痔は人に言いづらく、密かに悩んでいる人が非常に多い疾患です。放置していると、痛みや出血が悪化し、日常生活に大きな支障をきたす恐れも。本企画では、代表的な痔の種類と症状、最新の治療法をわかりやすく解説するとともに、悪化を招くNGな生活習慣、予防法まで、山形済生病院の磯部秀樹先生が解説します。
痔にはこんなに種類がある!
痛みがない痔や発熱する痔も?
痔のお悩みで病院を受診することに抵抗を感じている方は多いですが、適切な治療が必要な、れっきとした肛門の病気です。いぼ痔、きれ痔、あな痔が「三大痔疾患」といわれています。
最も多くの方がなるのは、いぼ痔で、医学的には痔核(じかく)とも呼びます。海外の研究では男女差はなく、45〜65歳に最も多いという結果が出ています。肛門の内側(直腸側)にできるものは内痔核、外側(皮膚側)にできるものは外痔核といいます。内痔核は進行すると、内側にある粘膜が肛門の外に出てきてしまうこともあります(脱肛)。
また、きれ痔は裂肛(れっこう)とも呼びます。肛門の出口が切れたり、潰瘍ができてしまう症状で、何度も繰り返しているうちに肛門そのものが狭くなってしまう肛門狭窄となる場合があります。
より厄介なのはあな痔(痔ろう)です。直腸と肛門の境目にあるくぼみに細菌が侵入し炎症が広がってしまうと、30%ほどの確率で、膿の通り道となるトンネル(ろう管)がおしりにできてしまいます。こうしたあな痔は基本的に手術が必要になります。

粘膜にできる内痔核は実は痛みがあまりありませんが、排便時に出血があれば内痔核が疑われます。ただし、大腸がんなどでも便に血がつくことがあるため、出血だけではどちらか判断がつきません。痔と勘違いして治療が遅れてしまうケースがあるため、原因がわからない場合は、併せてがん検診も受けていただくことをおすすめします。
対して、外痔核には痛みがあります。血のかたまりである血栓・血豆が大きくなると、激しい痛みを感じることがあります。きれ痔(裂肛)は、ピリピリ、ヒリヒリとした痛みと、排便後に肛門を拭いたトイレットペーパーに真っ赤な血が付着することが特徴です。部分的に切れているため、場所を特定しやすいでしょう。
あな痔は、肛門から1〜2cmくらい離れたところの皮膚が腫れてきます。発熱することもめずらしくなく、腫れた部分が自然に破れて膿が出ることもあり、血が混じることもあります。
「便秘」と「下痢」は肛門への負荷が重大!
痔を引き起こす主な要因は、排便時などの「いきみ」。便秘だけでなく、排便回数が多いことで肛門に負担がかかることも一因であると考えられています。また、意外なところでいうと、仕事などで重い物を持つ人も無意識にいきんでいることが多いため注意が必要です。長距離を運転するドライバーやデスクワークが長時間に及ぶ人は、肛門付近がうっ血しやすく、いぼ痔(痔核)になりやすいといえます。
きれ痔は比較的20〜50代の女性に多いといわれています。こちらも便秘でいきんだり、硬い便が肛門を通ること、逆に下痢をして肛門に急激な圧力がかかってしまうことが一因です。生理周期の影響で便秘や下痢を繰り返してしまうという人もなりやすい種類の痔です。女性はもともとの身体のつくりとして膣と肛門の位置が近いため、位置としてはお腹側が切れやすいという特徴があります。
一方あな痔は、女性の2〜5倍ほど男性に多いとされています。30〜40歳代が約半数を占めます。男性の方が女性と比べ、肛門内の圧力が高いため、くぼみに入り込みやすいことが原因の一つとされています。細菌の侵入から発症するため、お腹を下しやすい方がかかりやすいようです。
炎症性腸疾患、クローン病などの方に併発するケースも目立ちます。痔ろうは放置して10年くらいたつとがん化してしまうこともあるので、早めの受診をしましょう。
なぜ痔になるの? 悪化させるNG生活習慣
こんな習慣がある人は要注意
トイレに長く座る習慣がある人は、痔になりやすいと考えられています。同じ姿勢で何度もいきむことで、肛門付近がうっ血してしまうということが理由です。本来の健康な状態であれば、排便までの時間は目安として30秒、長くても1分程度とされています。それ以上トイレにこもっていてもおしりに負担がかかってしまうので、一度トイレを出て、再び便意を感じたらトイレへ行くようにするとよいでしょう。
スマートフォンや本をトイレに持ち込んで長時間こもる人がいますが、避けることが望ましい習慣です。アメリカの医療機関が行なった調査では、トイレでスマートフォンを使用している人は、そうでない人に比べて痔になるリスクが46%増加するという結果も出ています。
また、アルコールや刺激物の摂りすぎにも注意が必要です。肛門がうっ血する原因になり、便が緩くなるため排便回数が増えて肛門への負担が大きくなり、肛門付近に細菌もつきやすくなります。

セルフケアから受診目安まで。今日から使える治療ガイド
治療薬も活用OK、2週間で治らなければ迷わず受診を
痔は再発しやすい病気です。市販薬を活用することもよいですが、繰り返す場合は迷わず病院で受診してください。目安として、2週間ほどで治り、次に痔の症状が出るまで年単位で期間が開いていれば気に留めなくても構いません。特に3ヶ月くらいで繰り返してしまう場合や、薬では治らないあな痔の場合は、早めに受診することをおすすめします。
・「いぼ痔(痔核)」
内痔核:市販の軟膏でも対処できます。粘膜が肛門の外側に出てきてしまう場合は、市販薬で様子を見つつ、2週間くらいで治らない場合は病院へ。出血が長く続く場合は、大腸がんを見逃すリスクがあるため注意が必要です。
外痔核:出血や痛みがなければ市販薬でも構いませんが、痛みを伴う血栓や血豆ができている場合は病院へ。局所麻酔をした上ですぐ取り除くこともあります。
・「きれ痔(裂肛)」
痛いなと思ったら、市販でも構いませんので軟膏を塗ってください。出血を何度も繰り返す場合や、便が細くなってきたと感じたら病院へ。肛門が人差し指1本分ほど開けば排便に支障ありませんが、それより細くなると肛門狭窄の手術が必要となることがあります。
・「あな痔(痔ろう)」
肛門付近が腫れて膿が溜まっている場合、軟膏などの薬では治りません。病院で膿を出す処置を受けましょう。痔の中で唯一、悪性になる可能性が知られており、炎症を繰り返し、10年以上放置するような場合には、肛門を全摘出しなければならなくなることもあります。
どの種類の痔も「排便コントロール」がカギ
痔の治療には、生活習慣を改善して便秘や下痢にならないようにコントロールし、排便時のいきみを避けることが一番です。普段から心がけることで予防にもなります。
朝食を取らなかったり食べる量が少ないと、排便量が少なくなり、便秘がちになってしまいます。ビフィズス菌の入ったヨーグルトなど整腸剤の役割のある食べ物を摂るのもよいでしょう。規則正しい生活、適度な運動もぜひ心がけたいところです。
それから、湯船に入ることもおすすめです。内痔核の場合、あたたかなお風呂に浸かるだけで腫れや痛みが取れることもあります。

排便時は有名な“あの像”の姿勢で
排便時には、便座に腰をかけて、かかとを少し上げ、前のめりになる姿勢がおすすめです。有名な彫刻作品の「考える人」のポーズをイメージするとわかりやすいでしょう。直腸の周りを囲っている恥骨直腸筋がゆるみ、直腸がまっすぐになる姿勢ですので、スムーズな排便を促してくれます。

安心して受診できる「病院探し」を
肛門科へ足を運ぶことにためらいが大きい人も多いことと思います。専門の医師がどこにいるのかわからないという場合は、日本臨床肛門病学会のウェブサイトをご覧いただくと、都道府県別に医師のリストを見ることができますのでぜひ活用してください。女医が在籍している病院や、レディースクリニックで肛門診療に対応しているところなどもあります。痔以外の病気が隠れていることもありますので、「ここなら安心できる」とご自分で感じられる病院を見つけて、緊張なさらず受診いただけたらと思います。
解説:磯部秀樹先生
山形済生病院
山形済生病院副院長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。
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