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2019.08.28
眼球は、硬くて丈夫な強膜(眼球の白い部分)と角膜(中央の黒目の部分)から成り立つ外膜によって、内部が保護されています。
角膜は眼球の最も表層にあるドーム状の透明な組織で、光を目の奥(眼底)に通過させるだけでなく、光を屈折させるレンズの役目も果たし、眼底にピントが合うような仕組みになっています。その断面は5層構造になっています。最も外側の層が角膜上皮で、重層扁平上皮(じゅうそうへんぺいじょうひ)と呼ばれる上皮細胞が何重にも積み重なっています。その下に基底膜があります。
角膜と目の構造
この角膜上皮に傷がつき、目の表面に強い痛みが生じる状態を角膜上皮障害といいます。 角膜上皮の下にある基底膜にまで達する深い欠損を伴う「角膜びらん」と、角膜上皮の浅く小さな欠損にとどまる「点状表層角膜症」に分類されます。
角膜上皮に障害が起こる原因として以下のものがあります。
(1) 外傷、異物の飛入、コンタクトレンズによる障害
(2) 乾燥(ドライアイ)
(3) まぶたの異常(逆さまつげ)、閉瞼(へいけん)障害(まぶたを閉じることができない状態)
(4) 炎症・感染
(5) 知覚障害
(6) 全身疾患(糖尿病)
(7) 薬剤(点眼薬、内服薬)
(8) 光線(紫外線、溶接光)
(9) 有毒ガス
原因はさまざまですが、角膜びらんは深く大きな角膜上皮欠損(びらん)が起こり、強くうずくような痛みと流涙を生じます。一方、点状表層角膜症では痛みはなく、異物感、不快感、目がかすむなどの症状が出ることがあります。
通常、ドライアイやまぶたの異常などが原因の場合は、慢性的で軽症の点状表層角膜症を繰り返す状態が続きます。眼瞼内反症(がんけんないはんしょう=逆さまつげ)や外反症(まぶたが外側にめくれている状態)は手術を行ないます。また、閉瞼障害は就寝時に眼軟膏などで目の表面を保湿し、ドライアイに関してはその治療を行ないます。
外傷などで目を傷つけると、突然の強い痛みと流涙で、まぶたを開くことができなくなります。目の表面の強い痛みは角膜上皮が傷ついている可能性が高いので、すみやかに医療機関を受診する必要があります。
目を突いてしまった、目に砂が入った、コンタクトレンズで目を傷つけてしまったという場合には、角膜上皮障害を引き起こすきっかけがはっきりしています。
一方、ガスや溶接光などの強い光による障害は、それらにさらされているときには症状が現れず、時間が経過してから症状が出ることがあります。そのため本人には目を傷つけた自覚がなく、原因不明の痛みとして病院を受診する場合もあります。
また、角膜上皮細胞と基底膜の間の接着に不良があると、一度治癒したびらんがわずかなきっかけで再発する場合があります。朝起きてまぶたを開いたときに再発することが多く、これを再発性角膜びらんといいます。特に糖尿病によって角膜上皮障害を発症した人はこれらの接着が悪く、知覚も鈍くなっていることがあるので注意が必要です。小さな点状のびらんは、逆さまつげや乾燥、炎症で起こるときがあり、特に慢性の刺激によるものは本人の自覚症状が乏しい場合があります。これらは角膜上皮障害の原因となっているものを取り除くと、多くの場合、改善します。しかし、原因の除去が困難なときには繰り返し点状の角膜上皮障害を起こしやすく、異物感、乾燥感が生じるため点眼治療の継続が必要となります。
角膜びらんが生じたときには、周囲の健常な上皮細胞がすみやかに移動してきてびらんの部分を覆い、元通りの厚さになるまで増殖を繰り返します。この正常な修復過程を妨げなければ、大きなびらんでも1~2日程度で欠損部が上皮で覆われ、痛みがなくなります。
しかし、この修復を妨げる原因として、知覚障害、炎症、接着不良などがあげられます。知覚が鈍くなっていて痛みを感じないときには、治癒が遅くなり、長引くことがあります。特に糖尿病の人は知覚が鈍くなっている場合があり、感染を起こしやすくなるので注意が必要です。
春季カタルと呼ばれる重症のアレルギー性結膜炎では角膜上皮障害を起こしやすく、また流行性角結膜炎、角膜ヘルペスなどのウイルスによる感染症でも角膜上皮障害が起こります。それぞれ原因となっている病気の治療が不可欠です。
長時間の使用や、つけたまま寝てしまったことなどが角膜上皮障害の原因となる場合が多いです。コンタクトレンズの正しい使用方法を守らなくてはなりません。カラーコンタクトを使用して角膜上皮障害を起こしたという報告も多く、品質の悪いものは使用しないほうがよいでしょう。
保護眼鏡やゴーグルの使用で角膜上皮障害を予防できるため、特に溶接時には短時間でも保護眼鏡を使用することを忘れないようにしましょう。直接溶接していなくても、脇から見ているだけで障害が起こる場合もあるので注意が必要です。
点眼薬は、薬剤の種類や含まれている防腐剤などによって角膜上皮細胞を悪化させるものがあり、目の痛みのために何度も点眼することで、かえって傷の治癒を遅らせることがあります。勝手に市販薬を使用したり自己判断で点眼回数を増やしたりするのは危険なので避けなくてはいけません。
また、全身投与する薬剤で、特に抗がん剤は間接的、直接的に角膜上皮障害を引き起こすものがあります。広く経口剤で使用されているS-1製剤は涙液中に分泌され、角膜上皮障害を引き起こしますが、人工涙液をこまめに点眼することで予防できる場合があります。
解説:加畑 隆通
水戸済生会病院
副院長
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