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2023.04.26
ナットクラッカー症候群は、左の腎臓から心臓に戻る血管(左腎静脈)が、腹部大動脈と上腸間膜動脈(腸や膵臓に血液を送る動脈)の間に挟まれることで、腎臓で血液がうっ滞(静脈内に停滞すること)して血尿を引き起こす病気です。別名を「左腎静脈捕捉症候群」といいます。
左腎静脈が2本の動脈に挟まれた形が、ナッツの硬い殻を割るナットクラッカー(くるみ割り器)に似ていることから、くるみ割り現象(nutcracker phenomenon)と呼ばれており、この病名の由来にもなっています。
若い痩せた女性にみられることが多く、無症候性血尿(症状を伴わない血尿)が主な症状です。血尿は断続的にみられ、時には脇腹や背中の痛みを伴います。
血尿が続く、または濃くなると貧血を起こし、さらに症状が悪化すると腰痛を伴うようになります。
なお、左腎静脈を挟む腹部大動脈と上腸間膜動脈の角度は内臓脂肪量に応じて広がるため、肥満傾向が進むと症状が軽減することもあります。
ナットクラッカー症候群には、腹部造影CT・超音波検査・超音波パルスドップラーの3種類の診断方法があります。
腹部造影CT
血管や臓器(肝臓、腎臓、膵臓など)をより分かりやすく映し出すため、点滴による造影剤を使って腹部のCT撮影を行ないます。腹部大動脈と上腸間膜動脈の間を通る部分で左腎静脈の狭窄と、それに伴う腎静脈の拡張がみられます。
超音波検査
超音波を当て、内臓の状態を確認します。左腎静脈のうち動脈に挟まれて狭窄している部分と腎門部(腎臓の中央内側)に近い静脈の拡張部分の太さを測定しておくと、その後の治療効果の判断にも有用です。
超音波パルスドップラー
左腎静脈と下大静脈(下半身の血液を心臓に送る静脈)の血圧の差を測定する場合に下大静脈にカテーテルを挿入して検査を行ないますが、この検査は身体に負担がかかります。そこで負担の少ない超音波パルスドップラー(超音波を使って血流速度を調べる方法)による検査が勧められます。
左右の腎静脈の血流速度の差もナットクラッカー症候群の診断の根拠となります。左腎静脈狭窄部と腎門部に近い拡張した腎静脈の血流速度比も診断と治療効果の判定に役立ちます。
左腎静脈の狭窄が持続する一方で、側副血行路(そくふくけっこうろ=血管が詰まった際に自然に作られる血管の迂回路)が発達してきます。それとともに血尿や脇腹の痛みといった症状が改善される傾向がみられるため、まずは経過を観察します。
また、ナットクラッカー症候群は痩せた女性に多くみられますが、脂肪が増えることで左腎静脈の圧迫が緩和されて症状が改善することがあるため、体重の増加を図るよう指導します。
貧血を起こすような濃い血尿や鎮痛剤が必要な持続性疼痛がある場合は、手術をします。
観血的治療(出血を伴う外科治療)としては、左腎摘出術、自家腎移植、人工血管による左腎静脈圧迫解除術、左腎静脈転移術などが挙げられます。しかし、最近では腎静脈狭窄部にステント(血管などを内側から広げるために使う器具)を留置する、身体に負担の少ない血管内治療(カテーテルを血管内に挿入する治療法)が増えています。
留置するステントには自己拡張型ステントを使うケースが多く、ステント留置後は血流障害を防ぐために抗血小板剤や抗凝固剤の長期投与が行なわれます。合併症として下大静脈や右心房へのステントの逸脱が報告されており、慎重な経過観察が必要です。
肉眼で血尿が確認できた場合、速やかに専門医を受診しましょう。
自覚症状がない血尿の原因には、腫瘍・尿路結石・炎症・特発性腎出血などありますが、小児から若年成人、特にBMI値18.5以下の女性の場合はナットクラッカー症候群を念頭に置いて検査を進める必要があります。思春期に体重増加を伴わない身長の急速な伸びを示す男子にも多くみられるため、学校の健康診断も欠かせません。
なお、職場の健康診断で、尿潜血(尿に血が混じっている状態)があり、泌尿器科に来院するケースがあります。こうした際に、医療者は一律にナットクラッカー症候群の精査を行なうのではなく、健診者の年齢、性別、体型、既往歴、現病歴などを考慮した上で必要な検査を進めることが大切です。
残念ながら、現時点でナットクラッカー症候群の予防策はありません。
解説:上領 頼啓
豊浦病院
特別顧問
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