカフェオレ斑や生まれたときに帯状の紅斑や丘疹、水疱がある場合は、神経線維腫症1型や色素失調症の可能性があるため、小児科や皮膚科を受診しましょう。結節性硬化症は、出生時~幼少時のてんかん発作や幼少時より出現してくる顔面の血管線維腫などが発見のポイントとなります。時期や症状に応じて、小児科や皮膚科、循環器内科や腎臓内科などで先生に相談してください。
神経線維腫症1型と色素失調症に関する予防法は特にありませんが、気になる症状があれば、小児科や皮膚科を受診することをお勧めします。
結節性硬化症は、日光暴露により顔面の血管線維腫が増悪することがあるので、遮光を心がけてください。口腔内に丘疹や腫瘍ができることがあるため、口腔内を清潔に保つことが大切です。顎骨に生じる骨嚢胞の早期発見のためにも、6歳頃までに顎骨のレントゲン撮影や歯科医へのご相談をお願いします。
解説:堀田 恵理
京都済生会病院
皮膚科 副部長
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