済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約67,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、404施設・435事業を運営し、67,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
40都道府県で、病院や診療所などの医療機関をはじめ、高齢者や障害者の支援、更生保護などにかかわる福祉施設を開設・運営。さらに巡回診療船「済生丸」が瀬戸内海の57島の診療活動に携わっています。
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「MAC」とは、「非結核性抗酸菌(NTM)」の一種で、正式名称はMycrobacterium avium complex(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)といいます。
「非結核性抗酸菌(NTM)」が原因となる慢性感染症を「非結核性抗酸菌(肺NTM)症」といい、そのうちMACが主な原因菌となるものを「肺MAC症」とよんでいます。非結核抗酸菌症の罹患率は2007年から2014年にかけて約2.6倍と急増しており、特に感染性が高いMACがその約9割を占めていることがわかっています。
左図:日本医療研究開発機構「プレスリリース(2016年6月7日)」をもとに作成
右図:2014年度厚生労働省厚生労働科学研究委託「非結核性抗酸菌症の疫学・診断・治療に関する研究」をもとに作成
MACを含む非結核性抗酸菌(NTM)は、わかっているだけでも180種類以上存在しています。
日常的に触れる水や土壌、ほこりなどに潜んでおり、それらに含まれる非結核性抗酸菌(NTM)を吸い込んだり、飲み込んだりすることで感染します。多くの場合は自然に体から排出されていきますが、免疫力が低下している人や、もともと肺に疾患がある人などが感染すると発症することがあります。
結核菌と同じ抗酸菌が原因となりますが、結核とは異なり、現在のところせきやくしゃみなどによって他人にうつることはないといわれています。
肺MAC症は、日本では中高年のやせ型の女性に特に多く見られるほか、関節リウマチを患っている人や、長期的にステロイドを使用している人も発症リスクが高いとされています。
感染すると、慢性的なせき、痰、微熱、体重減少などの症状が現れることがあります。結核に比べて症状が軽い場合が多く、慢性的な呼吸器症状として現れるため、病院への受診のタイミングがわかりづらい場合があるかもしれません。また症状はないものの健診や人間ドッグで肺に影が見つかり、その後の検査で診断されるケースも少なくありません。
急速に進行することは少ないですが、放置しておくと10~20年かけて徐々に肺の機能が低下していき、呼吸困難を引き起こすこともあります。重症化すると命に関わることもあるため、早期の発見と治療が大切です。
現在、医療の進歩により、結核の多くは完治が期待できるようになっていますが、肺MAC症を含む肺NTM症においては、結核のように有効な治療法がまだ確立されていません。
そのため現在の肺MAC症の治療の目的は、「病気の進行を遅らせること」や、「症状を軽減し、痰から菌が検出されないこと」となっています。
肺MAC症と診断された場合、治療の開始時期は患者さんの状態によって異なりますが、医師との相談のもと、複数の内服薬の服用を中心に治療が開始されます。
重症の場合は、注射薬が併用されるほか、治療効果が見られない場合や気道からの出血(喀血:かっけつ)がある場合には、まれに手術が検討されます。
肺MAC症治療では、長期間にわたって薬を内服する必要があり、その目安は痰から菌が検出されなくなってから最低一年間といわれています。そのため、発疹、視覚異常、味覚障害、食欲低下などの副作用にも注意する必要があります。定期的な受診と血液検査、患者さん自身が普段の見え方、あるいは耳の聞こえ方に変化がないか、階段などでふらつくことが増えていないかなどを日頃からチェックし、少しでも変わったことがあれば受診することをお勧めします。
基本的に薬での治療を行なう肺MAC症ですが、治療薬の一つ「マクロライド」への耐性(薬剤耐性)を持つ細菌の存在が、近年問題となっています。
このマクロライド耐性を持つMACに感染すると治療が難しくなり、症状の悪化など発症後の経過が悪くなるケースが報告されています。また、治療中に服用を忘れたり中断したりすると、菌が耐性化してしまうケースもあります。耐性菌の発生を防ぐためには治療をきちんと継続し、薬を飲み忘れないようにしましょう。
人から人へうつることのない肺MAC症への感染を予防するためには、免疫力の維持が重要です。バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠など健康的な生活習慣を心がけ、免疫機能をしっかりサポートしましょう。また、土や水回りといったMACが住みつきやすい場所、例えば自宅のお風呂場やシャワーヘッドなどを定期的に掃除して清潔に保つことも、感染予防として効果的です。菌を吸い込まないように、掃除中はなるべくマスクを着用してください。
2021年、肺MAC症の治療に有効な「アリケイスⓇ」という新しいタイプの吸入薬が登場しました。この薬は、標準の治療で効果が見られない際に、内服薬と組み合わせて使われます。専用の吸入器を使用することで肺の奥まで薬が届き、MACに直接作用します。この「アリケイスⓇ」はまだ高額で、使用にはメンテナンスなどの手間がかかるという問題点もありますが、肺MAC症治療の選択肢が広がったことは大きな進歩といえるでしょう。
毎年8月4日は、肺NTM症の認知度向上を目指す「世界NTMデー(World NTM Awareness Day)」です。せきや痰、息苦しさなどの呼吸器症状が続いている方は、ぜひこの機会に医師に相談してみてはいかがでしょうか?
解説:南條友央太
川口総合病院
呼吸器内科 主任部長
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