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2023.11.15
急性出血性結膜炎は、エンテロウイルス(EV)の一種である「EV70」と「コクサッキーウイルスA24変異株(CA24v)」という2種類のウイルスに感染したことで起こる急性の結膜炎です。
1960年代終わりに突然爆発的に大流行し、その後、1971年に日本のウイルス学者がEV70を発見して、「急性出血性結膜炎」と命名しました。現在は世界中でこの診断名が使われています。日本国内では各地でEV70とCA24vの小規模な流行が報告されていますが、大規模な流行は沖縄でのみ過去4回発生しています。
主な感染経路は手指を介したものであるため、沖縄の大流行では患者さんの大半は、不特定多数との接触機会が多い学生でした。
潜伏期間が1日と短く急激に発症するため、患者さんが発症時刻を覚えていることが多いのが特徴です。また、片方の目だけに発症した場合でも、翌日には両目に症状が出ることが多いです。
初期の自覚症状は、眼痛、異物感、羞明(しゅうめい=通常の明るさでも眩しく感じる状態)で、感染後1日以内に起こります。球結膜(白目を覆う表面の膜)に多発性の小さな出血斑(出血によって生じる紫や赤の斑点)が出現し、その後すぐに融合して出血斑になります。さらに出血斑は時間とともに合わさって結膜下出血(結膜の下にある小さい血管が破れて出血すること)となり、高齢者では結膜が浮腫状(白目の下に水がたまった状態)になることが多いです。
全身症状として疼痛、発熱、呼吸器症状がみられることもありますが、これらは1週間程度で軽快します。しかし、まれに結膜炎の症状が軽快後6~12カ月後に手足の運動麻痺を起こすことがあるため、経過観察が必要です。
多くは約1週間で自然治癒し、アデノウイルスによる流行性角結膜炎に比べると軽症です。
臨床症状から診断します。最も特徴的な球結膜に多発する小出血斑は、上まぶたを引き上げて診察します。その際、70~90%の患者さんに結膜下出血がみられます。結膜に強い充血と濾胞(ろほう=まぶたの裏の粘膜にできる小さなブツブツ)が起こり、まぶたの腫れや漿液性眼脂(しょうえきせいがんし=色が薄く粘り気の少ない目やに)を伴うことが多いです。加えて、耳の前のリンパ節腫脹がみられることもあります。
潜伏期間はEV70が1日、CA24vは2~3日で、流行性角結膜炎との鑑別は困難です。ウイルスを特定する病原診断は結膜擦過物(けつまくさっかぶつ=結膜をぬぐった液)を用いたRT-PCR検査で行ないます。ただし、病気になって3日目以降は陽性反応が出ない上に保険適応がなく、臨床検査会社に検査を委託することもできません。
はっきりと決まった治療法はありませんが、約1週間で自然治癒することが多く、治療が不要な場合も少なくありません。
ステロイド点眼薬の投与が必要になるような重症なケースはまれです。
医学解説の「急性出血性結膜炎の症状」の項で記したように、初期の段階では、眼痛、異物感、羞明が感染後1日以内にみられます。
もし重症の結膜炎かもしれないと思ったら速やかに眼科を受診し、上まぶたを引き上げて結膜の出血がないかを確認するなど、鑑別診断をしてもらいましょう。
EV70とCA24vは潜伏期が短く感染力が強いので、感染を広げないように予防することが重要です。予防にはアデノウイルスによる流行性角結膜炎と同様の対処が有効です。具体的には、以下を行ないましょう。
・流水下で石鹸を使い手指の手洗いを小まめに行なう
・家族内でのタオルの共有を避ける
・汚染したものは煮沸、塩素剤(オーヤラックス、家庭用塩素系漂白剤など)を使用する
急性出血性結膜炎は、感染症法の5類感染症(定点把握対象)に指定されています。また、学校保健法によって学校で予防すべき伝染病3種に定められており、感染した場合は学校医やその他の医師から伝染の恐れがないと認められるまでは「出席停止(通常3日以内)」となります。感染を広げないためにも、この間の登校は避けましょう。
解説:嶋 千絵子
野江病院
眼科部長
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