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2019.10.09

多発性のう胞腎 (たはつせいのうほうじん)

Polycystic Kidney Disease

解説:町田 健治 (みすみ病院 腎臓内科医長)

多発性のう胞腎はこんな病気

多発性のう胞腎は、腎臓にのう胞(液体が詰まった袋状のもの)が無数にできる遺伝性の病気です。1個~数個の腎のう胞は高齢者などによくみられ、遺伝したり腎機能が低下したりすることはありません。しかし、多発性のう胞腎では、のう胞が徐々に大きくなり、腎機能低下が進行していきます。

多発性のう胞腎の原因

遺伝の形式によって常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)多発性のう胞腎と常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)多発性のう胞腎に分類されます。常染色体優性遺伝とは、両親からそれぞれ一つずつ受け継ぐ常染色体(性別を決定する性染色体以外の染色体で2対ある)のうち、一つでも異常があると発症するもので、これに対して常染色体の両方に異常があると発症する場合を常染色体劣性遺伝といいます。

両親のうちどちらか一方が常染色体優性多発性のう胞腎の場合、子どもに遺伝する確率は性別に関係なく50%です。しかし、4人の子どもがいたら必ずその50%の2人に遺伝するというわけではなく、4人全員に遺伝することもあれば1人も遺伝しないこともあります。

多発性のう胞腎の症状

自覚症状は、肉眼的血尿(尿に血が混じることを目で見て判断できる状態)、わき腹や背中の痛み、腹部腫瘤(腹部の内臓に生じるしこり)、腹部膨満(お腹の張り感)による食欲不振などです。無症状でもご家族に多発性のう胞腎の人がいるからとのことで、病院で健康診断や人間ドッグを受診し、診断されることもあります。肝臓に多数ののう胞(肝のう胞)がみられたり、脳動脈瘤(脳の動脈にできるこぶ)や高血圧、心臓の弁の異常を合併したりすることもあります。

多発性のう胞腎の治療

根本的な治療はまだありません。これまでは、60代までに約50%の人が腎不全になっていました。しかし近年、常染色体優性多発性のう胞腎においては、のう胞が大きくなるのを抑制して症状の進行を遅らせるトルバプタンという内服薬が使用可能となっています。この薬は、腎機能低下の進行を遅くすると考えられていますが、使用するには、のう胞で大きくなった腎臓のサイズやのう胞が大きくなる速さ、腎機能などの条件を満たす必要があります。また、内服を始める際には入院するように定められています。トルバプタン内服中は尿の量や回数が増えるため、脱水にならないように水分を多くとるように心がけ、高ナトリウム血症や肝機能異常などが起こっていないか、定期的に病院を受診する必要があります。

多発性のう胞腎では高血圧を合併することも多く、治療には降圧剤(血圧を下げる薬)を使用します。腎機能低下が進行して腎不全に至った場合は、腎移植のほか、透析療法(血液透析・腹膜透析)を行ないます。

・血液透析
機械を通して血液中の老廃物や不要な水分を取り除き、再び体内に血液を循環させます。1週間に2~3回程度で1回に4時間以上かけて血液の浄化を行ないます。

・腹膜透析
お腹の中に透析液を入れ、自分の腹膜(胃や腸などの内臓表面を覆っている膜)をフィルターとして利用して血液をきれいにする方法で、連続携行式腹膜透析と自動腹膜透析があります。連続携行式腹膜透析は、1日に透析液を3~5回交換し、1回の交換にかかる時間は約30分です。自動腹膜透析は、就寝時などを利用して1日に1回透析液の交換を自動的に行ないます。

腹部膨満感が強い場合は、腎動脈塞栓療法(じんどうみゃくそくせんりょうほう=腎臓に血液を送っている腎動脈を人工的に閉塞し、膨満感を緩和させる方法)や、腎のう胞穿刺(せんし)吸引療法(のう胞内に細い針を刺し、たまった液体を吸引する方法)を行なうことがあります。

早期発見のポイント

多発性のう胞腎は遺伝性の病気なので、ご家族に多発性のう胞腎と診断された人がいる場合は、腹部エコー(超音波)検査や腹部CT、MRI検査などで腎臓に多数ののう胞があるか確認することで診断できます。その一方で、ご家族に多発性のう胞腎の人がいないのに遺伝子の突然変異で発症することもあります。また、常染色体優性多発性のう胞腎を発症しても30~40代までは無症状の場合がほとんどで、肉眼的血尿腹痛背部痛などが初発症状となることがあります。15歳未満ではのう胞がまだみられない人もいるため、ご家族に多発性のう胞腎の人がいる場合は、のう胞の有無を定期的に検査しましょう。30代までに発症がなければ、その後発症する可能性は低いと考えられています。

常染色体劣性多発性のう胞腎の場合は、新生児期~小児期で症状が出ることが多く、出生前の胎児のエコー検査で見つかることもあります。

予防の基礎知識

ご家族に多発性のう胞腎と診断された人がいる場合は、画像検査(腹部エコー(超音波)や腹部CT、MRIなど)を受けてください。
また、多発性のう胞腎の診断を受けた人は、腎不全、高血圧、のう胞感染、のう胞出血、脳動脈瘤などの合併症を予防することが重要です。定期的に病院を受診するようにしましょう。

特に高血圧は腎不全が起こる前からみられることもあり、腎機能障害の進行予防のためにも早期からの治療が必要です。
発熱を伴った腹痛や背中の痛みはのう胞の感染による症状の可能性がありますので発熱が続く場合は病院を受診してください。

解説:町田 健治

解説:町田 健治
みすみ病院
腎臓内科医長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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