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2024.05.15
家族性高コレステロール血症とは、生まれつき血液中のLDLコレステロール値が異常に高くなる病気です。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は、肝臓で作られたコレステロールを全身に運搬するはたらきがあり、動脈硬化の大きな原因になります。
この病気はLDLを代謝する遺伝子異常の「遺伝性疾患」です。遺伝子は父親と母親からそれぞれ受け継ぎ、2本1組となって作られています(対立遺伝子)。そのどちらか片方に異常がみられる場合を「ヘテロ接合体」、両方に異常がみられる場合を「ホモ接合体」といいます。ヘテロ接合体のケースは日本国内でおよそ300人に1人程度であるのに対し、ホモ接合体のケースは36~100万人に1人以上と推定されています。家族性高コレステロール血症と診断される人は、血縁者にLDLコレステロールが高く、心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化性疾患の人がいる場合が多く見られます。
ほとんどの患者さんはLDLコレステロール値が高いだけで自覚症状が出にくいため、検査を受ける機会がないと、そのまま放置されやすいです。適切な治療を行なわずにいると、若い頃から動脈硬化が進み、20代や30代で心筋梗塞になることもあります。
身体的な変化としては、コレステロール沈着の影響により、まぶた・手の甲・肘・膝などに「皮膚黄色腫(ひふおうしょくしゅ)」と呼ばれる黄色の隆起がみられたり、アキレス腱肥厚(あきれすけんひこう=アキレス腱の周りにコレステロールが沈着して太くなった状態)が発症したりします。また、黒目の縁に角膜輪(かくまくりん)といわれる白い輪が現れる場合もあります。
ホモ接合体は両親・親族に家族性高コレステロール血症の家族歴があれば速やかに診断されますが、10歳までに前述の皮膚黄色腫が生じることでも診断されることがあります。一方で、ヘテロ接合体は、健診などでLDLコレステロール値が高いと分かり、診断されることがあります。
自覚症状が乏しくても、高コレステロール血症で若くして(男性55歳以下、女性65歳以下)心筋梗塞や狭心症を発症した血縁者がいる場合、まずは健診を受け、上述の身体変化にも注意しましょう。また、ほかの病気でかかりつけの病院がある人は、担当医に相談しましょう。
診断は、LDLコレステロール測定や家族歴、アキレス腱肥厚をもとに行なうことが一般的ですが、一部の施設では保険診療で「遺伝学的検査」を行なうことも可能です。
LDLコレステロールを十分に低下させる治療を継続することが最も重要です。薬物治療はスタチン系に代表される内服薬が一般的ですが、複数の内服薬を使っても十分な改善が得られない場合は注射治療を行ないます。さらに重症なときは、体外循環を用いた透析治療(人工的に血液中の余分な水分や老廃物を除去し、血液をきれいにする方法)を行なうこともあります。同様に、動脈硬化性合併症の有無・進行を定期的に検査していくことも大切です。動脈硬化のリスク管理として、禁煙も必要となります。
ただし、生活習慣病とは全く病態が異なるため、食事・運動療法でLDLコレステロールを改善させることは困難です。運動自体は好ましいですが、無理に体重を落とすような食事制限は、かえって筋量が減ってしまい、サルコペニア(加齢によって筋肉量が減少し、身体機能が低下した状態)やフレイルといわれる状況につながる恐れがあるため、避けましょう。
お子さんで血縁者に家族性高コレステロール血症の人がいる場合は、小児科を受診する際に家族歴があることを医師にお伝えください。ヘテロ接合体のケースは、健診でのLDLコレステロール高値がきっかけで診断されることがありますので、異常を指摘された場合は放置せず、医療機関に相談しましょう。
診断後は治療とともに定期的にLDLコレステロール値を確認し、頸動脈エコーや心電図(負荷心電図)、心エコー、ABI(血圧脈波)検査などで動脈硬化合併症がないか調べます。
遺伝の仕組みから、両親がともに家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の場合、4分の1の確率でホモ接合体のお子さんが生まれます。両親の片方がヘテロ接合体の場合、2分の1の確率でヘテロ接合体が生まれます。そのため、遺伝性疾患は予防することが難しいといわれています。
最も大切なことは、治療を継続して良好なLDLコレステロール値を維持することです。定期的な診断・治療で、心筋梗塞などの動脈硬化性合併症を防ぎ、健康的な生活を継続することを心がけましょう。
解説:臼井 州樹
神奈川県病院
糖尿病内分泌内科 部長 生活習慣病センター長 栄養科部長
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