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2024.08.14
薬剤性腸炎とは、薬剤の使用が原因で起こる腸炎です。原因となる薬剤の多くは抗菌薬(抗生物質)によるもので、抗生物質起因性腸炎と呼ばれ、「偽膜性腸炎」と「急性出血性腸炎」に大別されます。
1) 偽膜性腸炎
抗生物質の使用から数週間以内に、高齢者や腎不全患者など基礎疾患を持つ人に起こりやすいことが特徴です。「何かしらの感染症で入院して抗生物質を使用し、その病気が治ったと思ったら下痢が始まる」というのが典型例です。
抗生物質の使用で腸内細菌のバランスが乱れ、クロストリジウム・ディフィシル(CD)という菌が異常に増殖し、産生される毒素(CDトキシン)が粘膜を傷つけます。内視鏡検査をすると「偽膜」と呼ばれる特徴的な黄白色小隆起(壊死した粘膜)がみられます。
2) 抗生物質起因性急性出血性腸炎
抗生物質の使用から2〜3日後に、血性の下痢や腹痛などが急激に発症します。10〜20代の若い人に多く、薬のアレルギーが関係しているといわれています。
3) そのほかの薬剤性腸炎
痛み止めの薬(非ステロイド系消炎鎮痛剤:NSAIDs)は、副作用として胃潰瘍のリスクがあります。このNSAIDsは胃のほかに十二指腸・小腸・大腸にも、ただれや粘膜の炎症による潰瘍(かいよう)を作りやすく、下血や貧血の原因になります。3カ月以上NSAIDsを内服した患者さんの約70%に小腸粘膜障害が確認されたという報告もあります。
また、血液をサラサラにする低用量アスピリンなどの抗血小板薬もNSAIDsと同様に、消化管の粘膜障害を起こすことがあり、併用によって出血リスクが高くなるといわれています。ほかにも、抗がん剤による腸炎、胃薬(ランソプラゾール)による膠原線維性大腸炎、漢方薬(山梔子)による静脈硬化性大腸炎、経口避妊薬による虚血性大腸炎などが知られています。
腹痛、下痢、血便、発熱などが主な症状です。便の性状(水様便、血便など)は、原因となる薬剤によって異なります。これらの症状だけでは、感染性腸炎などほかの病気と区別することが難しいです。
下痢や下血が続くと倦怠感や動悸がみられます。さらに、重症化して腸の動きが悪くなると、お腹が著しく張って腸閉塞に近い状態となり、命にかかわる場合もあります。
問診で治療に使用した薬や入院歴を確認し、血液検査で炎症の程度や貧血・脱水の有無を調べます。その後、便を採取してCD抗原やCDトキシンを調べたり、細菌を増殖させる便培養検査で診断します。大腸内視鏡検査で偽膜を確認すれば偽膜性腸炎と診断できます。
まずは薬剤性腸炎の原因になっている薬剤を中止します。そのうえで、一時的に食事を止めて腸管の安静を保ち、輸液を行ないます。偽膜性腸炎では特殊な抗菌薬(メトロニダゾールまたはバンコマイシン)内服による治療を行なう場合もあります。
薬剤性腸炎は原因薬剤によって経過や注意点が異なります。心配な症状があれば、早めに医師に相談してください。
薬を服用する際は必ず医師の指示に従うようにしてください。自己判断で薬の服用をすることは避けましょう。
解説:中村 由紀子
山形済生病院
消化器内科
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