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2021.04.14
成人スチル病は、関節炎、発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫(かんひしゅ=肝臓や脾臓が増大する病気)などの全身症状を伴う炎症性疾患です。
1897年に英国の小児科医スチルが小児の例を「スチル病」として発表し、小児特有の病気だと考えられていました。その後1971年にバイウォータースが同じ症状を持つ成人例を報告し、「成人スチル病」の名称が定着しました。そのため成人スチル病は、小児期発症のスチル病から16歳以上になった人と、成人になってから発症した人(成人発症スチル病)の2種類があります。
原因は不明ですが、白血球の一部の単球やマクロファージと呼ばれる免疫担当細胞が、炎症性サイトカインという炎症を起こす物質(インターロイキンなど)を大量に産生し、これによって身体の中に強い炎症(高熱、関節炎など)が無秩序に生じると考えられています。
日本では、厚生労働省によって特定疾患に指定されています。政府の統計によると、2020年3月末時点でおよそ3400人の患者さんが医療機関を受診しています。女性にやや多くみられ、若年発症(16~30歳)が多いとされてきましたが、近年は高齢で発症する患者さんが増加傾向にあります。
主な症状は発熱、関節症状(関節炎や関節痛など)、皮疹(発疹)です。発熱は必ずといっていいほどみられ、39℃以上の高熱が出て、のどの痛みを伴います。熱は短時間で解熱します。
発熱すると、サーモンピンク疹と呼ばれる皮疹が現れ、解熱すると退色します。
関節症状は全身の関節に非対称性にみられ、手や足の大関節などを中心に、手指・足趾などの小関節にも現れます。
血液検査では炎症を反映し、以下の状態がみられます。
・赤沈値(赤血球が試薬内を沈んでいく速度)が速い
・CRP (C反応性タンパク:炎症があると血液中で上昇)の数値が高い
・好中球(白血球の一種)の増加
・炎症性貧血や肝機能障害
また、体内の貯蔵鉄量と相関している血清フェリチン値や、血清インターロイキン(IL)-18値が上昇したり、病気の勢いの程度を表す疾患活動性が異常に高い値を示したりする場合、マクロファージ活性化症候群(MAS)や播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん=DIC)を合併して重篤な状態に陥ることがあります。しばしば薬剤アレルギーがみられるケースもあります。
総合的な所見は患者さんごとに異なり、検査所見でも特徴的なものが少ないため、実際には感染症などの除外診断(似た病気の可能性を診察や検査で除外すること)が重要になります。中でも比較的特徴的な症状や検査所見の組み合わせで分類基準にしたがって診断されます。いくつかの診断基準がありますが、日本では以下のYamaguchiらの分類基準が用いられることが多いです。
また、症状によりスコアリングをして重症度を分類し、治療方法の選択に反映します。
大項目 1)39℃以上の発熱が1週間以上続く |
小項目 |
除外項目 1)感染症(特に敗血症、伝染性単核球症) |
2項目以上の大項目を含む総項目数で5項目以上に該当する場合に成人スチル病と診断する。 ただし、除外項目は除く。 |
漿膜炎 | 1点 |
DIC | 2点 |
血球貪食症候群 | 2点 |
好中球比率増加(85%以上) | 1点 |
フェリチン高値(3000ng/mL以上) | 1点 |
著明なリンパ節腫脹 | 1点 |
ステロイド治療抵抗性 (プレドニゾロン換算で0.4mg/kg以上で治療抵抗性の場合) |
1点 |
スコア合計点 | 0~9点 成人スチル病重症度基準 重症:3点以上 中等症:2点以上 軽症:1点以下 |
基本治療:ステロイド薬による治療を行ないます。マクロファージ活性化症候群(MAS)や播種性血管内凝固症候群(DIC)などの重症の合併症がある場合や、経口ステロイド薬で効果が不十分な場合には、ステロイドパルス療法(短期間ステロイド薬を大量に点滴投与する治療法)を行なうこともあります。
免疫抑制剤:ステロイド薬では効果が不十分な場合や、副作用で十分な量のステロイド薬を使用できない場合などに免疫抑制剤を使用することがあります。メソトレキセート(MTX)やサイクロスポリン(CyA)が選択されることが多いです(いずれも保険適応外)。
生物学的製剤:小児スチル病(全身型若年性特発性関節炎=sJIA)に対する有用性から、抗インターロイキン6受容体抗体の有効性が臨床的には知られていましたが、2019年5月に「既存治療で効果不十分な成人スチル病」に対してのみ保険適応となりました。
原因が不明で、遺伝性の病気ではないため、発症を予測できません。
いわゆる不明熱(原因不明の発熱)として発見されることが多く、そうした発熱や関節痛を繰り返す場合には、専門医の診断のもと、速やかに治療に入ることが大切です。
原因が不明で、遺伝性の病気ではないため、発症を予防することはできません。
しかし、この病気を発症した患者さんは、細菌やウイルスの感染症によってさらに悪化する可能性があるため、日常生活ではできるだけ感染症にかからないような注意が必要です。手洗い、うがいの励行、体調の維持、バランスのよい食事を心がけてください。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなども、アレルギーがなければ接種してください。特に生物学的製剤の治療を受けている人は、症状に変化があった場合の対応について主治医と十分に相談しておくことが大切です。
解説:松下 正人
泉尾病院
免疫内科部長
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