社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2023.11.08

眼瞼外反症

ectropion

解説:嶋 千絵子 (野江病院 眼科部長)

眼瞼外反症はこんな病気

眼瞼外反症は下眼瞼(かがんけん=下まぶた)が外側にめくれた状態のことです。
まぶたは、皮膚や眼輪筋(がんりんきん)から成る「前葉」と瞼板(けんばん)や結膜(白目)を構成する「後葉」が、目頭と目尻にある靭帯(内眼角靭帯と外眼角靭帯)によってけん引され、バランスが取れています。眼瞼外反症はこのバランスの不均衡によって起こります。

横から見た状態

正面から見た状態

眼瞼外反症になると、まばたきをしてもまぶたが閉じにくいため、目が乾燥して角膜(黒目)に傷がつきやすくなります。
眼瞼外反症は、まぶたの前葉の弛緩による「加齢性」、顔面神経麻痺による「麻痺性」、外傷や手術後などの皮膚の瘢痕(はんこん=傷などが治った後に残るあと)による「瘢痕性」があります。加齢性や麻痺性はまぶたの水平方向の弛緩が原因で、瘢痕性はまぶたの前葉の収縮によって垂直方向にけん引される力が増したことが原因です。

眼瞼外反症の症状

初期は目の表面の乾燥による乾燥感、角膜上皮障害に伴う眼痛、流涙(りゅうるい=涙が出続けること)、異物感、充血、羞明(しゅうめい=通常の明るさでも眩しく感じること)などの症状がみられます。
長期化して重症化した場合は、角膜が傷ついている状態が持続する「遷延性(せんえんせい)角膜上皮障害」により、角膜への結膜侵入、角膜混濁、角膜潰瘍が生じて著しい視力低下が起こります。
顔面神経麻痺に伴う麻痺性の眼瞼外反症による「兎眼性(とがんせい)角膜症」の場合、通常は角膜知覚の低下はありません。一方、三叉神経麻痺を合併した場合は、角膜知覚が低下して痛みを感じなくなります。

眼瞼外反症の検査・診断

原因がさまざまであるため、詳細な病歴聴取(外傷やまぶたの手術歴、眼瞼外反症の罹患期間など)を行ないます。
また、角膜と結膜の状態を調べ、まぶた前葉の瘢痕の有無、靭帯の弛緩の有無などを確認します。

眼瞼外反症の治療法

加齢性や麻痺性は一度生じると自然治癒は期待できないため、多くの場合は手術が適応となります。
軽症の場合や患者さんが手術を希望しない場合は、下まぶたの皮膚を上方に持ち上げてテープで固定し経過観察することもあります。テープの貼り方は、下まぶたから斜め上方に持ち上げるように固定します。

顔面神経麻痺による兎眼性角膜炎の場合、麻痺の治療と並行して、角膜上皮障害の進行を予防する対症療法を行ないます。
具体的には、人工涙液(涙に近い成分を含んだ点眼液)を頻回に点眼する、油性眼軟膏を点入(下まぶたの内側に薬を付けること)して目の表面を保護する、パッチを用いて就寝時に強制的にまぶたを閉じる、といった治療を行ないます。
中には麻痺が改善する例もあるため、半年から1年ほど経過を見た上で手術を行なうか判断します。

まぶたの弛緩が原因となる場合は、水平方向の張力を回復させる目的で、まぶたを部分的に切除して縫い縮める「Kuhnt-Szymanowski (クント・シマノスキー)変法」や、下まぶたの外眼角を引き上げて再建する「Lateral Tarsal Strip (LTS=ラテラル・ターサル・ストリップ)法」が適応となります。

重症の場合は、耳から軟骨を移植する「耳介軟骨移植」によって下まぶたの支えを作る手術を行なうほか、瘢痕性では瘢痕部の除去を行ないます。

充血・目やに・流涙など結膜炎のような症状を繰り返したり、異物感・眼痛・羞明などが続く場合は、「下まぶたが外向きにめくれていないか」「まぶたを完全に閉じることができるか」をチェックしてみることが重要です。

残念ながら、どのような原因であっても眼瞼外反症を予防するのは難しいです。
角膜上皮障害を最小限にとどめるために、早期診断や早期治療が重要になります。手術が適応となるのであれば積極的に手術を行ない、手術が行なえない場合でもテープのけん引やまぶたを閉じるよう調整する「矯正閉瞼」を小まめに行なうことも大切です。
点眼薬による治療だけでは、多くの場合で角膜の障害が進行するため、物理的に角膜をまぶたで覆う治療を併用する必要があります。

解説:嶋 千絵子

解説:嶋 千絵子
野江病院
眼科部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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