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2018.04.19
高血圧が原因で腎臓の血管に動脈硬化を起こし、血管の内腔が狭くなって血液量が減少することで腎臓に障害をもたらす疾患です。腎臓は大きな血管から、糸球体(血液から尿を生成するフィルターのはたらきをする毛細血管)まで、さまざまなサイズの血管が集まっている臓器です。長年の高血圧などにより、腎臓の細小動脈に障害が起こり、その結果、徐々に糸球体が硬化して腎機能が低下します。病気の進行が遅い良性腎硬化症と、急速に症状が悪化する悪性腎硬化症があります。
良性腎硬化症は、本態性高血圧(加齢や遺伝的要因、生活習慣と関連した高血圧)によって、腎臓の血管に動脈硬化を引き起こし、徐々に腎機能の低下をきたしたものです。
一方、悪性腎硬化症は、本態性高血圧以外にも腎血管性高血圧(腎動脈の狭窄による高血圧)などの原因が特定される二次性高血圧の経過中に急激に悪化し、腎障害のみならず心不全や脳血管障害など全身の症状を呈する予後の悪い病気です。
腎硬化症は、日本で透析導入が必要な末期腎不全の主要原疾患として、2016年の時点では第3位で、全体の14.2%を占めています。
良性腎硬化症は多くの場合、本態性高血圧の経過中に尿検査で軽度の尿タンパクを認めますが、尿タンパクが陰性のこともあります。血液検査で腎機能の低下(血中尿素窒素・クレアチニンの上昇)や電解質異常が出現した場合は、腎硬化症の疑いがあります。また、進行例では超音波検査やCTなどの画像検査において、両側の腎臓の萎縮が認められます。確定診断には腎生検(腎臓を細い針で刺して、一部組織を取ってくる検査)が必要になりますが、高齢者の場合、また既に腎臓が萎縮している場合はあまり行なわれません。これまでの高血圧歴と尿検査所見が矛盾しないこと、他の疾患の可能性を否定できた場合に除外診断されることが多いのが現状です。
悪性腎硬化症は、高血圧による腎機能の急速な悪化に加え、眼底検査や心臓機能(心電図、胸部X線、心臓超音波)などで多臓器にわたる異常所見を認めます。眼底所見では高血圧ならびに動脈硬化がある程度判定できます。また、昇圧ホルモンの異常分泌による腎血管性高血圧や、褐色細胞腫などの二次性高血圧が原因となることもあり、鑑別のための検査も必要です。
良性腎硬化症に対しては、高血圧の治療が中心となります。食事療法(減塩食1日6g以下)や運動療法などによる生活習慣の改善、適切な降圧薬による治療を行ないます。降圧目標で推奨されている数値は130/80mmHg未満です。
悪性腎硬化症は、血圧管理とともに適切な全身管理を求められるため、一般に入院安静が必要です。内服による降圧薬が効きにくい場合は注射薬を用いることがあります。
腎硬化症が悪化すると慢性腎不全になる恐れがあります。さらに慢性腎不全から重い尿毒症を発症し、腎臓の機能が10%以下にまで下がってしまうと、人工透析や腎移植などの腎代替療法が必要です。
良性腎硬化症は、自覚症状を伴わない場合が少なくありません。初期の症状は高血圧に伴う頭痛や動悸、肩こり程度です。しかし、腎臓の機能が低下し腎不全を呈した場合には、むくみや倦怠感、食欲不振、貧血、息切れなど、いわゆる尿毒症の症状が出現します。
悪性腎硬化症は、急激な血圧上昇による腎臓機能の悪化とともに、頭痛、めまい、嘔吐などの症状や、時にはけいれん発作や意識障害、急性心不全、眼底出血による視力障害など、全身にわたるさまざまな臓器症状が出現します。適切な治療を行なわないと生命に関わることになります。
予防には血圧の管理が大切です。血圧の管理でまず大切なのが、生活習慣の見直しと改善です。高血圧は、乱れた生活習慣が要因になっていることがあるため、食塩制限、野菜や果物の摂取、コレステロール制限や飽和脂肪酸の制限、適正体重の維持、運動、アルコール制限、禁煙を基本とした非薬物的な治療を第一に行ないます。
塩分は血圧を上げる作用があるだけでなく、心臓や血管にも影響を与えることが知られており、喫煙や過度のアルコールも同様に血圧上昇や血管系への負荷がかかります。これらを控え、ダメージをなるべく抑えることが目標となります。
野菜や果物の摂取、適正体重の維持、運動は血圧を下げる効果があります。野菜や果物に含まれるミネラル類は、低脂肪の乳製品などと組み合わせるとかなりの降圧効果を期待できますが、腎不全が進んでいる場合は血清カリウム値などが上昇して危険な場合もあるので、注意してください。
運動は、軽いウォーキングなどを一日30分程度行なうことで、降圧効果が期待できます。運動が激しくなると血圧が上がることもありますので、行なうときはよく主治医の先生と相談してください。
生活習慣の見直しと改善は高血圧治療で大切な要素ですが、やはり限界があります。そこで生活習慣の改善と並列して行なわれるのが、降圧薬の内服です。降圧薬には多くの種類がありますが、通常一つの薬剤を少量から開始し、血圧や副作用に注意しながら徐々に増やしていきます。しかし、悪性腎硬化症を起こすような重度の高血圧の場合は、最初から多めの量を用いたり、2種以上の降圧薬を併用したりすることもあります。
解説:岡本 昌典
済生会和歌山病院
腎センター部長
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