済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
かみ合わせの悪さとは、上下の歯がうまくかみ合っておらず、物をかみ砕く効率が悪い状態です。発音や飲み込み、関節、身体のバランスなど、全身に影響を与えます。かみ合わせの悪さにもいろいろありますが、代表的な例を以下にご紹介します。このほか、笑うと歯肉が見えるガミースマイルなどがあります。
出っ歯
(上顎前突/じょうがくぜんとつ)
受け口
(下顎前突/かがくぜんとつ)
乱ぐい歯・八重歯
(叢生/そうせい)
いつも口が開いている
(開咬/かいこう)
かみ合わせの悪い人は歯並びも悪いため、歯の間などに食べカスがたまりやすい。磨き残しが多く、またよくかまないと唾液の分泌量も少ないので、虫歯や歯周病の原因になります。そのほか、顎の変形やずれによる代表的な症状としては顎関節症があります。口を開けようとすると顎関節に痛みが走ったり、口が開けにくくなったりする状態で、場合によっては急に口が開かなくなることもあります。
顎は大きな筋肉に支えられており、かつ上顎、下顎には三叉神経という太い神経が走っているため、かみ合わせが悪いと咀嚼筋のバランスが悪くなり、そこから肩こり、頭痛に発展することがあります。咀嚼能率が悪いと食べ物をよくかまずに飲み込むため、胃炎、大腸炎などの胃腸障害も起こります。また、出っ歯や受け口の人は唇が閉めにくく(口唇閉鎖/こうしんへいさ)、口呼吸になりやすいことから、鼻炎や扁桃炎などの耳鼻咽喉疾患を併発します。
かみ合わせが心の好不調につながる?
かみ合わせは心とも関係しています。正しいかみ合わせでよくかむと、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンが分泌されるといわれています。反対にかみ合わせがうまくいかないとそれだけで毎日イライラしやすくなります。よくかまず顎を動かさないでいると脳への血流が低下し、集中力が低下したり、情緒不安定になったり、疲れやすくなることもあるので注意が必要です。このような病院で検査をしても原因が分かりにくい「不定愁訴」も、かみ合わせの悪さからくることがあります。
また、例えば口唇閉鎖の人は、口を閉めるために力を入れる必要があるので、顎に筋肉がつきコブができますが、そのようなコンプレックスを抱えることが原因で、精神疾患などを引き起こす場合があります。
かみ合わせと顎の位置に問題がないか、いくつかの方法でまずはセルフチェックしてみましょう。
●上の唇と下の唇を合わせてチェック
唇の間から歯が見えてしまう、唇が閉じない、下唇を上の前歯でかんでしまう、上唇が下唇で隠れてしまう場合は注意。下顎が極端に前に出ていたり、口に何かを頬張っているように見える人も、かみ合わせが悪くなっている可能性があります。
奥歯をしっかりとかみしめ、「イ」の口にして口の両端を指で広げて、歯全体をチェックします。上の歯と下の歯の間の隙間が開きすぎていないかを見てみましょう。一部でも下の歯が外側にあったり、上の歯と下の歯の隙間から舌が見えるほど開いている場合には、かみ合わせに問題があります。
割り箸を前歯で横にかんだときに、割り箸が水平になっていればOK。割り箸が斜めになっている場合には、かみ合わせが悪くなっているかもしれません。また、割り箸をくわえて歯型をつけたときに、上下の中心点がずれていないかをチェックしてみましょう。この中心点がずれていたり、歯型自体がつかない場合、かみ合わせはあまりよくないかもしれません。
ボールペンや定規などを用意して、鼻の先から顎に当ててみます。鼻の先と顎を結んだ線を「Eライン(エステティックライン)」といいますが、上下の唇が、このEラインのライン上か、少し内側にあるのが、歯列矯正学的には理想だといわれています。自分では見にくいので、写真を撮ってチェックしてみるといいでしょう。
理想的なEライン
出っ歯の人のEライン
これらのチェックで、かみ合わせに異常があると感じた人や不安に感じた人は、正しいかみ合わせを得るためにも、かみ合わせについて正しい知識を持つ歯科クリニックでの診断や治療をお勧めします。
発育期であれば、爪をかむ、指しゃぶり、舌の癖、歯ぎしり、くいしばりなどをやめることによって、予防・改善が可能です。また、発育期や成長期の子どもは早寝・早起きをすることや、硬い物をしっかりかむことによって、顎の骨や筋肉(咀嚼筋)の成長への効果がみられます。早期治療(第一期治療)の対象年齢は6~10歳くらいで、受け口や歯が出てこない埋伏歯、欠損歯の治療を行ないます。16歳以降は成人矯正(第二期治療)として、骨格の成長後の本格的矯正治療となり、抜歯を伴う場合と非抜歯で行なう矯正があります。
最新の矯正治療「サージェリーファースト」
効率よく歯を動かす
矯正用アンカープレートサージェリーファースト(Surgery First/SF法)とは、最新の顎変形症治療です。術前矯正を省いて先に外科手術を行ない、その後に矯正を行なうことで咬合(こうごう/かみ合わせ)が改善する画期的な治療法です。矯正用アンカースクリュー、矯正用アンカープレート(SMAP)など、強固な固定器具を使ってきれいな歯並びと機能的な咬合や顎運動を構築し、長期に安定させるものです。顎変形症に対しては、保険適応の従来法が社会で認知されていますが、世界的にはサージェリーファーストが主流になってきています。
利点 欠点
- 手術時期を自分で決められる
- 術前矯正による顔貌(見た目)の悪化がなく、早期に顔のバランスが整う
- 矯正用アンカープレート(SMAP)を使用することで歯の移動が確実に行なえる
- 手術後の歯の移動が促進される
- 治療期間が短縮する(かみづらい期間が短い)
- 手術直後のかみ合わせが不安定になる
- 術後1~2カ月スプリント(マウスピース)を使用することがある
- 保険適応外のため自費診療となる
従来法の欠点は、まず矯正治療から入りますが、顎がずれたまま矯正するため、手術前には一時的に見た目や顎の形、かみ合わせがひどくなります。その間に口が閉じられなくなることもあります。歯が動きづらいため矯正期間が長く(QOL=生活の質が下がる)、手術時期も予測しにくいという面があります。サージェリーファーストの場合は、まず手術をして歯を動きやすくしてから矯正するという順番のため、治療期間が短く済みます。かみづらい期間も短く、見た目の改善が早いのが特徴です。
解説:青木 紀昭
横浜市南部病院
歯科口腔外科主任部長 顎変形症・矯正センター長
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