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2023.05.17
壊死性腸炎は主に出生体重1500g未満の早産児に発症する重篤な消化管合併症です。
早産児の未成熟な腸管そのものが健康上のリスクとなりますが、そこに高浸透圧の薬剤や、不適切な腸管栄養(チューブで腸に栄養分などを直接注入すること)などによる刺激が加わり、腸管壁(腸の内面を構成する組織)が壊死した状態が壊死性腸炎です。
壊死性腸炎は、腸管内の細菌叢(さいきんそう=細菌の集団)が乱れた場合に起こりやすいとされます。腸管内の細菌に腸管壁の免疫が過剰に反応してしまうことにより、さらに病状が悪化していきます。
国内の在胎期間32週未満または出生体重1500g以下の新生児を対象としたNRNデータベース(周産期母子医療センターネットワークデータベース)によると、2019年の壊死性腸炎発症率は1%となっています。
腹部症状
胃内残乳量の増加、腹部膨満、胆汁を含んだ嘔吐、鮮血便、腹壁(腹部の内臓を取り囲む組織)の色の変化などがみられます。
全身症状
活気不良(泣かない・ぐったりしているなど)、無呼吸、体温不安定、徐脈(脈が遅くなる)などがみられます。
また、腸穿孔(ちょうせんこう=腸に穴が開くこと)により腹膜炎や敗血症を引き起こすと全身状態は急激に悪化します。すべての腸管が壊死する劇症型(進行が急で予後不良)の壊死性腸炎もまれに起こります。その場合、救命は難しくなります。
腹部X線検査で、腸管の拡張やイレウス(腸閉塞)、腸管壁内や腹腔内のガスの状態などを調べます。腸管壁内のガスや門脈(胃腸などの血液を肝臓へ運ぶ静脈)内のガスの状態は、腹部超音波検査によってより詳細に確認できる可能性があります。
血液検査では、血小板や好中球(白血球の一種)の減少、赤芽球(赤血球となるまでの途中段階)の増加、代謝性アシドーシス(血液のpHが酸性に傾くこと)などがみられます。
壊死性腸炎が疑われる場合は、直ちに以下のような内科的管理を開始する必要があります。
腸管栄養の中止、胃・腸管の減圧(ガスを小まめに抜く)、静脈栄養(静脈からの栄養投与)の開始、呼吸・循環管理、抗生物質の投与など。
腸穿孔が起これば、外科的治療が考慮されます。状況に応じて壊死腸管の切除・吻合(ふんごう=縫い合わせること)、人工肛門の造設などを行ないます。
全身状態が外科手術に耐えられないと思われる場合は、腹腔ドレーン(体液や消化液、膿などを外へ出すための誘導管)を体内に挿入し固定する措置だけをして、状態の改善を待つこともあります。術後の栄養管理がその後の状態を左右します。
人工ミルク(粉ミルク)、抗生物質の投与、胃酸を抑制する薬の投与など、壊死性腸炎を引き起こしやすいとされているリスク要因を把握し、使用法や服用量に気を付けましょう。
また、活気不良、体温不安定、無呼吸発作の増加、胃の中の残乳の増加など、壊死性腸炎の初期症状と思われる状態を見逃さないことも早期発見には重要です。
壊死性腸炎を予防する最もエビデンスのある栄養補給は「母乳栄養」です。母乳栄養は粉ミルクを使った人工栄養と比較して、壊死性腸炎の発生頻度が明らかに低くなります。
母乳栄養のためには、母親に搾乳を続けてもらう必要があります。ただ、どうしても母親の搾母乳が得られない場合は、日本母乳バンク協会のドナーミルクを使用する方法もあります。
そのほかの予防につながる方法としては、不必要な抗生物質の投与を行なわない(腸管内の正常細菌叢を乱してしまうため)、胃酸の分泌を抑制する薬を避ける、重度の貧血を避ける、などが有効と考えられています。
解説:奥谷 貴弘
兵庫県病院
副院長 小児科部長
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