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2023.02.22

播種性血管内凝固症候群 (はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)

disseminated intravascular coagulation

解説:藤田 浩之 (横浜市南部病院 診療部長・血液内科主任部長)

播種性血管内凝固症候群はこんな病気

播種性血管内凝固症候群は、何らかの病気によって血液が固まりやすくなり、全身の細い血管の中で血液の塊(血栓)が多発してしまう病気です。

血栓ができると血流が悪くなるため、肝臓や腎臓、脳、肺など全身の臓器の働きが悪くなります。それと同時に、各臓器から出血を起こしやすくなります。出血が起こりやすくなるのは、血液を固める成分(凝固因子や血小板)が使い果たされてしまうためです。
血液が固まりやすい反面、止まりにくくもなるという、一見矛盾した病態となるのが、播種性血管内凝固症候群の特徴です。

なお、播種性血管内凝固症候群は単独で起こることはなく、必ず基礎疾患が原因となって発症します。

播種性血管内凝固症候群の原因

播種性血管内凝固症候群の基礎疾患として最も多いのは、病原菌への感染によって起こる敗血症肺炎、尿路感染症です。病原菌の出すエンドトキシンというタンパク、あるいは身体を守るために自らが作り出したサイトカインというタンパクにより、血液を固める機能が過剰に働くことが播種性血管内凝固症候群の引き金となります。
白血病悪性リンパ腫、固形がん(臓器や組織などに塊でできるがんの総称)などでは、腫瘍細胞の出す異常なタンパク(組織因子)により血液が固まることから、播種性血管内凝固症候群が発症します。
また、妊娠中で、胎児がまだ子宮内にいるうちに胎盤が子宮の壁からはがれてしまう(常位胎盤早期剝離)と、胎盤の持つ組織因子が母体の血液を固める機能を過剰に働かせ、播種性血管内凝固症候群を発症します。

播種性血管内凝固症候群の症状

脳、消化管、皮膚、筋肉など全身に出血が起こりやすくなり、血尿や鮮血便がみられることもあります。また、皮膚に紫色の斑点が生じる場合があります。
肝臓や腎臓、脳、肺など全身の臓器に障害が現れ、多臓器不全を引き起こすと、命にかかわるような重篤な状態になります。

播種性血管内凝固症候群の検査・診断

臨床症状と血液検査によって診断します。
血液検査では、血小板は消費されるため減少しており、凝固因子不足のためフィブリノーゲン(止血の機能を持つタンパクの一つ)の値も減少します。
血液が固まるまでの時間である「プロトロンビン時間(PT)」や「活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)」は長くなります。身体にできた血栓は次々と溶けてしまうため、血栓の分解時にできる「フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)」や血栓が溶けた際に生じる物質「D-dimer(D-ダイマー)」が増加します。

播種性血管内凝固症候群の治療法

播種性血管内凝固症候群の原因となる病気に対する治療が最も重要となります。
例えば、微生物による敗血症であれば感染源の除去や抗菌薬投与、固形がんであれば手術による摘出、白血病であれば抗がん剤治療、常位胎盤早期剝離であれば緊急帝王切開などです。

また、血液を固める機能が過剰に働くのを防ぐために、ヘパリンやアンチトロンビン濃縮製剤、遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤(いずれも血液が固まるのを抑える治療薬)を投与します。
一方で、減少した血小板や凝固因子を補い出血を抑えるため、輸血療法を行ないます。
これらの治療は画一的に行なうのではなく、一人ひとりの患者さんの症状に合わせて適切に対処する必要があります。

播種性血管内凝固症候群には原因となる病気があります。気になる症状があれば、かかりつけ医に相談してください。
また、妊娠20週以降で性器出血や子宮の痛みが出てきた場合や下腹部をぶつけてしまった場合などは、早めに産婦人科の医師に相談してください。

播種性血管内凝固症候群の原因となる基礎疾患(敗血症、固形がん、白血病、常位胎盤早期剝離)を発症しないようにすることが予防のためには重要となりますが、なかなか困難です。
これらの基礎疾患を発症した場合、検査によって播種性血管内凝固症候群関連を早期に発見し、患者さんごとに適切な対処を行なうことが大切です。

解説:藤田 浩之

解説:藤田 浩之
横浜市南部病院
診療部長・血液内科主任部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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