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2023.05.24
子宮肉腫は、子宮の筋肉や間質(臓器のすぐ下にある結合組織)などの組織から発生する悪性腫瘍で、多くが子宮体部にできます。子宮の入り口部分や子宮内膜から発生する子宮頸がんや子宮体がんとは異なります。
子宮肉腫には「平滑筋肉腫」や「子宮内膜間質肉腫」などがあり、さらに子宮内膜間質肉腫は「低異型度子宮内膜間質肉腫」と「高異型度子宮内膜間質肉腫」に分類されます。
子宮肉腫は子宮体部における悪性腫瘍全体の4~9%にすぎず、子宮肉腫の中で最も多い40%を占める平滑筋肉腫でも、子宮体部の悪性腫瘍の1~2%とまれな病気です。
平滑筋肉腫は予後不良(治療後の経過が良くないこと)といわれ、5年生存率は15~35%とされています。
問題点としては、罹患率の高い良性腫瘍の子宮筋腫との鑑別が困難であることと、症例数が少ないために手術療法以外の治療法が確立していないことが挙げられます。
ここでは主に平滑筋肉腫について説明します。
子宮肉腫特有の症状はありません。腹痛、腫瘤(しゅりゅう=こぶ)感、臓器が圧迫されることによる頻尿など、子宮筋腫と共通した点が多く、必ずしも不正性器出血(月経時以外の出血)を伴うわけではありません。子宮筋腫の術前診断で手術をしたら子宮肉腫であった事例は0.1~0.3%と報告されています。
好発年齢(子宮肉腫にかかりやすい年齢)は、平滑筋肉腫が50歳前後、子宮内膜間質肉腫がそれよりも若年層とされています。
子宮筋腫と診断され経過観察中で、閉経前後に子宮筋腫の増大傾向がみられる場合は注意が必要です。
子宮頸がんや子宮体がんと異なり子宮の表面に病巣ができにくいことから、通常の子宮がん検診や子宮内膜細胞診では診断は困難です。最初に超音波検査で腫瘤を確認し、MRI検査で腫瘤の性質や状態を確認しますが、石灰化や壊死など状態が変化する変性子宮筋腫との違いを見分けるのは非常に困難です。
また、血液検査でLDH(乳酸脱水素酵素)が高値を示すこともありますが、子宮肉腫以外の病気でLDHが上昇することもあるため診断の参考程度にします。施設によっては針生検を行なうこともありますが、手術標本(手術で摘出した組織の一部)でも病理診断が困難な例もあるため、さまざまな検査結果から総合的に診断します。
なお、子宮筋腫はホルモン依存性腫瘍(ホルモンが発生や増殖の原因となる腫瘍)であり、通常、閉経すれば腫瘍は萎縮して積極的な治療は不要となるため、子宮筋腫の診断時に子宮肉腫の除外は最重要項目となります。
明らかに有効な治療法は手術療法のみです。原則的には「子宮全摘出術」と「両側付属器切除術(両側の卵巣と卵管を摘出する手術)」を行ないます。
ただ、低異型度子宮内膜間質肉腫についてはホルモン療法が奏功する例があり、若年者の場合は第一選択となる場合もあります。
平滑筋肉腫は抗がん剤治療が有効でないことが多く、婦人科がん治療の鍵となる抗がん剤「シスプラチン」が奏功しないのが特徴です。別の抗がん剤「ドキソルビシン」の投与による治療を行なうことがありますが、早期の手術による悪性腫瘍の完全切除だけが有効な治療法といえます。
現在、新しい抗がん剤の有効性を検証中です。また、遺伝子診断も進歩して「パゾパニブ」などの分子標的薬(がんの発生・増殖に関わる特定の分子だけに作用する薬)も保険適用となったことから、新薬の開発も含めて今後に期待できそうです。
子宮肉腫特有の症状が少ないため、子宮筋腫として対症療法のみで経過観察されることが問題となっています。子宮筋腫と診断され経過観察中であっても、特に変性子宮筋腫や閉経期子宮筋腫の患者さんはMRI検査を受けることをお勧めします。
残念ながら、効果が明らかな予防法はありません。現状では、早期発見および完全手術が良好な予後につながります。子宮筋腫の患者さんは閉経後も定期的な婦人科検診をお勧めします。
解説:武曽(むそう) 博
千里病院
婦人科部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。