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2022.03.23
悪性腫瘍は、発生した身体の部位(細胞)によって分類され、消化管壁の表面を覆っている粘膜など(上皮細胞)から発生するものは「がん(癌)腫」と呼ばれます。例えば、胃の粘膜から発生したものは胃がん、大腸の粘膜から発生すれば大腸がんになります。
一方、消化管壁の粘膜の下の筋肉や脂肪、神経など(非上皮細胞)から発生する腫瘍は、粘膜下腫瘍と呼ばれます。この中で悪性のものを「肉腫」といい、消化管間質腫瘍(GIST=ジスト)はその一つです。
GISTは粘膜下腫瘍の中で最も多くみられ、消化管壁の筋肉層内の特殊な細胞(カハール介在細胞)から発生することが分かっています。この細胞は胃に多く存在するため、GISTが最も多く発生する部位は胃であり、次いで小腸、大腸の順となります。
GISTの患者さん全体の10~20%に肝臓への転移がみられます。さらに腫瘍が大きくなると、腹腔(内臓を覆っている腹膜に囲まれた空間)内に腫瘍細胞が種を播くように飛び散って、腹膜播種(ふくまくはしゅ)転移が起こることもあります。
日本では人口10万人あたり年間1~2人発生するといわれており、50~60歳代に発症しやすいことが分かっています。
GISTは胃がんや大腸がんに比べて症状が現れにくいという特徴があります。また、症状があっても軽度の場合が多いため、病状が進行してから発見される人も少なくありません。
腫瘍が大きくなると潰瘍(かいよう)が形成され、下血や吐血、あるいは慢性の消化管出血から貧血をきたすことがあります。腫瘍の発生場所や発育形式によっては、嚥下困難(飲み込みにくくなっている状態)や腹部腫瘤触知(おなかを触ってしこりがあるのを認識すること)を訴えて医療機関を受診する人もいます。
GISTの診断に有用な血液検査はありません。健康診断や人間ドックなどでの消化管内視鏡検査、消化管造影検査、便潜血検査などで、粘膜下腫瘍が疑われる結果が出ることで、診断につながることがあります。
GISTの確定診断には細胞・組織を検査する病理検査が必要です。消化管内視鏡検査にて発見された粘膜下腫瘍の組織を採取して、免疫染色という特殊な処理を行なった後、顕微鏡で観察して診断します。このように、患者さんの身体(患部)の一部を採取して、顕微鏡などを用いて調べる検査のことを生体検査(生検)といいます。
GISTは粘膜の下に存在するため、通常の消化管内視鏡検査による生検では組織が採取できない場合があります。そのようなケースでは、超音波内視鏡検査(EUS)を用いて腫瘍内部に針を刺して腫瘍の細胞・組織を採取します(針生検)。
また、CT検査、MRI検査、PET検査による画像診断も有用です。
原則としては手術で腫瘍を切除することが根治的(病気を完全に治す)治療となります。腫瘍の大きさが5cmを超える場合には、手術による切除が適応されます。大きさが2cm未満の場合には一般的に経過観察となることが多いです。
GISTは再発の危険性の高さに関して、腫瘍の大きさ以外に腫瘍細胞の分裂の度合いを加味したリスク分類がなされています。腫瘍の大きさが2~5cmの場合には、それぞれのリスク分類と症状の有無によって手術が適しているかを判断します。主治医を交えて慎重に治療方針を決めていくことが大切です。腫瘍の大きさが5cm以下の場合には、身体などへの負担が少ない腹腔鏡下手術が適応される場合が多くなります。
また、GISTには分子標的治療薬(特定の分子・遺伝子に照準を絞って攻撃する薬)のイマチニブの効果が確認されています。手術で腫瘍を完全に切除できない場合などには、イマニチブを用いた治療も行なわれます。
GISTは、c-kitあるいはPDGFRAと呼ばれる遺伝子が変異することで発生・増殖します。しかし、現時点ではこのような遺伝子変異が起こる理由については分かっていません。
また、早期には症状が現れることが少ないため、たまたま検査などでみつかる以外には早期発見が難しいと考えられます。
健康診断や人間ドックなどで定期的に消化管内視鏡検査、消化管造影検査、便潜血検査などを行ないチェックすることをお勧めします。
現時点では、GISTに対する適切な予防法はありません。症状がほとんどみられないこともあり、定期的に検査を行なう以外には早期発見も難しいといえます。
解説:中村 慶春
神栖済生会病院
院長
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