2013.02.01 公開
2025.10.30 更新

急性白血病

leukemia

監修:菊池 隆秀 (東京都済生会中央病院 血液内科)

白血病はこんな病気

白血病とは、異常な血球が増殖し、正常な造血が営めなくなる病気です。白血病によって増殖していく白血病細胞が白血球の正常値の100倍以上増殖すると血液が白色を帯びるために、白血病と名付けられました。
日本国内で白血病と診断される人は年間約1万4800人(男性8600人、女性6200人)とされており、患者の約60%を占める約8800人が慢性骨髄性白血病を発症している(10万人あたり7.1人程度)と考えられます。進行が速く、無治療では1~3カ月以内で致死的になるため、出来るだけ早く治療を始める必要があります。
まずは正常な造血について説明し、その後に白血病がどのような病気かについて記していきます。

正常な造血とは

私たちの血液には、血漿という淡黄色の液体成分の中に、白血球・赤血球・血小板という血球が存在しています。白血球はウイルスや細菌などの外敵を攻撃し、赤血球は身体の隅々に酸素を運び、血小板は血液を固めます。これらの血球は、骨の中心にある骨髄というスペースで、造血幹細胞から作られています。造血幹細胞はすべての血球の「種」と言えます。

花の種とは異なり、造血幹細胞は自分自身を複製し、骨髄系前駆細胞またはリンパ系前駆細胞への成長(分化・成熟)を経て白血球・赤血球・血小板のすべてを作り出すことができます。血球を作り出すことを「造血」といいます。造血により、新しい細胞が次々に作られ、古い細胞が廃れる、新陳代謝が繰り返されています。

血液細胞が分裂、増殖して次世代の細胞を作るためには、その情報を正確に伝達する設計図が必要です。細胞内にある設計図を「遺伝子」といい、遺伝子が折りたたまれ凝縮したものを「染色体」といいます。

白血病は血液の「がん」

白血病の本質は、血球のもととなる造血細胞の遺伝子や染色体に異常が起きたり異常が重なったりすることで、異常な血球(白血病細胞)が無制限に増殖することであり、いわば血球が「がん化」している状態です。増殖する異常細胞の種類と増殖の仕方によって、急性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成症候群などがあり、異常な赤血球や血小板が増殖する場合もあります。ここでは急性白血病について解説します。

急性白血病の症状

骨髄の中で白血病細胞が増殖し、正常な血球が造られる余地がなくなると、感染しやすく傷が治りづらい・ふらついて疲れやすい・出血しやすい、などの症状が現れます。疲労感・脱力感頭痛・息苦しさを自覚することもあります。

白血病細胞が血管の外に広がると、リンパ節・皮膚・歯肉の腫れや、脳神経などの症状を起こすこともあります。一方で、無症状のまま、健康診断などの血液検査をきっかけに発見されることも少なくありません。慢性白血病の場合は、比較的進行が遅いのですが、時間が経つと急激に症状が出現するようになることもあります。

急性白血病の検査・診断

急性白血病は、増殖する異常細胞の種類によって「急性骨髄性白血病」「急性リンパ性白血病」に大別され、更に遺伝子異常や細胞の分化(成長)の度合いによって細かい病型に分類されます。適切な治療のためには、患者さんがどの白血病に該当するのかを正確に判断することが不可欠です。

白血病の正確な診断と病型の分類のための検査は主に血液検査と骨髄検査があります。骨髄検査では、造血のスペースである骨髄に針を刺して骨髄液や骨髄組織を採取することで、より詳細な診断を行なうことができます。一般的に、骨髄検査はうつぶせになり、腸骨(ベルトが当たる辺りの位置にある骨)に針を刺して行ないます。ごくまれに、胸骨(胸の骨)から検査が必要になることもあります。
また、検査は診断時だけではなく、治療の効果や副作用の程度を判断するために繰り返し実施する必要があります。

1. 細胞の観察
血液および骨髄液を顕微鏡で観察し、血球の数や割合、形態の詳細を調べます。結果は概ね数時間である程度判定できますが、最終確定ではなく、以下2, 3, 4の詳細検査などもあわせて判定します。

2. 細胞の免疫学的検査(フローサイトメトリー法)
主に細胞の表面にある分子を検出することによって異常細胞の性質を調べる検査です。患者さんの血球に、色素で色付けされた蛍光抗体というタンパク質を加えて機械で分析することによって、異常な細胞の種類を絞り込み、異常細胞の性質や血球全体に占める割合を推定します。概ね数日以内に判明します。

3. 細胞の遺伝子・染色体検査
白血病に特有の遺伝子の変異を、遺伝子を増幅させるPCR法や蛍光抗体を用いるFISH法で検出します。概ね1週間程度で結果が判明します。また骨髄細胞を培養、分裂させた際に観察できる血液細胞の染色体をG分染法という処理をして同定しますが、その検出には2週間程度を要します。

4. 病理組織検査
骨髄検査では、原則として骨髄液の吸引採取(骨髄穿刺)と、骨髄組織の一部の採取(骨髄生検)を実施します。
白血病の発症時などで異常細胞が極端に多い場合や骨髄が線維化を起こしている場合には、検査に十分な骨髄液が採取できない可能性が数%あるとされており、その場合、後者の骨髄生検の検査が診断の重要な役割を占めることとなります。

急性骨髄性白血病の治療

ここでは、成人に最も多い急性骨髄性白血病の治療について解説します。
急性骨髄性白血病の治療は、体内の白血病細胞を根絶させ、その後に正常な造血を回復させるために実施します。治療は複数回、数か月にわたる治療が必要となります。

急性白血病の治療は、選択する治療法にもよりますが、治療開始後1~2か月程度にわたる入院での治療が必要となることが多く、その後も病気を完治させるためには数か月にわたる治療が必要です。その間、短期的な退院も可能ですが、治療内容によっては連続的治療が行なわれ、概ね約半年程度、人により1年程度の入院や退院の治療が必要になります。

寛解導入療法
白血病細胞をできる限り減らすことを目的に、最初に行なう薬物療法を「寛解導入療法」と呼びます。ここでいう寛解(かんかい)とは、血液検査で異常細胞が見られず、骨髄検査をしても白血病細胞(主に芽球と呼ばれます)の割合が骨髄細胞全体の中で5 %以下になった状態をいいます。白血病細胞が減ることで、正常な造血が回復することが期待されます。

薬物治療には、主に①複数の抗がん剤を組み合わせて投与し白血病細胞を死滅させる化学療法と、②代謝拮抗薬・分子標的薬等を組み合わせて投与する治療方法とがあります。いずれの治療が適しているかは白血病の病型・患者さんの年齢や併存疾患などから総合的に判断されます。患者さんご自身の希望される人生設計も重要です。
治療開始の初期、概ね1週間以内は、体内で薬剤と白血病細胞が反応し、大きな変化が生じます。「腫瘍崩壊症候群」は、腫瘍細胞が急速に壊れることで細胞内の老廃物が短期間に大量に血液中に放出され、体内の平衡が保たれなくなる病態です。寛解導入療法は、1か月程度にわたって連続して入院して治療することが多く、患者さん本人やご家族にとってとても大変で重大な出来事です。しかし治療の進歩に伴い、高齢者も含めて治癒できる方が増えており、医療者側にとって今まで以上に患者さんとも希望をもって治療に当たることができる疾患となりました。

白血病では、白血病細胞の増加で正常な造血が出来なくなっていることに加え、治療により正常の血球も一時的にダメージを受けるため、ほとんどの方で献血者から提供される輸血(赤血球・血小板)が必要となります。急性白血病を発症して寛解に至るまでの期間は、免疫力が低下しているために感染症を併発しやすくなったり治りにくくなるのが特徴で、一部の方では重症化することもあります。また、ほとんどの患者さんが治療中に発熱を経験されます。

体内に侵入した細菌やウイルスを排除する役割を持つ白血球は輸血をして増やすことができないため、正常の白血球が少ない期間には感染症にかかりやすくなったり、急激に悪化することもあります。近年、これらの合併症に対する予防法、治療は、無菌室管理も含めて目覚ましく進歩しており、以前よりはるかに安全に治療が行なえるようになりましたが、致死的になってしまう方もおられ、これは患者さんの年齢、臓器機能や併存症などによっても異なります。

寛解導入療法で寛解が得られた場合、体内の白血病細胞は診断時の100分の1ないし1000分の1程度まで減少していると考えられています。寛解が得られなかった場合には、患者さんの状態やご本人のご希望を伺いながら、適切な治療を検討します。

地固め療法
白血病治療において、寛解は通過地点でありゴールではありません。寛解に至っても体内には相当量の白血病細胞が残っており、その後の治療を行なわなければ、病気はほぼ必ず再発してしまうとされています。寛解後は、残存する可能性のあるがん細胞をさらに減らし、再発を防ぐために「地固め療法」を行ないます。
白血病の病型や薬の効き方によって、地固め療法として薬物療法を繰り返し実施するのが望ましい人と、同種造血幹細胞移植を行なうことが望ましい人がいます。
  
同種造血幹細胞移植とは、健常人の造血幹細胞を、輸血のようにして患者さんに移す治療です。造血幹細胞の提供者をドナーといいます。事前に抗がん剤や放射線などを用いて患者さんの造血機能を絶やし、空き家となった骨髄に健常人ドナーの造血幹細胞を入れると、体内で新たに造血が始まります。
患者さんとドナーとは、造血幹細胞移植のためのタイプ(血液型ではなく、免疫にかかわるヒト白血球抗原/HLA抗原)がある程度一致している必要があります。

同種造血幹細胞移植は、患者さんの兄弟姉妹などから供与される血縁者間骨髄や末梢血幹細胞移植、日本骨髄バンクに登録された善意の提供者から供与を受ける非血縁者間骨髄移植、非血縁者間末梢血幹細胞移植、さい帯血バンクで凍結保存されている臍帯血(さいたいけつ=出産時にへその緒から採取される血液)を用いる臍帯血移植があります。
どの造血幹細胞移植を受けるのが最適なのかは、患者さんの病状、体格、年齢、併存疾患などにより異なるため、主治医から十分な説明を受けるのがよいでしょう。

急性白血病の治療期間は数か月に及び、造血幹細胞移植ではさらに長期に及ぶこともあります。治療が終わってもすぐに社会復帰できない場合もあり、元通りの社会生活を行なえるようになるまで月単位以上の時間がかかることが多いと考える必要があるでしょう。

早期発見のポイント

健康診断などでの血液検査で偶然に異常が見つかることが近年増えています。いつもとは違う疲労感・脱力感、原因のわからない発熱、顔色不良の自覚や周囲からの指摘、あざが出来やすくなった、などの症状で発見されることもあります。血液検査の数値の異常は採血しなければ予測するのは難しいため、上記のような症状がある方はかかりつけ医や内科の医療機関を受診するのが良いでしょう。

予防の基礎知識・患者さんができること

白血病の原因はまだはっきりわかっていないので、生活習慣病のように自分で予防することは難しいと考えられます。しかし、喫煙が一定の確率で白血病の発症を増やすことが分かっており、喫煙は望ましくない習慣といえそうです。
白血病のごく一部の特殊型で、HTLV-1ウイルスが感染することで発症する成人T細胞白血病・リンパ腫という疾患があります。このウイルスは母乳を介して母から子に伝わるため、2010年以降、母親がウイルスの抗体を持っていないか妊婦健診で調べ、陽性であれば母乳を与えないことでウイルス感染が予防でき、結果としてこの疾患の発症が予防できることが知られています。

このように、予防は難しいのですが、白血病と診断され治療が始まったのちに大切なことは、気になる症状があれば医療従事者に伝えること、感染の予防に努めること、可能な範囲でリハビリテーションに努めることです。痛みや気持ちのつらさ、経済的な不安などがあるときにも我慢せずにスタッフに伝えることが大切です。

白血病は、疾患が診断されたら治療を速やかに受けたほうが良い結果を導くことができる可能性が高い疾患です。血液検査で受診を勧められた場合は、医師の指示に従って速やかに専門の医療機関を受診するのが最善の結果を生む可能性が高いと言えるでしょう。

 

監修:菊池 隆秀 
東京都済生会中央病院
血液内科


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。

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