2025.11.19

体を大切にすることは、未来を大切にすること。 「プレコンセプションケア」を知っていますか?

子どもを持つことを希望している人も、将来その可能性がある人も、男女問わず、自分の健康を考える「プレコンセプションケア」が注目されています。WHO(世界保健機関)は「妊娠前の女性やカップルに対して、医学的、行動学的、社会的な保健介入を行なうこと」と定義して、世界的に推奨しています。プレコンセプションケア外来を開設している中央病院・産婦人科の柏原美季先生がわかりやすく解説します。

プレコンセプションケアって何?

妊娠する前から、自分の健康に目を向けよう

「プレコンセプションケア」という言葉をはじめて知る方も多いと思います。 「プレ」は「前」、「コンセプション」は「受胎・妊娠」を意味する単語。つまり、妊娠前に行なうケアのことです。女性も男性も、妊娠・出産を具体的に希望する前から自分の体のことを知り、そして、生活習慣の見直しや治療が必要な場合はきちんと対処していこうという、ケアのあり方を示す言葉です。

当院では、2023年、産婦人科内にプレコンセプションケア外来を開設しました。
全国的に見ると、外来の数自体がまだ少なく、自分で予約して受診する方よりも産婦人科から紹介を受けていらっしゃる方が目立ちます。実は一般の方の認知度はまだ1割にも満たない状態で、国や自治体も、普及のための取り組みを進めているところです。「どうしてプレコンセプションケアが必要なのか」「どういった人にとって大切なのか」という周知が、これからますます求められています。

自治体、企業の取り組みが近年盛んに

日本では、この2、3年の間で、「プレコンセプションケア」という言葉が目立って使われはじめました。その背景には、妊娠に向けた体づくりへの関心の高まりがあります。

女性の社会進出に伴って、第一子の妊娠年齢は30歳を超えてきています。その状況をふまえ、2022年から不妊治療の多くが保険適用となったことで、30代後半や40代でも妊娠を望みやすい環境が整備されてきました。出生率も低下していますから、国としては底上げしていきたいという事情もあるでしょう。しかし、妊娠できる年齢には限度がありますから、早いうちから妊娠に向けた体づくりをして、妊娠を望んだときにすぐできるようにケアしておくことが何より大切です。

自治体の先頭を切って動きはじめたのは東京都で、20〜30代の男女に向けて「TOKYOプレコンゼミ」を開催しています。妊娠・出産にまつわる知識を学び、受講すると、妊娠・出産前のヘルスチェック支援として、検査費用の助成も受けられるという仕組みです。いくつかの自治体では卵子凍結にかかる費用の助成も行なっているようです。

また、女性のヘルスケアに重きを置く企業も増えてきています。産休や生理休暇、不妊治療のための休暇を取りやすい環境整備だけでなく、社員向けのセミナーを開催する企業もあります。男性の上司や管理職に、自分からは言い出しづらい女性社員の気持ちを代弁する意味も含めて、わたしたち医師が企業に講演に伺うこともあります。

ケアのはじめどきと診療内容

「いつか子どもがほしいかも」と思ったら……

今の時点で子どもを望んでいるかどうかではなく、「いつか妊娠を望むかもしれない」という人が自分の体の状況を知っておくことはとても大切です。また、「授かりたいのになかなか妊娠できない」という人であれば、詳しく検査をしてみて、どうすれば妊娠しやすい体質になるのかを一緒に考えることもできます。

外来でよくお聞きするのは、こんなお悩みです。

こういった悩みを解決するひとつの目安として、今後のライフプランを考えはじめた時期や将来的な妊娠を考えたタイミングで、自分の健康に目を向けていただくことをおすすめしています。20代後半でも早すぎることはまったくありません。理想的には、学生時代の性教育からプレコンセプションケアにつなげられると、妊娠についても深く考えることができるため、これから教育が広がっていくことにも期待を寄せています。

自分の体を知る検査で不安をクリアに

プレコンセプションケア外来では、体の状況を知るための検査をしたり、ご本人の希望や悩みをお聞きしたりして一緒に考え、検査などを行ないながら、医療の専門家としてアドバイスをします。

よく行なう検査としては、卵巣年齢の計測があり、残りの卵子の概算数等を評価します。35歳を超えると卵子の数が一気に減ることや、もともと少ない方がいることもわかっています。妊娠できるかどうかは卵子の数と質にも深く関係しますから、一番若い時点の卵子を凍結して、そこから妊娠までの近道を一緒に考えるというケースが多くあります。

ほかにも、感染症の検査、異常があると妊娠しづらくなる甲状腺の検査、風疹ワクチンを妊娠前に打つべきか調べる検査、アルブミンやタンパク質といった栄養の指標となる数値を調べたり、尿検査も行ないます。調べた結果、妊娠しづらい体質だとわかったら、まずは生活習慣などを改善していくよう専門家としてアドバイスし、不妊治療を希望される場合はクリニックへとおつなぎします。

かかりつけ医を見つけて、基本のセルフケアで体づくり

食事、運動、睡眠が健康の三本柱

健康は、食事、運動、睡眠の三本柱で成り立ちます。まずはしっかり見つめ直していただきたいポイントです。妊娠する前から取っていただきたい栄養としては、葉酸、ビタミンDなどがあります。サプリを摂取する方法もありますが、3食しっかり食事から取っていただくのが理想的です。葉酸はレバーやほうれん草などの緑黄色野菜、ビタミンDは魚類、キノコ類などに豊富に含まれているので、積極的に料理に取り入れてみてください。

運動については、30分ほどの運動を週に2日以上を目安にしてみてください。日本人は痩せすぎの傾向があるので、太り過ぎだけでなく、適正体重より痩せてしまうのもよくないという意識をしっかり持っていただくのがよいでしょう。逆に妊娠中に太りすぎてしまうと、出産時にトラブルになることもあります。
そして、1日8時間以上睡眠を取って、ストレスなく、しっかり休息を取りながら毎日を過ごすことが大切です。

生理の悩みがあるなら気軽に婦人科へ

生理のトラブルは、プレコンセプションケアの入口になる体からの重要なサインです。ところが、10代や20代の方は悩みがあっても言えなかったり、親御さんが「そんなものだから我慢しなさい」「痛み止めは“くせ”になるから飲み過ぎちゃだめ」と誤った情報を伝えて、お子さんのSOSを意図せずブロックしてしまうケースが残念ながら少なくありません。痛み止めを使用することは医学的に理にかなっていますし、一方で、毎回市販薬が必要なほど痛むようなら婦人科の受診が必要です。

低用量ピルについても、まだまだ間違った認識を持たれている方が多いですが、避妊だけでなく、生理痛や月経前症候群(PMS)、月経周期を安定させるために使われる薬でもあります。高校生以上であれば一般的に成長への影響は心配いらないと考えられていますが、体質や持病などによっては服用が適さない場合もあります。解決策の一手段として視野にいれてみてください。

「こんなにお腹が痛いのはなぜだろう」「月に何度も生理が来るのはなぜだろう」といった疑問がひとつでもあるなら、解決する手段を一緒に見つけてくれる婦人科の先生を探してほしいと思います。

まずはかかりつけ医を持とう

女性のみなさんに特にお伝えしたいのは、婦人科のかかりつけ医を持っていただきたいということです。
内診台に上がる怖さや嫌悪感が高いハードルになっているとよく耳にしますが、必ずしも内診台に上がっていただくわけではありませんし、ご本人が嫌な場合はほかの検査で代用できることもあります。わたしたち医師も、受診のハードルをなるべく低くして、気軽に何でも相談できるような環境づくりを目指しているところです。

男性のみなさんも、実は同じです。妊娠は女性のこと、と思いがちですが、不妊の原因は男女半々と言われています。妊娠前から、男性の健康も重要なのだと認識していただきたいなと思います。パートナーが産婦人科に行くときは積極的に一緒に行くという姿勢は絶対に大切ですし、不妊治療をしているクリニックで検査を受けていただくのもとても良いと思います。

プレコンセプションケアに関連して、更年期を迎えられる方も同様に、自分の体をケアするという発想をぜひ持っていただきたいです。日本では、更年期障害などの症状を自覚される方が全体の7割ほどと言われていますが、その中で、治療や医師への相談など何か行動をしている人は1割ほどに留まっています。セルフケアとして、更年期のトラブルや違和感も婦人科に来ていただけたら、提案できることがたくさんあります。

近くにプレコンセプションケア外来や、プレコンセプションケアという言葉を謳っている婦人科がないという方もたくさんいらっしゃると思います。どの婦人科の医師もプレコンセプションケアに取り組んでいますから、心配せず、ぜひ身近な婦人科を気軽に受診してください。

解説:柏原美季先生
中央病院
産婦人科

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。

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