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大人になってから発症する食物アレルギー(成人食物アレルギー)。消費者庁の調査によると、子どもの食物アレルギーに比べて数は少ないものの、20歳以降では20代が多く、30代、40代と年代が上がるに連れて減少していくようです。
アレルギーの原因となる食物は、子どもと大人で異なります。子どもの頃は「鶏卵」「牛乳」「木の実類」が原因食物の上位を占めますが、18歳以降になると「小麦」「甲殻類」「果実類」「魚類」に代わります。
成人食物アレルギーの代表的な症状は、主に次の3つに分類されます。
① 即時型症状(いわゆる一般的なアレルギー症状)
成人食物アレルギーの場合でも、一般的なアレルギー症状が最も多いです。具体的には皮膚症状(蕁麻疹、腫れ、かゆみ、湿疹など)、呼吸器症状(せき、喘鳴、喉の違和感など)がよくみられます。このほかにも、下痢や血圧低下などアレルギーと分かりづらい症状もあります。
② 口腔アレルギー症候群(OAS)
果物などが原因で現れやすいとされる症状です。口内や喉などにかゆみや腫れ、イガイガ感などが生じます。成人食物アレルギーの特徴的な症状の一つとされます。
③ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
原因食物を食べた後で、運動することによってアナフィラキシー(ショック症状)を起こします。不明な点が多い症状ですが、運動により腸内の活動が促進されることで、未消化のアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質=抗原)が体内に吸収されやすくなるのではないかといわれています。
成人食物アレルギーの症状で特に覚えておきたいのが、③のFDEIAです。
発症はまれですが、いったん症状が現れると命にかかわる重篤な症状が出ることがあり、救急処置が必要になることも珍しくありません。FDEIAの原因食物としては小麦、甲殻類、果物が多く、食後の運動以外に、疲労、寝不足、かぜ、ストレス、月経前症状、アスピリン服用などで症状を誘発することもあり、注意が必要です。
検査においては、アレルギーの原因となる食物を特定することが大切です。
上記のうち血液検査については、精度の高い抗原検査方法が一部で確立されており、アレルゲンとなる食物をかなりピンポイントで絞り込むことも可能になっています。
食物アレルギーの発症メカニズムは、子どもも大人も、大きく変わらないと考えられています。
アレルゲンに反応したIgE抗体がマスト細胞と結びつき、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されることでアレルギー症状が現れます。
環境の変化と免疫システムの関係
免疫反応にかかわるT細胞(白血球の一種)には「Th1」と「Th2」の2種類があり、このバランスがアレルギーの発症しやすさに関係するといわれています。
かつては感染症から身体を守る役割を果たすTh1細胞が主体でしたが、年々衛生環境が整って感染症が激減したことで、Th1細胞の出番が減ります。その代わりに、アレルゲンに反応して抗体を作るTh2細胞のはたらきが優位になってきました。これにより、本来攻撃対象ではなかった食物成分に対して免疫系が過剰に反応するようになり、いろいろな食べ物にアレルギー反応を示すと推測されています。
成人食物アレルギーは花粉症との関連が指摘されています。
花粉と果物ではアレルゲンの構造が似ています。そのため花粉症の人が果物を食べた際に、花粉のアレルゲンが体内に入ったと間違え(交差反応)、アレルギー反応が生じるのです。実際、花粉症の一部の人は、成人食物アレルギーを発症しやすいともいわれています。
成人食物アレルギーの治療法は一般的なアレルギー治療が基本になります。まずは問診やアレルギー検査で特定された食物は、(必要に応じて食物経口負荷試験に基づいて)必要最小限の摂取に制限することが重要です。これだけで症状が治まり、普通に生活を送れるケースも多いです。
アレルギーによる各症状については、例えば蕁麻疹には抗ヒスタミン剤を用いたり、喘鳴がひどいときはステロイド系の薬でおさえるなど対症療法を行ないます。
FDEIAなどによるアナフィラキシーの恐れがある場合は、エピネフリン自己注射「エピペン」を携帯しておく必要もあります。
成人食物アレルギーを予防する上で、食物アレルギーが子どもに限ったものではないことを知っておくのが重要です。実際、成人食物アレルギーという言葉は知らずとも、「自分の体調不良は食物が原因なのでは?」と感じて医療機関を受診する人は少なくありません。
成人以降にアレルギー症状がたびたび現れるようになった人は、食べた物と体調の関係を記録するなどしてセルフチェックを行なうのもお勧めです。
また、先述の「IgE抗体」の有無を調べる血液検査は、自分がどの食物でアレルギーを発症するかを確認するのに役立ちます。気になる人は病院で検査を受けてみるのも予防策の一つといえるでしょう。
参考サイト
令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書 令和4年3月 消費者庁
厚労省 第4章 食物アレルギー
厚生労働科学研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022
食物アレルギーの診療の手引き2020
解説:山村 昌弘
岡山済生会総合病院
診療顧問 リウマチ・膠原病センター長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。