2024.05.08 公開
急性ストレス障害(ASD)
acute stress disorder
解説:佐藤 耕一 (宇都宮病院 精神科 主任診療科長)
急性ストレス障害はこんな病気
急性ストレス障害(反応)は、災害や事故、暴力などの外傷的出来事を体験し、非常に強いストレスを受けることで発症します。症状は、体験した直後から1カ月未満で治まるといわれており、1カ月以上続く場合は「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断されます。
多くの人が日常でストレスを感じたとき、「イライラする」「不安になる」「眠れなくなる」「胸がドキドキする」「手が震える」「気分が沈む」といった症状を経験します。しかし、ストレス耐性は人それぞれ異なるため、同様のストレスで同様の症状が起こるとは限りません。
非常に強いストレスにさらされると、「眩惑(げんわく)」という特殊な状態に陥ることもあります。眩惑とは、意識野が極端に狭まって注意が1点に集中し、自分の周りに理解が及ばなくなる、時間や場所が分からなくなる(失見当)、自分を客観視する現実検討能力が著しく低下する、といった状態です。
急性ストレス障害の症状
初期は精神病症状(幻覚、妄想、知覚障害など)に情動的混乱(至福感、恍惚、不安焦燥など)が伴います。自傷行為を行ない、救急医療を要する場合もあります。その後、外傷的出来事からその該当する記憶が部分的または完全に失われる健忘症状や、抑うつ気分、不安、激怒、絶望、過活動、引きこもりなどが現れます。健忘症状が起こると、初期症状の言動を覚えていないことがあります。
これらの症状はストレスに反応して数分以内に発現し、通常は数時間〜数日以内におさまります。ストレス環境から離れれば数時間で消失しますが、そうでなくとも1カ月未満で症状は最小限になります。
急性ストレス障害の検査・診断
急性ストレス障害の診断は、一般的に米国精神医学会の精神疾患の診断基準に基づいて行ない、症状を下記の5つに大きく区分します。さらに5つを14つに細分化し、そのうち9つ以上症状が当てはまる際に診断されます。
症状 | |
侵入症状 | 原因となる出来事に関する記憶が突然フラッシュバックすること |
陰性症状 | 幸福感や愛情、感謝などの陽性感情が感じられなくなること |
解離症状 | 自分が周囲の世界から切り離されているかのように感じ、現実感を失うこと |
回避症状 | 原因となる出来事について考える(思い出す)ことを極力避ける、関係する人物や状況を回避すること |
覚醒症状 | 些細な音や動きに驚いたり、警戒心が高まり過剰に警戒すること |
ただし、原因となる出来事が起こってから3日〜1カ月症状が続くことにより、それによる苦痛で日常生活にも支障が出ているような場合に限ります。
急性ストレス障害の治療法
ストレス環境から離れることが重要です。精神病症状に対しては、抗精神病薬を使用します。また、自傷行為などが生じた場合は、適切な処置を行ないます。
周囲の人が、いつもと違う様子がないかすぐに気づくことができる環境にしておくことが大切です。
原因となるストレスを体験した後は、以下のようなことを意識しましょう。
〇 災害、事件、事故などが原因の場合は、それに関する情報(テレビ、インターネット、新聞など)に触れないようにする
〇 抱えている感情や考えをいつでも誰かに話せるような体制をつくる
〇 食事と睡眠をしっかり取って規則正しい生活を送るよう心がける
〇 安心・安全な環境をつくる
解説:佐藤 耕一
宇都宮病院
精神科 主任診療科長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。