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2024.11.13
角膜ヘルペスは9種類あるヘルペスウイルスのうち、「単純ヘルペスウイルス(HSV)」が角膜(黒目)に感染することで起こる病気です。単純ヘルペスウイルスには1型(HSV-1)と2型(HSV-2)がありますが、角膜ヘルペスの多くは1型によって起こります。
幼児期にほとんどの人が口腔内、上気道(鼻から喉までの空気の通り道)、目の一部でHSV-1に感染します。ウイルスは脳神経の一つである三叉神経の軸索流(じくさくりゅう=神経細胞「軸索」の中を輸送されていくこと)に乗って、三叉神経節に潜伏感染(病原体に感染しているものの、症状が出ていない状態)します。そのまま生涯にわたり症状のない人がほとんどですが、成人期に感冒、ストレス、過労、発熱などが原因で潜伏しているウイルスが再活性化して角膜ヘルペスを発症します。
角膜ヘルペスは、上皮型・実質型・内皮型の3種類に分けられます。いずれの病態でも、角膜知覚(目に異物が入ったり傷ついたりしたときに察知する機能)が低下するのが特徴です。
角膜の表面(上皮)でHSVが増殖する上皮型角膜ヘルペスは、一度発症すると再発を繰り返し、「実質型角膜ヘルペス」に移行することがあります。ここでは実質型角膜ヘルペスについて詳しく解説します。
実質型角膜ヘルペスは、角膜の中間層である角膜実質の細胞に増殖したウイルスに対する、身体の免疫反応や炎症反応が主な病態で、「円板状角膜炎」と「壊死性角膜炎」に分けられます。
円板状角膜炎の初期は、典型的には角膜中央付近にきれいな円形の角膜浮腫が出現し、角膜後面の皺や付着物がみられます。しかし多くの場合、非典型的なさまざまな形の角膜の混濁(白く濁った状態)を示します。再発を繰り返すと角膜実質内で炎症反応が増して、角膜内血管侵入(結膜から角膜に血管が侵入すること)や、円形もしくは弧状に病巣が広がったり瘢痕(はんこん=傷などが治った後に残るあと)ができたりするほか、脂肪の沈着が生じて壊死性角膜炎となります。
二次性病変としては、栄養障害性角膜潰瘍(角膜知覚の低下と関連した創傷治癒遅延が原因)、角膜脂肪変性(角膜に異常に脂肪が沈着した状態)があります。上皮型や実質型の再燃を繰り返すと角膜が溶ける角膜融解や、潰瘍病変の重症化、炎症による瘢痕化によって角膜が薄くなり、角膜穿孔(角膜に穴が開いた状態)になることもあります。
上皮型・実質型・内皮型、すべての病型で以下のような症状がみられます。
● 目の異物感
● 物が見えにくい、かすむ
● 涙が出る
● 充血
● 羞明(しゅうめい=強い光で生じる目の不快感や痛み)
● 視力低下
HSVの証明検査(蛍光抗体で感染細胞中のウイルス抗原と抗体との反応を証明する方法)が陽性を示す例は極めて少ないため、上皮型を含む角膜ヘルペスの既往の有無を確認します。その後、既往と臨床所見から総合的に診断します。
アシクロビル眼軟膏とステロイド点眼による免疫抑制が必要です。アシクロビル眼軟膏を使用せずステロイド点眼のみで対処すると、初めは軽快しますが、再発・再燃しやすく、経過中に上皮型を発症することもあるので、アシクロビル眼軟膏の併用が望ましいです。
上皮型を併発した際は、ステロイド点眼を中止すると実質型が悪化しやすいため、ステロイドを完全に中止しないように注意します。ステロイド点眼やアシクロビル眼軟膏は、数カ月〜1年と、時間を十分にかけて徐々に量を減らして最終的に投与を終えます。
再発を繰り返す場合は、改善後も投薬を完全に中止せず、少量を継続することで再発予防効果が得られる場合が多いです。重症の場合(角膜ぶどう膜炎や壊死性角膜炎など)や上皮欠損を伴う場合は、抗ウイルス薬のバラシクロビルを内服する場合があります。
特に過去に角膜ヘルペスの既往がある場合には、角膜知覚が低下していて痛みや異物感を感じにくいため、医学解説の実質型角膜ヘルペスの症状の項で記したような、目のかすみや涙、異物感、充血などがあれば、早めに眼科を受診するようにしましょう。
確実な予防法はありませんが、感冒・発熱・過労・ストレスなどが誘因となり得ることを知っておきましょう。早期発見・早期治療が重要なので、異物感・充血・目のかすみなどの症状があるときは早めに眼科を受診してください。
また、実質型は点眼治療を短期間でやめると再発しやすいため、ゆっくり減らしていく必要があります。治ったように感じても、点眼を患者さん自身の判断で中断しないようにしましょう。
解説:嶋 千絵子
野江病院
眼科部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。