緑がまぶしい5月~9月は、紫外線が強くなる季節でもあります。この紫外線は"四害線"とも呼ばれることもあり、光老化(しみ・しわ)、光発がん、光色素沈着、光アレルギーを引き起こす原因にもなります。ただの日焼けだと油断していると、皮膚がんなどの重大な症状を見逃すことにもなりかねません。紫外線に対する知識・予防法をしっかり学んで、紫外線の厳しい季節を楽しく乗り切りましょう。
紫外線の種類と健康被害
紫外線(ultraviolet)は波長の長い順にA波(UVA)、B波(UVB)、C波(UVC)の3種類に分けられます。波長が短くなるほど毒性が強くなりますが、C波はオゾン層によってカットされるので、地上に届くのはA波とB波です。ただ、近年、 オゾン層の減少によって地上に達する紫外線量全体が増加しているので注意が必要です。
地上に届くA波とB波のうち、日焼け、しみ、皮膚がんなどを起こす力はB波のほうがより強く、A波はB波より皮膚の奥まで到達し、しわやたるみなど老化に影響を及ぼすと考えられています。
紫外線の量 | 身体への影響 | 主な症状 | |
---|---|---|---|
A波 (UVA) |
紫外線の大半がコレ | 比較的弱い | 日焼け、しみ・しわ(光老化) |
B波 (UVB) |
オゾン層減少により増加中 | 強い | 日焼け、しみ・しわ(光老化) 免疫力の低下、皮膚がん |
C波 (UVC) |
地上に届かない | ― | ― |
日焼けのメカニズム
日焼けには、皮膚が赤くなるサンバーンと、黒くなるサンタンがあります。サンバーンは、B波によって血管拡張などの炎症が起きることにより皮膚が赤くなります。他方、サンタンは、A波によって皮膚のメラノサイト(色素細胞)が刺激され、メラニン色素が合成されることにより皮膚が褐色になります。通常は、日光に当たった直後に皮膚が赤くなり(サンバーン)、皮膚の赤みが消失した後、皮膚が黒くなります(サンタン)。
サンバーンの応急手当は、冷水を含んだタオルや氷で皮膚を冷やしたり、水風呂に浸かったりするとよいでしょう。なお、水ぶくれができるなど、ひどい時は医師の診察を受けるようにしましょう。
紫外線と皮膚がん
【日光角化症の症状】
かぶれや炎症が、1~2週間で治らない時は注意!
紫外線(特にB波)を大量に浴びると、皮膚の細胞の遺伝子が傷つきます。通常は遺伝子が傷ついても修復されますが、浴びる紫外線の量が限度を超えると遺伝子は回復せず、傷ついた状態で細胞分裂を繰り返します。すると遺伝情報は誤った形で書き替えられ、突然変異を起こし、皮膚がんが発症します。
この紫外線の影響で発症しやすい皮膚がんには、日光角化症と基底細胞がんがあります。このうち、日光角化症はその名のとおり、紫外線に当たりやすい顔面や項部(うなじ)、手背(しゅはい/手の甲)などの部位に発症しやすく、薄紅色、褐色をした斑状のもので表面は「ザラザラ」しているのが特徴です。長年紫外線を浴びると発症しやすく、高齢者に多く見られます。自覚症状はほとんどありません。悪化すると有棘(ゆうきょく)細胞がんに進展することがありますので、日光角化症の段階でしっかり治療しておくことが大切です。
誘因と予後 | 臨床的特徴 | 悪性度 | |
---|---|---|---|
日光角化症 | 紫外線の影響で生じる皮膚がん。がん細胞が表皮の基底層にのみとどまり、表皮内がんとも呼ばれる。この段階で治療を受ければほぼ100%治癒する | ざらざらした紅斑(こうはん)として観察され、決して自然に消退することはない。徐々に拡大する。 | 中程度 |
基底細胞がん | 紫外線が発生の誘因となるため、顔面での発生例が多い。転移することはまれなので、命にかかわることはほとんどない。 | 黒色の結節や斑状の臨床像をとる。日本人ではまれだが、色のつかないタイプがある(誤診されやすい)。 | 低い |
有棘細胞がん | 日光角化症から進展したり、熱傷瘢痕(ねっしょうはんこん)や外傷後瘢痕から生じることも多い。表皮下に浸潤し、最終的には転移を生じて命にかかわることもある。 | ピンク色の肉の塊のような形態で、しばしば浸出液や出血が認められる。外傷の多い四肢にしばしば発生する。 | 高い |
予防のポイント
日焼け止めクリームは、紫外線を防止するには効果的です。ただし、その効果は正しく使ってこそ初めて現れます。特に塗る量がポイントで、1回分の塗布量はクリームなら小豆2粒程度必要です。汗をかいたり、擦れたりしてとれてしまうこともあるので、たびたび塗り直す必要があります。
日焼け止めクリームやローションには紫外線防止効果を示すSPF、PAという指標がついています。SPFはB波の防止効果の強さを示すもので、数字が大きいほど強力です。PAはA波の防止効果を+(プラス)で表し、プラスが多いほど強力です。通常の外出は、SPF15、PA+程度のもので十分でしょう。日中外出する際は、帽子、日傘、サングラス、長袖の衣類を着用するよう心掛けてください。
かつて紫外線は体内でのビタミンDの生合成に必要とされ、日光浴が勧められていましたが、現在は食物から十分にビタミンDが摂取できるようになりました。また、母子健康手帳でも「日光浴」ではなく「外気浴」を推奨する記述に変更されています。
現在、紫外線は、必要とされるものではなく、予防すべきものなのです。予防すべきポイントは以下のとおりです。
ポイント1
強い紫外線は夕方まで
紫外線量が最も多い時間帯は、午前10時から午後4時頃まで続きます。日焼け止めクリームは、こまめに塗り直しましょう。
ポイント2
紫外線は室内にも
地面や建物に反射してきた紫外線を浴びることもあります。また、窓ガラスも通過してくるので、部屋の中でも日焼けします。室内でも油断は禁物です。
ポイント3
旅行先でも注意
同じ日本でも、南に行くほど紫外線量が多くなっています。北海道と沖縄では、2倍以上の差があります。南方の旅行では、紫外線対策グッズを忘れずに持参しましょう。
ポイント4
曇り空でも対策を
紫外線は雲も通過します。晴れてない日でも、紫外線は地上に降り注いでいるので、対策を怠らないようにしましょう。
解説:中川 浩一
富田林病院
皮膚科部長
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