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2021.03.31
涙のう炎は涙のう内で病原微生物が繁殖し、涙のう粘膜から分泌される粘液と膿がたまることで、涙のうとその周辺組織が炎症を起こす病気です。
涙のう炎の原因菌は、ブドウ球菌、肺炎球菌、レンサ球菌、緑膿菌、インフルエンザ球菌、嫌気性菌、真菌などさまざまです。
涙は涙腺(るいせん)から分泌され、眼に潤いや栄養を与えたり、異物を洗い流したり、殺菌作用を持つ酵素のリゾチームなどで微生物の感染を防いだりする作用があります。涙を鼻腔に排出する器官の涙道(るいどう)は、涙小管、涙のう、鼻涙管から成りますが、涙道下部の鼻涙管が閉塞すると涙のうに涙がたまり、微生物の感染が起きやすくなります。
涙のう炎は新生児と高齢者に多くみられ、新生児では先天性鼻涙管閉塞、高齢者では後天性鼻涙管閉塞が原因となります。
先天性鼻涙管閉塞は、出生時に鼻涙管に膜状の閉塞部が残存することによって起こります。
後天性鼻涙管閉塞は、加齢によって鼻涙管が狭窄することで起こり、慢性涙のう炎の原因となります。ほかに鼻腔の炎症、腫瘍による圧迫、耳鼻科での手術、外傷なども後天性鼻涙管閉塞を引き起こします。
眼脂(がんし=目やに)、流涙(りゅうるい=涙目)が先行して起こり、炎症が進行してくると涙のうを中心として発赤(ほっせき=皮膚や粘膜が赤くなること)、腫脹(しゅちょう=組織の一部が腫れ上がること)、疼痛が出てきます。
涙のう部の圧迫で涙点から膿が逆流することもあり、涙のう内で繁殖した菌の影響で結膜炎が長引きます。炎症がさらに強くなると、涙のうが涙小管を圧迫して涙道を塞ぎ、膿の逆流が起きない場合もあります。
なお、慢性涙のう炎が急速に悪化した場合を、急性涙のう炎と呼びます。
涙道閉塞の有無を確認するため、CT検査による画像診断や、涙点から注水して流れる状態を調べる涙道通水検査を行ないます。可能であれば、皮膚から穿刺(せんし=針を挿入すること)して膿を採取し、細菌検査によって炎症を起こしている原因菌を確認します。
炎症が強いと、抗生剤の点滴や内服を行ないます。また、膿がたまっている場合は局所麻酔下に皮膚から膿を穿刺吸引し、涙のう洗浄を何度も行ないます。
炎症が落ち着けば、鼻涙管閉塞の手術をします。主な方法は、涙道内視鏡併用涙管チューブ留置術と、涙のう鼻腔吻合術(びくうふんごうじゅつ)です。
【涙道内視鏡併用涙管チューブ留置術】
涙道閉塞を開放し、涙管チューブを留置することで、炎症がおさまるまで再閉塞を予防し涙道を広げることができます。
【涙のう鼻腔吻合術】
涙のうは内側(鼻側)に骨を隔てて鼻腔と接していますが、骨を削り、涙のうと鼻腔をつないでバイパスを作る手術です。鼻涙管の再建が難しい場合に行ないます。
例外として、重症のドライアイがある症例では涙道の機能は重要ではないため、涙のう摘出術を行なう場合もあります。
小児の先天性鼻涙管閉塞に対しては、炎症がなければ、涙のう部を皮膚からマッサージすることにより閉塞部が開放されることがあります。改善がなければ、金属ブジー(管状臓器の内径を拡張させるための医療器具)を使用して、閉塞部を徐々に広げて開通することを試みます。
なお、先天性鼻涙管閉塞は自然治癒が期待できる病気であるため、治療の時期などはまだ議論が多い状態です。また、免疫機能が十分でないと、処置の結果、原因菌による敗血症の危険性があります。当院の場合は、生後10カ月以降の患者さんに行なっています。これらの治療でも改善しなければ、涙道内視鏡併用涙管チューブ留置術が必要です。
眼脂(がんし=目やに)、流涙(りゅうるい=涙目)が持続する場合は眼科受診をお勧めします。鼻涙管の狭窄や閉塞をこの時期に治療できれば、炎症は少ないため治療が比較的容易になります。
ドライアイを併発していると、流涙の自覚症状が出ないこともあります。炎症が続く場合は、涙道通水検査を試して涙道機能の評価をする必要があります。
鼻涙管狭窄、閉塞は高齢になれば起こりやすくなります。また、炎症は抗生剤で一時的に抑えることはできますが、原因となる鼻涙管閉塞を治療しない限り、涙のう炎は再発します。
抗生剤を長期間使用すると、原因菌の耐性化が起こって抗生剤が効かなくなり、その後の治療が難しくなります。そのため、抗生剤治療を長期で行なうことは控え、涙のう炎の原因となる鼻涙管閉塞の治療をすることが重要です。
解説:髙橋 直巳
松山病院
眼科部長
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