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2020.05.28
1961年に川崎富作博士が最初の患者と遭遇し、1967年に50例をまとめた論文を発表したことにその歴史が始まり、「川崎病(Kawasaki disease)」という世界共通の病名で呼ばれています。全身の血管に炎症が起きる病気で、いまだに原因不明ですが、微生物が引き金となって発症すると考えられています。
2年に1回行なわれる全国調査(第25回、2019年9月)によると、これまでの総患者数は39万5238人となっています。年々患者数が増加しており、2018年の1万7364人が過去最高でした。
主に乳幼児にみられ、1歳前後が最も多く、4歳以下が80%を占めています。女児より男児に多い傾向があります(女児の1.3~1.5倍)。
川崎病の特徴は、①1歳前後の子どもの病気、②全身に血管炎が起きるが原因不明、③症状のみで診断する、④大量免疫グロブリン療法とアスピリン内服が標準治療、⑤合併症として冠動脈(心臓自身を栄養する血管、これがつまると狭心症や心筋梗塞になる)の拡張や瘤形成が生じることです。
以下の症状が主にみられます。
① 発熱
② 両側眼球結膜(白目)の充血
③ 口唇、口腔所見:口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜の発赤
④ 発疹(BCG接種痕の発赤を含む)
⑤ 四肢末端の変化
《急性期》手足の硬性浮腫、手掌足底または指趾先端の紅斑
《回復期》指先からの膜様落屑(皮がむける)
⑥急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹
この6項目の主要症状のうち、5項目以上が認められれば川崎病と診断します。3~4項目のみでも、ほかの病気による症状ではなく、心エコー(心臓超音波検査)で冠動脈病変がみられれば、不全型川崎病と診断し治療を行ないます。
大量免疫グロブリン療法(抗体である免疫グロブリンを静脈注射)とアスピリン(炎症を抑制する薬)内服が標準治療として行なわれますが、初回の治療で解熱しない例(不応例)が約20%みられます。最も重要な合併症は冠動脈病変(拡張・瘤形成)で、将来の心筋梗塞や不整脈、突然死のリスクになります。
不応例には対しては、免疫グロブリンの追加投与や、プレドニゾロン(ステロイド)、ステロイドパルス(大量のステロイド)、シクロスポリン(免疫抑制剤)、インフリキシマブ(生物学的製剤)、ウリナスタチン(蛋白分解酵素阻害剤)などの血管の炎症を抑える薬剤の投与、血漿交換(血液を血球成分と血漿成分に分離した後、患者さんと健常な人の血漿を置き換える治療)などが行なわれます。近年は不応例を予測するために診断時の検査所見などで点数化(小林スコアなど)してグループ分けし、最初から免疫グロブリンにステロイドや免疫抑制剤を併用するなどの試みがなされ、良い成績が示されています(RAISE study, post RAISE study, KAICA trialなど)。
最終的に後遺症として冠動脈瘤の発症が0.7%にみられます。再発例は4.5%、兄弟や姉妹が発症する同胞例は2%とされています。
発症を見逃さないために知っておくとよいポイントを挙げます。
① 1歳前後の典型例は主要症状がそろうことが多いですが、最初からすべての症状が出るわけではなく、徐々にそろってきます。最初は風邪といわれ4~5日目に川崎病と診断されることはよくあります。
② BCG接種部位の発赤は川崎病に特異的な症状とされ、これを見たらまず川崎病と考えて間違いありません。しかし、3歳以上の子どもの場合は発赤することはあまりなく、参考になりません。
③ 頸部リンパ節腫脹はほかの主要症状に比べて出現頻度が70%前後と低いです。逆に年長児では、発熱と同時あるいは先行して最初の症状として現れます。最初は化膿性リンパ節炎として治療を受け、4~5日目にほかの症状がそろって川崎病と診断されることがよくあります。
④ 生後6カ月未満の低年齢での発症では、37℃台の微熱が続いたり、極端な例では発熱だけだったりするなど、非典型的な経過も多く、なかなか診断されないことがしばしばあります。無菌性膿尿(細菌がいないのに尿が濁る)がみられ、最初は尿路感染症として治療されることもあります。経過でおかしいと思ったら川崎病も念頭に積極的に心エコー(心臓超音波検査)で冠動脈の状態を確認することが重要です。
⑤ 不全型=軽症ではありません。不全型でも冠動脈瘤を形成することがあります。たまに溶連菌やEBウイルス(入院時に異型リンパ球増加)などの細菌・ウイルスが見つかることもあります。その場合も、その感染症の診断のみに流されず、主要症状の4項目を満たせば川崎病の治療に踏み切るべきです。
原因不明のため、川崎病自体を予防することはできません。川崎病は自然解熱するself-limited(自然治癒性)の側面を持ちますが、放っておいたらいつ解熱するか分かりません。そうしているうちに冠動脈病変が後遺症として残るリスクが上がるため、診断後は大量免疫グロブリン療法とアスピリン内服で積極的に治療を行ないます。10日以内に解熱させることが冠動脈後遺症を残さないためのポイントです。川崎病の重症度を冠動脈後遺症の有無で判断するとしたら、冠動脈病変を予防することが川崎病の治療の最大の目的といえます。
解説:高橋 努
宇都宮病院
小児科主任診療科長・予防接種センター長・先天性心疾患センター長
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