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2024.06.12
門脈血栓症は、血栓によって門脈が塞がったり細くなったりする病気です。
門脈とは、胃・小腸・大腸などの消化管や膵臓(すいぞう)・脾臓からの血液を肝臓に運ぶ血管です。消化管で吸収された炭水化物・脂肪・アミノ酸などの栄養価に富む血液は直接心臓に戻ることなく、肝臓の中で類洞(るいどう)と呼ばれる細い血管に流れ込み、肝細胞に吸収されます。しかし、門脈が塞がったり細くなったりすると、門脈の圧が上昇して消化管などからの血流がよどみ、多くの場合は無症状ですが、脾臓(ひぞう)の腫大や食道の出血などの症状をきたすことがあります。
門脈血栓症は、慢性肝炎から肝臓が繊維化(損傷や炎症を治すために組織が異常に多く造られること)する肝硬変への経過をたどるなかで、肝硬変患者さんの10〜25%に合併するとされています。肝疾患の影響によって、肝臓でつくられる血栓の予防因子・アンチトロンビン・プロテインC・プロテインSの産生が低下し、一方で血液を固める血小板の減少や肝臓由来の凝固因子の低下も伴うことから、出血と止血のバランスが崩れることが門脈血栓症の発症に関係しているといわれています。
慢性肝疾患による血栓症以外の原因として、急性または慢性すい炎や胆のう炎、胆管炎といった近接する器官からの炎症の波及、まれに血液の固まりやすさの異常、血管炎などの血管性病変からの発症もみられます。
超音波やCTなどの画像検査で門脈に血栓がみられる症例でも、多くは自覚症状がありません。一方、血栓による急性の発症では、高熱や強い腹痛を起こすことがあります。
肝硬変に伴う血栓症では、腹水をためるコントロールが困難であったり、食道や胃の表面を通る血管が静脈瘤(血液が逆流し、血管が太く脆くなること)を起こしたりします。
超音波やCTなどの画像検査と検査で血栓があると高値を示すDダイマーの上昇やアンチトロンビンの低下、凝固-腺溶(血液が固まったり、血栓を溶解する)系の異常を調べます。
『門脈圧亢進症の診療ガイド2022』によると、激しい腹痛を伴う発症直後から6カ月の急性期と、それ以降の慢性期で治療を選択します。急激な症状を伴う場合は消化管の血流が途絶している可能性があり、外科的切除術やカテーテルによる血栓溶解剤の投与が行なわれます。ただし、血流が再開した直後は急激な再灌流障害(さいかんりゅうしょうがい=閉塞した血管を開通させる治療後に起こる心筋障害のこと)をきたすことがあるため、厳重なモニタリングが重要です。肝硬変に伴い、腹水や静脈瘤の増大がある場合や慢性化した症例では、アンチトロンビン製剤の投与を考慮します。静脈瘤が急激に増大する場合は、それに対する治療を先行します。それ以外では、ワーファリンや経口の抗凝固剤を投与します。ただし、門脈血栓症に対する抗凝固剤の投与は保険適用されておらず、消化管などの出血リスクを伴う点にも注意が必要です。
門脈血栓症を早期に見つけるため、慢性的な肝臓病や膵疾患の患者さんで急激な腹痛が起こった場合には、腹部エコー検査を行ないます。ただし、体格や体型によって門脈が描出しづらいときは、腎機能に注意しながら造影CT検査をすることもあります。
さらに並行して、止血機能も測定します。これらは血栓症の発見だけではなく、肝硬変など原因となる疾患により肝臓が受けたダメージの検査のためにも大切です。
特に生活する上で注意することはありませんが、肝臓や膵臓に持病をもつ人は採血を受ける際に「止血機能」もチェックしてもらいましょう。不整脈や心臓の手術を受けた人でワーファリンなどの抗凝固療法を受けている人はデータに影響が出る可能性がありますので、あらかじめ医師に伝えるようにしてください。
解説:松本 隆之
泉尾病院
消化器内科 主任部長
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