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2022.02.16
生まれつき難聴を持っている状態を先天性難聴といいます。新生児の1000人に1人の割合で両耳の難聴があるといわれています。片耳の難聴については明確には分かっていませんが、さらに多いと考えられます。
難聴の程度は、全く聞こえないものから少し聞こえにくいくらいまでさまざまです。主な原因としては遺伝子の異常のほかに、母親が妊娠中にトキソプラズマ症(トキソプラズマという原虫による感染症)やサイトメガロウイルス感染症、風疹などの感染症にかかった場合、出産時に早産や胎盤の異常等で新生児仮死などのトラブルがあり耳に障害を負った場合が挙げられます。新生児仮死とは、出生時に子宮内から子宮外に出る過程で、さまざまな原因により呼吸不全(低酸素)に陥った状態をいいます。
通常、新生児は外見や行動などでは耳が聞こえているかどうか判断できません。以前は言葉がなかなか出てこないなど、ある程度成長して初めて発見されていましたが、近年は出生直後に新生児聴覚スクリーニング検査(ふるい分けのための検査)が行なわれるようになりました。
この検査は、簡単な機械を新生児に装着して話し声程度の音を聞かせ、脳波や内耳からの反射音を測定することで、音が聞こえているかを機械が自動判定するというものです。検査時間は長くても10分程度で、新生児が寝ている間に簡単に行なえます。
この検査で異常がみられた場合、乳幼児聴力検査やABR(聴性脳幹反応検査)、ASSR(聴性定常反応)といった客観的な聴力検査によってさらに詳しく調べた上で、診断が確定します。
出生早期から診断するのは、その後の治療や療育につなげるためです。特に高度難聴でほとんど音が聞こえていないような場合は、おおむね3歳までに診断して治療や専門的な療育をすれば、言葉の発育を促し音声言語(音声によって表現、理解する言語)を獲得できます。しかし、診断や治療、療育のタイミングが遅れると、音声言語を獲得できる可能性が極端に低下してしまいます。診断や治療にある程度時間がかかることを考えると、出生直後に検査をすることが必要になります。
軽度から中等度までの難聴では補聴器の使用、高度から重度の難聴では人工内耳手術を行ないます。補聴器は基本的には高齢者が使用するものと変わりませんが、乳児の小さい耳に合わせたり、小児の激しい動きにも対応できるようにさまざまな工夫がされています。特に乳児期で補聴器を使用する場合は、適切に調整するために高い専門性が必要になります。
人工内耳手術は、内耳に聞こえの神経を直接刺激する電極を埋め込む手術です。補聴器では効果が見込めない高度以上の難聴でもこの手術によって音が聞こえるようになり、音声言語を獲得できるようになります。ただし、成長してからの対応では効果が乏しいため、早期発見と治療が重要になります。
人工内耳のしくみ
難聴の早期発見は効果的な治療や療育につながるため、新生児のその後の人生にとって大変重要です。
新生児の聞こえが正常かどうかは見た目などでは判断できません。新生児聴覚スクリーニング検査は出生後数日目に簡単な機械によって耳が聞こえているかどうかを自動判定する検査です。痛みや身体への影響などは全くありません。この検査は健康保険の適応外ですが、費用を助成している自治体も多くあります。詳細については住んでいる自治体へお問い合わせください。
先天性難聴とはやや異なりますが、出生後に難聴が現れる場合もあります。この場合は新生児聴覚スクリーニング検査では発見できませんので、母子手帳などにあるチェック表の中の音に対する反応や、言葉の発達などをみる項目も活用しましょう。少しでも不安があれば耳鼻咽喉科や小児科に相談してください。
先天性難聴では原因が特定できていないことも多く、完全に予防するのは難しいのが現状です。予防よりは早期発見・早期治療が重要です。
現在、いくつかの遺伝子が難聴を起こす原因として特定されています。兄弟に難聴があった場合に、次に生まれてくる子どもが難聴を発症する可能性があるかについては、ある程度診断できる場合があります。
感染による難聴は、風疹などワクチンがあるものについては妊娠前に受けておくことで予防ができます。女性はもちろんのこと、パートナーの男性や家族もワクチンを受けることでさらに感染の機会を減らし、予防に努めることが重要です。風疹のワクチンについては、以前は公的接種の対象でなかった中年男性に対して接種が勧められています。
他の感染症については、すでに感染したことがあるかどうかを調べることで、どの程度注意が必要か判断できます。
妊娠初期の感染や薬物摂取は、難聴に限らず、さまざまな先天性の病気の原因になる可能性があります。慎重に行動し、不安があれば産科医に相談してください。
解説:小田 直治
境港総合病院
耳鼻咽喉科部長
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