社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2018.04.05

 

急性腎不全

acute renal failure

解説:岡本 昌典 (済生会和歌山病院 腎センター部長)

急性腎不全はこんな病気

何らかの原因によって腎臓の機能が急激に(1日以内から数週間のうちに)低下し、その結果、体液の量を一定に維持できなくなった状態です。腎臓には本来、血液中の老廃物や余分な水分を尿という形で体外に排泄するはたらきがあります。急にこれらの機能が低下すると、過剰な水分の蓄積や電解質※1の異常を招き、生命に危険を及ぼす重篤な状態になります。近年は手術や重症の感染症によって、全身のさまざまな臓器が障害を受ける多臓器不全の一部として発症することが多くなっています。

症状としては、尿量の減少あるいは無尿、血尿、褐色調の尿、吐き気食欲不振、全身倦怠感、意欲減退、痙攣(けいれん)などがあります。医療機関で採血した結果、急性腎不全と診断される場合もあります。原因はさまざまですが、大きく3つに分類され (表1参照)、この分類は治療法にも深く関連しています。

※1電解質:血液や体液に含まれる物質で、腎臓のはたらきによって体内で一定の量を保っている

表1:急性腎不全の原因

①腎前性(腎臓への血流の低下):
全身の血液の循環が悪くなることで、腎臓に流れ込む血液量が減少し、血液をろ過する機能が低下している状態

<症例>

    • 出血、下痢、多量発汗、嘔吐、熱傷などによる循環血液量の減少
    • 心筋梗塞、心筋炎、心不全などによる心臓のポンプ作用の低下
    • 利尿薬、非ステロイド系消炎鎮痛薬などによる腎血流量の減少など

②腎性(腎臓の細胞障害):
腎臓そのものが障害を受け、機能が低下している状態

<症例>

    • 急性糸球体腎炎、急性間質性腎炎などの腎臓自体を侵す病気
    • 薬物、造影剤、毒物などの有害物質
    • 重篤な全身性の感染症によって障害を受け、腎臓のはたらきが停止するなど

③腎後性(尿路の閉塞):
腎臓でつくられた尿を体外へ排泄するための経路(尿管、膀胱、尿道など)が閉塞し、腎臓に尿がたまって腎機能が低下している状態

<症例>

急性腎不全の治療法

適切な治療を行なって腎臓の機能を悪化させた原因を取り除くことができれば、回復する可能性があります。多くの場合、入院して治療を受ける必要があります。原因に対する治療を第一に行ない、腎機能が回復するまで、腎不全によって破綻した体内の内部環境を維持することが重要です。また、腎機能障害が高度の場合には、血液浄化療法(人工透析)を実施しながら、原因に対する治療を行ないます。

表2:原因ごとの治療法

原因 症例 治療法
①腎前性 脱水、大量出血などによる循環血液量減少 適切な輸液、輸血
心不全などの症例 心拍出量を増加させるカテコラミンなどの昇圧剤の服薬
②腎性 急速進行性糸球体腎炎、急性間質性腎炎 ステロイドを中心とした強力な免疫抑制療法
薬剤など 原因薬剤の服薬中止
③腎後性 尿路閉塞 原因除去(尿路結石、腫瘍、前立腺肥大症などの治療)、尿管カテーテル挿入・腎瘻造設などによる閉塞の解除

いずれにしても、原因に対する治療を行なわなければ自然回復できず、慢性腎不全に移行してしまいます。原因の除去が治療の中心ですが、効果が出るまでの間は、腎不全の管理が特に重要です。体液量の評価を十分に行なったうえで、栄養管理に努め、食事療法や補助的な薬物療法を併用します。乏尿(尿の出が悪くなること)が続いたり、尿毒症による症状がみられる場合には、透析を開始します。透析が必要になるのは腎臓が機能を回復するまでの一定期間だけのこともあり、通常は数日から数週間で回復します。

岡本 昌典

解説:岡本 昌典
済生会和歌山病院
腎センター部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。

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