「オーラルフレイル」とは、滑舌が悪くなる、食べ物が飲み込みにくいといった口腔機能の衰えのことです。放置すると、栄養状態の悪化や認知機能の低下など、さまざまな健康リスクにつながる可能性があります。この特集では、オーラルフレイルの原因、症状、セルフチェックの方法に加え、ご自宅でできる改善策について、福岡総合病院の言語聴覚士・粟屋真理先生がご紹介します。
オーラルフレイルってどんな状態?
●口の力が衰えはじめたサイン
「オーラル」とは「口の」という意味、「フレイル」とは「虚弱」や「衰弱」という意味の言葉で、オーラルフレイルは、まだ病気と診断されてはいないものの、口周りの運動機能が衰えはじめた状態のことです。具体的には、食べ物が飲み込みづらくなった、食べこぼしが増えた、滑舌が悪くなったなどの症状が現れます。
年齢を重ねると、誰でも口の中の力が衰えていきます。噛む力、飲み込む力、舌の力、唇の動きといった機能です。筋力の低下だけでなく、歯が抜けて欠損が生じたり、唾液の分泌が減ってしまうなど、さまざまな原因があります。一方で、オーラルフレイルは、衰えのサインに早く気がついて対策をすれば、多くの場合、病気などに抵抗するための潜在的な力「予備能力」での改善や回復が可能です。オーラルフレイルの状態を放置してしまうと、「要介護」状態となり、健康な口に回復することが難しくなりますので、しっかりと対策することが大切です。
●オーラルフレイルが起こす“負の連鎖”に注意!
オーラルフレイルの状態になると、ただ飲み込みづらい、食事がしづらいというだけではなく、さまざまな場面で悪循環が生まれやすくなります。十分に食べられないことで栄養不足に陥ったり、口の中の衛生環境が悪いことで誤嚥性肺炎の危険性も高まります。
さらに、身体機能以外のところにも影響は現れます。しっかり噛めないことで、脳への刺激が減り、認知症のリスクを高めたり、発話が不明瞭なために聞き返されてしまうことが億劫になることで、外出が減り、社会から孤立していったりすることもめずらしくありません。オーラルフレイルから、社会とのつながりが減って孤立してしまうという状況まで、負の連鎖が広がっていく可能性もあるのです。
オーラルフレイル「セルフチェック」をしてみよう
●5つの項目で口腔機能をチェック!
オーラルフレイルかどうか自分で確認する一般的な方法には、「オーラルフレイル5チェック」というものがあります。
☐ 残っている歯が20本未満になったか
☐ 半年前と比べて固いものが食べにくくなったか
☐ お茶や汁物でむせることがあるか
☐ 口の中の乾燥が気になるか
☐ 発話が不明瞭になっているか
という5つの項目のうち、2つ以上該当する場合は、フレイルの可能性があり、注意が必要とされています。
また、自分ではわからないことも多いため、家族など周りの人が気づいてあげることも大切です。例えば、「最近やわらかいものばかり食べるようになった」「食事に時間がかかるようになった」「食べこぼしが増えた」「痩せてきた」「話す言葉が聞き取りづらくなった」といった様子はありませんか。
オーラルフレイルは加齢とともに誰にでも起こりうるもので、一般的に65歳以上で増える傾向があります。気になる変化があれば、早めに専門家に相談することが、健康寿命を延ばす第一歩になります。
●気になる場合は、かかりつけ医や歯科へ相談!
セルフチェックでオーラルフレイルの疑いがある場合は、まずはかかりつけ医や歯科へ相談されるのが一般的です。必要に応じて耳鼻咽喉科や嚥下外来など専門的に評価・治療を行っている医療機関を紹介されることもあります。病院によっては嚥下内視鏡を行なっているところもありますので、専門職に相談しながら適切な医療機関につながることが大切です。
医療機関を受診された際は、まず医師の診察・診断を受けていただき、その上で必要に応じて言語聴覚士(ST)が評価やリハビリを担当します。STはことばや聞こえ、摂食嚥下(飲み込み)機能に関する検査を行ない、その結果に基づいてリハビリや日常生活をサポートします。また、リハビリの中では口腔内の乾燥や衛生面、入れ歯や歯の状態も確認し、必要があれば歯科や歯科衛生士等多職種と連携し、安心して食べたり飲んだり出来る口腔環境づくりをお手伝いします。
病院で行なう飲み込みの評価方法のひとつに「反復唾液嚥下テスト」があります。これは道具を使わずに出来るため、自宅でも試すことが出来ます。方法は30秒間に唾液を何回飲み込めるかを測定するだけです。3回以上飲み込めれば、おおむね問題ないと考えられます。このテストは嚥下機能そのものを直接評価するものではありませんが、簡単に出来るチェック方法の一つとして有効ですので、参考にしてみてください。
自宅でできるオーラルフレイル予防
●健康な口腔環境づくりは、日常生活の積み重ねから
日々の生活で、ぜひ気にかけていただきたいことが3つあります。
1つ目は、よく食べること。高齢の方は特に痩せないことがとても大切です。高齢になると食欲が落ちたり、食事量が減ったりしやすく、体重減少や低栄養状態に陥ってしまうことがあります。筋力を維持するために、たんぱく質をはじめとする様々な栄養素をしっかり摂ることが大切です。また「トイレが近くなるから」と水分を控える方もいますが、水分不足は脱水や口腔内乾燥を招いてしまうため、小まめな水分摂取を心がけましょう。
2つ目は、口の中の環境を整え、清潔に保つこと。歯科での定期健診は虫歯や歯周病の予防だけでなく「食べるための口」を維持するためには欠かせません。臨床の現場でも、入れ歯が壊れていたり、歯茎が痩せて合わなくなった入れ歯を我慢して使い続けている方によく出会います。合わない入れ歯は噛みにくさや痛みを引き起こし、結果として食事摂取量が減り栄養不足につながることも少なくありません。口腔への意識を持つことは、高齢の方に限らず、若い方にとっても将来の健康につながります。日常の歯磨きに加え、定期的な歯科受診で「食べるための口」を守っていきましょう。
3つ目は声を出すこと、他者とコミュニケーションをとること。発声や会話は口の動きや舌の運動を自然に動かし、口腔機能の維持につながります。また人と関わることで社会とのつながりを維持し、脳の活性化させます。外出や人との交流が難しい場合には、本の音読や歌を歌うことも効果があります。
●手軽な運動で口の力を鍛えよう
口や舌の運動は、どこでも自分で気楽にできるオーラルフレイルの予防方法です。いくつかご紹介しますので、ぜひ試してみてください。どの運動でもよいですし、いくつかを組み合わせても構いません。すると決めて、習慣化してみることが大切です。1日1回、例えば15分と時間を決めて、無理なく日常生活に取り入れてみましょう。毎日続けることで、「最近しづらくなった」と変化に気づくこともできます。
●口は人生を豊かにしてくれる器官
オーラルフレイルは、早期に気づいて、適切に対策を行なうことで、口腔機能の低下や低栄養、口の中にとどまらない心身機能の低下という負の連鎖を断ち切ることができます。
元気なうちから定期的に歯科を受診し、歯や入れ歯の状態を整えることは「何でも噛める、食べられる口」を保つためには欠かせません。実際に、日本では在宅で暮らす高齢者の約2割がオーラルフレイルに該当するという報告もあります。私自身、患者さんの口の中を拝見していると、歯が失われていたり、入れ歯が合っていなかったり、歯周病が放置されていたりと、口腔内環境が整っている方が少ないことに驚かされます。
口は、美味しく食べる、楽しく話すなど、人生を豊かにしてくれる大切な器官です。みなさんがいつまでも自分らしく、豊かな人生を楽しむことができるように、今からオーラフルフレイル予防に取り組んでいただけたらと思います。
解説:粟屋真理
福岡総合病院
言語聴覚士
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。
病気解説特集
- 飲み込みづらい? 食べこぼしが増えた? それって「オーラルフレイル」かも!? 2025.09.25
- 日本人が最も多くかかる「大腸がん」は早期発見がカギ。大腸がん検診の“今” 2025.08.19
- 今年も暑い夏が到来! 熱中症対策に有効な「暑熱順化」を知っていますか? 2025.07.03
- せきや痰が長引く場合は要注意! 国内で急増中の「肺MAC症」とは? 2025.06.18
- 雨の日に頭痛や動悸、倦怠感…それって「気象病」かも? 知っておきたい予防法と対策 2025.05.21
- 正しく知ろう! 子宮頸がんを予防する 「HPVワクチン」ってどんなもの? 2025.04.15
- 休日は元気だけど、仕事になると気分が落ち込む 「非定型うつ病」の実態と対処法 2025.03.26
- そのアクションが命を救う! 私たちにもできる救命救急のキホン 2025.03.05
- なんとなく受けてはいるけど…… 実はあまり知られていない健康診断の常識 2025.01.31
- ヒートショック、低体温、生活習慣病悪化…… 高齢者が気を付けたい 冬の健康管理 2024.12.27
- すべて見る