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2019.05.16
慢性骨髄性白血病は、血液中のすべての細胞を生み出す「造血幹細胞」に特徴的な異常が起こる病気です。特に、血液中の白血球が異常に増殖します。
自覚症状はほとんどないため、多くの場合、健康診断や定期血液検査などで偶然発見されます。発症後しばらくの期間を慢性期といい、症状はゆっくり進行します。しかし、放置しておくと、やがて症状が急に現れる急性転化期となり、急性白血病と同様に感染症や出血を生じやすく、治療が困難になります。白血球の中でも好中球系(骨髄球系)の細胞が特に増加しますが、通常、血小板は増加し、赤血球は減少します。なお、慢性骨髄性白血病は、急性骨髄性白血病が進行・長期化したものではありません。
細胞の設計図にあたる遺伝子に異常が起こって発症することが分かっています。9番染色体と22番染色体という特定の染色体にあるそれぞれの遺伝子が結合することにより異常なタンパクが造られ、白血球の異常増殖のもととなります。放射線被ばくをした人に比較的多く発症することが知られていますが、大多数の患者さんにおいては原因不明です。
血液検査によって白血球や血小板が増加していることが判明した場合、骨盤の腸骨より骨髄液を数CC採取して検査をします。これを骨髄穿刺(こつずいせんし)といいます。慢性骨髄性白血病では、骨髄の細胞密度は増加しており、染色体検査で、9番染色体の一部と22番染色体の一部が結合した「フィラデルフィア染色体」という特殊な染色体異常が検出されます。また、この染色体異常から造られるメッセンジャーRNA(bcr/abl mRNA)や異常タンパク(bcr/ablタンパク)も検出されます。わが国では大多数の患者さんは慢性期で診断されます。
慢性骨髄性白血病と診断され、慢性期であることが判明した場合、異常なタンパクの機能をピンポイントで抑える分子標的治療薬が処方されます。チロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれるもので、わが国で発症時から使用可能な薬剤は「イマチニブ」「ニロチニブ」「ダサチニブ」という3種類です。これらチロシンキナーゼ阻害薬は、異常タンパクと結合することにより、その異常な細胞増殖の指令を遮断します。異常な細胞増殖を抑えられた白血病細胞は著しく減少し、代わって正常な血液細胞が増加します。治療効果がとても良好な患者さんの中には、この薬を中止しても、慢性骨髄性白血病が再燃しない場合があるとされていますが、再燃した場合、同じだけの治療効果が得られるかどうかの保証はなく、現時点では決まった薬剤中止基準はありません。
3種類のチロシンキナーゼ阻害薬にはそれぞれ特徴があり、服薬の方法、副作用の現れ方が異なります。副作用としてよくみられるのは、むくみや発疹ですが、胸に水がたまる場合もあります。気になる症状が現れた際には、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。なお、グレープフルーツやセイヨウオトギリソウを含む健康食品などは薬の消化管からの吸収に影響を及ぼすため、一緒に内服しないようにしてください。
また、妊娠中の女性がチロシンキナーゼ阻害薬を服用すると、胎児に奇形が起こることがあると考えられており、服用中は避妊をすることが勧められています。妊娠を希望する場合、がん治療に利用されるインターフェロンαによる治療に切り替えるなどの選択肢もあります。男性における避妊の必要性は明確になっていません。
慢性骨髄性白血病の治療中に、薬が効きにくい遺伝子異常が判明した場合や急性転化期に移行した場合は、治療効果のある別のチロシンキナーゼ阻害薬に変更するか、移植可能年齢であれば、同種造血細胞移植の施行を検討します。
慢性骨髄性白血病の診断・治療には、専門的な知識が必要です。また、治療が長期にわたることもあり、患者と医師の信頼できる関係を築くことも重要です。
貧血による倦怠感や脾臓腫大によるお腹の張りを自覚し、医療機関を受診する場合もありますが、大多数の患者さんは、健康診断や定期検査の採血で白血球が増加していることで発見されます。健康診断で白血球数の異常を指摘され、「要精査」と判定された場合は、早めに血液内科を受診しましょう。
大多数の患者さんでは原因が特定できないことから、確実な予防法はありません。白血病は遺伝子異常により発症する病気であり、放射線被ばくやベンゼンなどの化学物質にさらされることは、その発症原因となりえます。そのため、有害物質を吸入する喫煙は避けたほうが無難と考えられます。ただ、類縁の疾患である急性骨髄性白血病では、疫学調査により喫煙で発症率が約2倍になることが示されているものの、慢性骨髄性白血病では喫煙との因果関係を示す報告は、いまのところありません。
解説:藤田 浩之
済生会横浜市南部病院
診療部長・血液内科主任部長
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