2014.02.20 公開
2025.10.30 更新
ノロウイルスによる感染性胃腸炎
infectious gastroenteritis caused by norovirus
解説:安井 良則 (中津病院 院長補佐・感染管理室長)
ノロウイルスってどんなウイルス?
ノロウイルスは、感染・発症すれば激しい嘔吐や下痢を引き起こします。ノロウイルスによる感染性胃腸炎は以前からみられていた感染症ですが、ノロウイルスという名称が決定されたのは21世紀に入ってからであり、多くの人にその病態や感染経路が一般に周知されるようになってからはまだそれほど年数は経過していません。
生の牡蠣を食べるとノロウイルスに感染することがあるため、生牡蠣に対して“食中毒の原因”というイメージを持たれている方が多いかもしれません。しかし、実際には下痢便や吐いた物を介して、人から人へと感染することの方がはるかに多いです。ノロウイルスは感染力が非常に強いため、保育園や幼稚園、小学校、高齢者施設や病院などで集団感染がよく起きています。
新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、ここ数年ははっきりとした流行がみられないシーズンもありましたが、これまで例年11月~翌年4月ごろに流行する感染性胃腸炎の多くは、ノロウイルスの感染だといわれています。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎の症状と治療法
ノロウイルスに感染すると、1~2日間の潜伏期間後、1日数回から多い場合は10回以上もの嘔吐・下痢が起こります。通常、血便にはなりません。この症状は、十数時間から数日ほど続きますが、それほど長引くことはあまりありません。ノロウイルスは空気感染はしませんが、感染力は強く、嘔吐した際に飛び散った飛沫によって感染する場合があります。また嘔吐物や下痢便に含まれているウイルスが乾燥後に埃とともに舞い上がり、それを吸い込むことによって起こる感染(塵埃感染)が発生する場合もあります。嘔吐や下痢の症状がある間は、保育園や幼稚園、学校、会社などは休むことが望ましいです。
ウイルスによる感染症なので、抗菌薬は効果がありません。そのため、吐き気止めや整腸剤などで症状を緩和しながら、安静にして症状が治まるのを待つという対症療法が基本となります。脱水になることを防ぐために、こまめに水分を補給することも重要ですが、症状が強く、水分を受け付けることが困難な場合は経静脈点滴を行なう場合があります。下痢止めはウイルスの排泄を遅らせてしまう可能性があるので、通常は使わないほうがよいとされています。
前述したように、症状のある期間はそれほど長くはないため、他の病気や合併症がなければ、入院などの治療が必要とされることはあまりなく、自然に治ります。ただし小さな子どもや高齢者は重症化しやすいため、注意しましょう。
脱水に注意しながら安静に
ノロウイルスによる感染性胃腸炎になったら、安静にして症状が治まるのを待ちましょう。特に小児や高齢者は脱水をきたしやすいですから、それを防ぐために、嘔吐や下痢によって失われた水分と塩分をバランスよく補うことが大切です。水やお茶だけではなく、電解質や糖分がバランスよく含まれている経口補水液をお勧めします。
消毒を徹底して
ノロウイルスは逆性石けん(医療や介護の現場でよく使われる除菌液)やアルコールでは消毒効果があまり期待できません。したがって、例えば床に吐いた物を水拭きや洗剤だけで処理してしまうと、乾燥後に残ったウイルスの粒子が舞い上がり、数日にわたってその場所に近づいた人が吸いこんで感染する場合があります(塵埃感染)。
そのため、嘔吐物や下痢便が付着した場所や物品に対しては、付着した嘔吐物や下痢便を拭き取って取り除いた後、当該の場所・物品を塩素系の消毒薬で消毒するか、可能な物品(衣類等)については熱湯で消毒する等の方法があります。
消毒する際は、以下の点に気を付けましょう。
・床や家具などは、家庭用の塩素系消毒薬(5~6%濃度)を50~200倍程度に薄めたもので拭き取る。
・処理をするときは、マスクと手袋を装着する。可能であれば、ゴーグルを着用すべきである。処理をする間、他の人は3メートル以内に近づかないようにする。
流行に備えて手洗いを
ノロウイルス感染症は毎冬のように流行します。また、ノロウイルスは環境中において、室温では10日間前後は失活せずに感染力を保っていると言われています。従って、ノロウイルスが付着した手でドアノブや手すり、スイッチ等を触った場合、これらの物品にはノロウイルスが何日間も感染力を保ったまま付着していることとなります。手を触れた人がその手で口唇に触れるなどすれば、新たにノロウイルスに感染する可能性があります。
そのため特に流行時期は、感染対策として石鹸を使って流水で手洗いを行なうことが重要です。洗面器などに溜めた水で洗うことは返って感染の危険性が増しますので、水道から流れる水を使ってきちんと洗い流しましょう。
感染力が非常に強いウイルスであるため、完全に感染を予防することは難しいですが、流水・石けんによる手洗いの徹底が対策として非常に重要です。

解説:安井 良則
中津病院
院長補佐・感染管理室長
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