「大腸がん」は日本人が最も多く罹患するがんといわれており、死亡数は年々増加しています。しかし、大腸がんは早期に発見すれば高い確率で治療が可能な病気でもあります。この記事では、検診の効果や最新の検診方法など大腸がん検診の“今”を唐津病院内科副部長の樋髙秀憲先生が解説します。
なぜ大腸がんが増えているのか
●大腸がんはどんな病気?
大腸がんは、大腸(結腸や直腸)の粘膜から発生する悪性腫瘍です。
初期段階ではほとんど自覚症状がなく、気づいたときには進行していることが多いがんといわれています。一番初めに大腸がんに気づくポイントは「血便」です。暗赤色(あんせきしょく)の血液が便に混じったり、黒い血塊が出たりすることがあります。
しかし、肛門から離れた盲腸がんや上行結腸がんの場合、血便を自覚することも少なく、貧血症状が出てきて初めて気がつくこともあります。そこからさらにがんが進行してしまうと、がんによる腸閉塞症状から嘔吐(おうと)の症状が出たり、肺や肝臓に大腸がんが転移して腫瘤(しこりや塊)ができてから発見される事例もあります。
●大腸がんは日本人が最も多くかかるがん
日本における大腸がんの罹患数・死亡数は年々増加しており、男女計の罹患数と死亡数の年次推移を見ると、1975年から男女ともに増加傾向であることが分かります。2023年の統計では、部位別のがん死亡数は男性では2位、女性では1位と、どちらも上位を占めています。

参考:国立がん研究センターがん情報サービス(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/67_colorectal.html)
●なぜ大腸がんが増加している?
大腸がんの罹患数が増加している背景には、肉類や脂肪の多い食事を多く摂るようになった「食の欧米化」に加え、運動不足、肥満、喫煙、過度な飲酒といった不健康な生活習慣が主な要因だとされています。それに比べて低い割合ではありますが、近親者に大腸がんになった人がいる場合、遺伝的な影響で発症リスクが高まることもわかっています。
また、国立がんセンターなどの研究で大腸がんは、50歳以上になると罹患率が高まるという結果もあり、厚生労働省では40歳以上の方に対して年に1回の大腸がん検診を推奨しています。自治体や職場の健康診断で受診できる場合もあるので、機会を逃さずに受診することが大切です。
大腸がんは検診で「予防」できる病気
●検診によるがん死亡率の減少効果
大腸がんは、早期に発見し、治療することで高い確率で完治が可能な病気です。しかし、前述通り、初期段階では自覚症状がほとんどないため、症状が出る前に定期的な検診を受けることが最も重要です。
日本国内の研究では、大腸がん検診を受けた人は受けなかった人に比べて、大腸がんによる死亡率が約70%減少することが示されています。一次検査(スクリーニング検査)として広く実施されている便潜血検査(便中の血液を調べる検査)を受けたグループでは、早期発見により進行した状態での診断が減り、結果的に死亡率が抑えられたとされています。また、ランダム化比較試験(RCT)を用いた国際的な研究でも同様のことが報告されています。
大腸がん検診の現在
●さまざまな検診方法
大腸がん検診には、便中の血液を調べる「便潜血検査」や、スコープを挿入して腸内の粘膜を直接観察する「大腸内視鏡検査」など、いくつかの方法があります。一般的には、まず便潜血検査を受け、その結果が陽性であれば大腸内視鏡検査を受けるという流れになります。
患者さんによっては、大腸内視鏡検査時に腹痛が強かったり、腸管自体が長く深部大腸までスコープを挿入出来ないケースもまれにあります。そのような方の場合は、X線検査やCTコロノグラフィーをお勧めしています。また、ご高齢で大量の下剤を服用出来ない方などにも、X線検査やCTコロノグラフィーを行なうことがあります。
しかし、X線検査やCTで何か病変が見つかった場合は、必ず大腸内視鏡検査で精査が必要となります。内視鏡は、観察と同時に組織検査やポリペクトミー(内視鏡を用いてポリープを切除する手術)など、正確な診断と治療もできるので、便潜血検査からの大腸内視鏡検査が推奨されています。また、家族歴がある方や過去にポリープを指摘されたことがある方は、定期的に内視鏡検査を受けることが望ましいとされています。
では、実際の検診の流れに沿って、それぞれの特徴を見ていきましょう。
●「大腸がん検診」は痛い?
過去に腹部の手術歴がある患者さんや以前強い炎症を起こしたことがある患者さんなどは腸管癒着があり、検査による疼痛が強く出やすくなります。しかし、実際には個人差もありますし、程度も我慢できる痛みのこともあれば、強い痛みを感じてしまう方もいます。腹部手術歴のある方や大腸内視鏡検査で疼痛が強かったという経験をお持ちの方はあらかじめ希望を確認して鎮静剤を使用し、眠った状態で検査を行なうことも可能です。
●大腸がん対策の三つのポイント
大腸がんは早期発見することで治療が可能な病気です。血便や便通異常(便秘や下痢を繰り返す、便の狭小化)、腹痛などの症状がある場合は検診を待たずに、医療機関で、検査を受けることをお勧めします。
健康を守るためにも、特に以下三つのポイントに留意しましょう。
解説:樋髙秀憲
唐津病院
内科 副部長(光学診療副部長)
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。
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